本研究は,小学校教科担任制(学年教師間の授業交換による教科分担制)の導入による,学年組織の協働性の構築への変容過程を明らかにすることを目的として,教科担任制を10年以上推進してきた教師に聞き取りを行った。聞き取りで得られた内容は,複線径路等至性モデル(Trajectory Equifi nality Model)を用い,教科担任制の導入による学年組織の協働性の構築に至る径路とその径路に影響を与える要因を整理した。その結果,教科担任制導入開始時から初期にかけては,学級担任制において担保されていた教師の裁量が失われることによる葛藤が生じるため,教科担任制の意義を適切に伝えること等が学年組織の協働性の構築への分岐点に影響することが示された。教科担任制導入中期では,学級から学年,学校へと教育の責任の範囲を広げていくことへの葛藤が生じるため,学年や学校で児童を見ることの重要性を適切に伝えていく必要が示された。また,協働的な活動を通して教育観の不一致による葛藤が生じるため,教育観の不一致を適切に調整することが学年組織の協働性の構築および個業の加速への分岐点に影響することが示された。以上のことから,小学校における教科担任制の導入は協働性の構築に至るとは限らず個業の加速へと至る側面も有しており,慎重に検討して導入されるべき取り組みであると思われる。
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