2020 年 40 巻 3 号 p. 253-
患者は義歯不適合と嚙み合わせの不具合を主訴に,全顎的な治療を希望して来院された.口腔内所見は臼歯の咬合支持が喪失しており,使用していた義歯も不適合で,顔貌からアングル3 級と想定される.旧義歯の支台歯である上顎左側前歯は動揺しており,プラークコントロールは不良だった.心尖部肥大型心筋症の既往から外科的侵襲は最小限に抑える必要があり,残存歯を温存したレジリエンツテレスコープ義歯を設計した.治療用義歯にて咬合と顎位の安定を図ったのち,最終補綴に治療用義歯の咬合を反映させた.QOL を評価するOHIP-14 のスコアは,初診時スコア44 からスコア13 まで改善し安定したが,1 年後にスコア29 まで悪化したため事前に埋入していたインプラントを活用し維持力の改善に取り組んだことでスコア6 まで顕著に改善した.現在,義歯・インプラントおよび支台歯の状態は安定しており,OHIP-14 のスコアも良い状態が維持できていることから,患者のQOL 向上に寄与できたと考えている.【顎咬合誌 40(3):253-261,2020】