日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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治療用義歯によるデンチャースペースの回復
上濱 正
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2005 年 25 巻 1-2 号 p. 22-34

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抄録

顎堤 (歯槽骨, 顎骨) 吸収により, 下顎偏位を伴う機能障害を呈する無歯顎患者が増加している.このような患者は, 低く (低位咬合) , 小さく (デンチャースペースが不足) , 咬合平面 (角度や排列位置) が乱れた総義歯を装着していることが多い (形態⇔機能の負の循環) .そのため義歯の不安定 (維持, 支持の不足) を生じ, 下顎偏位を起こし (顎関節の偏位と筋緊張) , 咀嚼筋群, 口腔周囲筋や舌の不調和を生じ, 下顎位を不安定にしている.したがって, 筋-顎関節-咬合の機能的咬合系に乱れが生じた機能障害を呈する患者には, 印象・咬合採得のみで総義歯を製作するよりも, 治療用義歯を応用した無歯顎治療を行ったのちに総義歯を製作することが必要と思われる (総義歯製作から, 無歯顎治療へ) .
治療用義歯の具有すべき条件としては,
(1) 維持 (印象で4種類+治療用義歯の機能圧で2種類=6種類) , 支持 (顎堤負担+口腔周囲筋・舌による負担) を有する (安定性)
(2) 適切な咬合平面 (機能を取り込み, 生体に調和させる)
(3) 筋平衡, 咬合平衡を満たすデンチャースペース (高さ×幅=体積: マウスボリュームの中に, デンチャースペースが存在)
(4) 粘膜 (咀嚼粘膜, 被覆粘膜の比率, 特性を考慮) に対する適合性
(5) 義歯の安定性, 摂食・嚥下機能を重視した人工歯選択と排列,
(6) 安定した下顎位
これらを満たすことで, 形態を回復させると機能が改善してくる.さらに機能が改善することで形態が完成し, 顎口腔機能は再建されると思われる (形態⇔機能の正の循環) .今回は, 無歯顎治療に治療用義歯を応用したデンチャースペースの回復について, わかりやすく解説したい.

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