日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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臨床報告
咀嚼と発音障害に対して機能回復を行った症例
坂元 麻衣子秋山 仁志
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2016 年 36 巻 3 号 p. 202-

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抄録

咀嚼と発音障害が認められる患者の発音明瞭度を調べるためにパラトグラム法を用いて上顎全部床義歯の口蓋研磨面形態を適切に形成し,咀嚼と発音機能の回復を試みた.患者は全部床義歯の適合不良による咀嚼と発音障害を主訴として来院した.義歯後縁部の修理とティッシュコンディショニング材による粘膜調整を行った後,上下顎無歯顎補綴治療を行った.ろう義歯試適時,舌と口蓋の接触を調べるためにパラトグラム法を行い,口蓋研磨面形態の確認とフィニッシュラインの位置決定を行った.パラトグラム法を用いて発音障害を生じない位置にフィニッシュラインを設定し,S 字状隆起を適切に付与することで,新義歯装着直後より明確な発音を行えることが可能となった.製作した上下顎金属床全部床義歯の維持,安定,支持は極めて良好であることが認められた.患者からの聴取により発語,咀嚼に際して上下顎全部床金属床義歯装着後,直ちに口腔環境に順応ができたことが判明した.摂取可能食品質問表により,初診時の咀嚼スコアは31.8 であったが,新義歯装着後の咀嚼スコアは89.3 となり,大幅に改善したことが認められた.また,舌と口蓋の接触域の記録によりパラトグラム法は上顎全部床義歯患者の音声評価と機能評価を行うのに簡便かつ有用な診断ツールであることが認められた.

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© 2016 特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
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