学級経営心理学研究
Online ISSN : 2434-9062
12 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • ―教科担任制を推進する学年主任教師Aの視点から―
    森永 秀典, 河村 茂雄
    2023 年12 巻1 号 p. 1-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/10/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,小学校教科担任制(学年教師間の授業交換による教科分担制)の導入による,学年組織の協働性の構築への変容過程を明らかにすることを目的として,教科担任制を10年以上推進してきた教師に聞き取りを行った。聞き取りで得られた内容は,複線径路等至性モデル(Trajectory Equifi nality Model)を用い,教科担任制の導入による学年組織の協働性の構築に至る径路とその径路に影響を与える要因を整理した。その結果,教科担任制導入開始時から初期にかけては,学級担任制において担保されていた教師の裁量が失われることによる葛藤が生じるため,教科担任制の意義を適切に伝えること等が学年組織の協働性の構築への分岐点に影響することが示された。教科担任制導入中期では,学級から学年,学校へと教育の責任の範囲を広げていくことへの葛藤が生じるため,学年や学校で児童を見ることの重要性を適切に伝えていく必要が示された。また,協働的な活動を通して教育観の不一致による葛藤が生じるため,教育観の不一致を適切に調整することが学年組織の協働性の構築および個業の加速への分岐点に影響することが示された。以上のことから,小学校における教科担任制の導入は協働性の構築に至るとは限らず個業の加速へと至る側面も有しており,慎重に検討して導入されるべき取り組みであると思われる。
  • :学校生活意欲と学校生活満足度に着目して
    西村 多久磨
    2023 年12 巻1 号 p. 15-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/10/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,人としての成長や社会の発展に価値を置く内発的将来目標が,ポジティブな結果をもたらすという自己決定理論の仮説に基づき,中学生における将来目標と学校適応との関連を検討した。学校適応の指標として,学校生活意欲と学校生活満足度に着目した。対象は中学2年生の333名(男子170名,女子163名)であり,質問紙調査が実施された。分析の結果,内発的将来目標は,学校生活意欲や学校生活満足度と正の関連を示すことが明らかにされた。さらに,学級生活満足群の生徒の内発的将来目標が学級生活不満足群の生徒よりも高いことが示された。以上の結果から,学校適応に対する内発的将来目標の重要性が議論された。
  • ―インタビューによる探索的検討―
    河村 茂雄
    2023 年12 巻1 号 p. 25-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/10/20
    ジャーナル フリー
    学級担任制度をとる小学校の学級担任を対象にして,学級経営に困難さを抱えている教師が,学級経営に関して学習性無力感を抱くようになる可能性や実態について探索的に検討することを目的とした。具体的には,学級経営を良好に展開できている教師たちと困難さを抱えている教師たちに,1年間の学級経営をどのように自己調整してどのような取り組みを行ったのか,さらに,教師個々の自主的に学び続ける意欲と行動の高さ,同僚性・協働性についての意識と行動の高さについて,半構造化面接で聞き取りを行った。その結果,学級経営に困難さを抱える教師たちの自己調整の力量の低さ,自主・向上性と同僚・協働性が共に低い傾向は,学級経営に関して学習性無力感を抱いている可能性が高いことが確認された。
  • ―「定年」というキャリア・ステージの変化に着目して―
    生貝 博子, 河村 茂雄
    2023 年12 巻1 号 p. 35-48
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/10/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,公立小学校・中学校の再任用教員のワーク・エンゲイジメントに関し,現在どのような研究がなされ,何が明らかになっているのかという実態を明確にすることが目的である。上記の動向から,再任用教員や役職定年者のワーク・エンゲイジメントの実態,「定年」というキャリア・ステージの変化に伴うワーク・エンゲイジメント形成のプロセスや影響要因などについては,知見が蓄積されていないことが確認された。特に,再任用校長のワーク・エンゲイジメントについては,検討されていないことが明らかになった。今後は,役職定年者を含む再任用教員や再任用校長のワーク・エンゲイジメントについて,「ジョブ・クラフティング」,「キャリア・シフト・チェンジ」,「良き人生(well-being)」の視点から検討することが求められると考察された。
  • 髙橋 幾, 河村 茂雄
    2023 年12 巻1 号 p. 49-62
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/10/20
    ジャーナル フリー
    小学校の通常学級では,特別支援教育の対象児や対象児が複数在籍する学級の児童の学級適応感に課題があることが報告されており,その背景にある要因として,学級担任が学級の安定性を重視した指導行動を展開していることから児童同士の相互作用を積極的に求めないことが指摘されている。そこで,本研究では対象児が比較的多く在籍する学級において,学級担任に対して標準化された心理テストを活用したコンサルテーションを行い,その事例を通して学級担任がインクルーシブ教育と児童同士の相互作用を促す支援を同時に展開するために求められる要因について検討することを目的とした。その結果,心理テストを活用した協働の中で,学級担任の指導行動の変容が見られ,学級の状態が「かたさ型」から「インクルーシブ型親和学級」となり,また,児童同士の相互作用の指標として検討した「学級の雰囲気」や「かかわりのスキル」も良好な変化が見られた。以上から,特別支援教育の対象児が複数在籍する学級において,学級担任が自身の指導行動を客体化し,変更調整するためには標準化された心理テストの活用が有効であること,そして,児童同士の相互作用を促すためには,学級の状態を正確にアセスメントし,指導行動を意図的に切り替えていくことの重要性が考察された。
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