2016 年 36 巻 3 号 p. 213-
食事介助をしている夫人が,食事に長い時間がかかると訴えて夫を連れて来院した.夫は,長期間にわたって総義歯を装着し,装着義歯以外に4 組の義歯を持参していたが,本人に「嚙めない」という自覚はなかった.咀嚼能力を確かめるためフードテストを勧めたところ,咀嚼動作が完全に失われていた.ピーナッツをいつまでも舌の上で転がすだけで,嚙もうとしない.いわば「嚙むことを忘れた」状態であった.リマウント調整によってバランスドオクルージョンを与えて,再びフードテストをすると,嚙むことを促さないうちに,ピーナッツを嚙んで食べた.動画記録によりその違いは明瞭であった.嚙める感覚が,嚙むことに対する何等かの抑制を解消し,嚙むことを思い出させたようにみえた.リマウント調整によって変化した.