2022 年 42 巻 2 号 p. 194-205
【緒言】ヒトの顎顔面形態は古代から現代にかけ徐々に変化してきたといわれ,最大の特徴は軟食化による咀嚼力の減衰に伴う顎骨の縮小傾向にあるといわれている.骨は力学的条件に適応し形態を変化させることは周知の事実であるが,咀嚼力とくに歯列・歯数と顎顔面形態の因果関係が生体力学的に立証されているとはいえない.今回,顎顔面骨格モデルを作成し,歯列・歯数の変化に伴う力学的反応から咀嚼と顎骨形態変形の因果関係の推察を試みたので,若干の文献的考察を加え報告する.【材料および方法】歯列の変化による顎顔面骨の力学的挙動を明らかにするために正常咬合モデル(解析モデルI),左右下顎第二大臼歯欠損モデル(解析モデルII)・左右第一・第二大臼歯欠損モデル(解析モデルIII)の三つ異なるモデルを実際の患者のCT 画像データから作成し,有限要素解析ソフトMECHANICAL FAINDER version11.0(計算力学研究センター,東京)に入力し分析した.【結果】①正常咬合においては,相当応力は顔面骨格の前面に広く分布し,咬合力は歯を介して上下顎骨および顔面頭蓋の前方に波及することが分かった.また,両眼窩の中央付近に収束する水平成分が多く認められ解剖学的な顔面頭蓋の補強構造と一致した.②欠損に伴い残存歯,とくに最遠心臼歯部の負担は増大し,欠損歯部直上に対し鼻腔周囲,両眼窩中央を中心とした顎顔面骨前面および下顎頭の相当応力が大きくなり,臼歯部支持の減少に伴い顎関節部を含む周囲骨組織の負担は大きくなることが分かった.