抄録
小学校の通常学級では,特別支援教育の対象児や対象児が複数在籍する学級の児童の学級適応感に課題があることが報告されており,その背景にある要因として,学級担任が学級の安定性を重視した指導行動を展開していることから児童同士の相互作用を積極的に求めないことが指摘されている。そこで,本研究では対象児が比較的多く在籍する学級において,学級担任に対して標準化された心理テストを活用したコンサルテーションを行い,その事例を通して学級担任がインクルーシブ教育と児童同士の相互作用を促す支援を同時に展開するために求められる要因について検討することを目的とした。その結果,心理テストを活用した協働の中で,学級担任の指導行動の変容が見られ,学級の状態が「かたさ型」から「インクルーシブ型親和学級」となり,また,児童同士の相互作用の指標として検討した「学級の雰囲気」や「かかわりのスキル」も良好な変化が見られた。以上から,特別支援教育の対象児が複数在籍する学級において,学級担任が自身の指導行動を客体化し,変更調整するためには標準化された心理テストの活用が有効であること,そして,児童同士の相互作用を促すためには,学級の状態を正確にアセスメントし,指導行動を意図的に切り替えていくことの重要性が考察された。