抄録
歯周病はグラム陰性嫌気性桿菌の感染によって発症するが, その病態には複数のリスク因子がかかわる多因子性疾患である.歯周病の他にも糖尿病や高血圧症のような生活習慣病では, 疾患の病態に遺伝および環境要因の両方がかかわっており, 一般的には環境因子の占める割合が大きいとされる.しかし, 上記した疾患は患者の個体差により多型性を示し, ある種の患者の病因には遺伝因子が大きな役割を演じている.
歯周疾患の診断は, これまでの臨床的な発症年齢や進行度に加えて, 細菌学的, 免疫学的および遺伝学的な観点からも行われつつある.早期発症型歯周炎患者は宿主に何らかの機能異常を有しており, 歯周病の宿主要因を解析する際に格好の研究対象である.これまで, 早期発症型歯周炎を多発する家族の遺伝様式に関する研究や, ヒト白血球抗原型 (human leucocyte antigens; HLA) が調べられてきた.しかし, 常染色体優1生遺伝様式である可能性が高いという結果と早期発症型歯周炎患者に高頻度にみられるHLA抗原型が報告されたものの, 早期発症型歯周炎の原因遺伝子が特定されたわけではない.一方, 双生児研究によって成人性歯周炎の病因にも遺伝の関与が指摘され, 最近ではインターロイキン1遺伝子多型性の関与が報告された.さらに, 細菌抗原, とりわけリポ多糖に対する宿主細胞の応答性を制御する分子群の関与も注目されている.
最近, 思春期前に重度の歯周炎に罹患するパピヨン・ルフェーブル症候群患者の原因遺伝子が発見された.これは白血球粘着不全症の原因遺伝子につぐ, 歯周病の原因遺伝子として注目されている.
今後の歯周病の遺伝研究は, 多因子性疾患としての解析, DNAチップを利用した個人ごとの遺伝情報の解析が行われることで, 歯周病の遺伝子診断が飛躍的に進展するであろう.歯周病の診断に遺伝情報が利用されるようになれば, われわれは歯周病を発症する前に個々の患者に歯周病の発症および進行のリスク度を説明し, 個体ごとの予防処置を講じることが可能になる.遺伝子治療も新しいオプションとして利用できるかもしれない.