学術情報処理研究
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原著論文
東京学芸大学における学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りを促す「TGUポートフォリオ」の開発と評価
丸山 浩平, 森本 康彦, 鈴木 有史, 濵田 豊彦, 小嶋 茂稔
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2025 年 29 巻 1 号 p. 24-36

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Abstract

東京学芸大学では,学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りを促し,修得主義に基づく教員養成の実現を目指し「eポートフォリオ構築によるデジタル技術を活用した教育実習DX」を進め,在学期間中の教員養成に関する記録を集約し,学習状況/学修成果を多面的に可視化するeポートフォリオシステム「TGUポートフォリオ」を開発した.TGUポートフォリオを用いた学びの振り返りの試行の結果,ダッシュボードを確認することで,自分の学習状況や学修の成果を把握することができ,今後の学修への取り組み方を見直すことができる可能性がうかがえた.

1  はじめに

近年,高等教育では,予測不可能な時代を生き,社会を改善していく資質を有する人材の育成に向けて「個々人の可能性を最大限に伸長する教育」に転換し,学修者が「何を学び,身に付けることができるのか」を明確にし,学修の成果を学修者が実感できる教育を行う「学修者本位の教育の実現」が叫ばれている[1].こうした取組に向けては,教育・学修データの分析による学修支援や教育改善,AI等を活用したより効果的な教育内容・方法の開発等が考えられ,学生一人一人が主体的・自律的な学修者としての成長を実感できるようにすることが必要であるとされている[2].このことから,学修者には自身のキャリアの方向性と関連付けながら,見通しを持って粘り強く取り組み,自身の学びを振り返って次の学びにつなげていく主体的な学びが求められていると考えられる.そして高等教育機関には,学修者の主体的な学びを支え,促進していくことが求められると考えられる.

東京学芸大学(以下,本学)は,高い知識と教養を備えた創造力・実践力に富む有為の教育者を養成することを目的とした教員養成系単科大学であり,令和7年5月1日現在4,416人の教育学部の学生が,東京都小金井市のキャンパスで学んでいる.一学年約1,056人のうち約862人の学生が学校教育教員養成課程を専攻しており,大学全体で学生の教員養成に取り組んできている.

その教員養成課程では,1,2年次には授業観察等を通しながら「教科及び教科の指導法」「教育の基礎的理解」「道徳,総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導,教育相談等」に関して理解を深めるとともに,授業設計を行う方法を身に付ける.3年次には大学で学んだ教科や教職に関する専門的な知識・理論・技術等を各教科や教科外活動の指導場面で実践する「教育実習」を通じて,教育実践ならびに教育実践研究の基礎的な能力と態度を身に付けていく[3].そして,4年次には全学年を通じた学びの軌跡の集大成として位置づけられる「教職実践演習」において,学生が身に付けた資質・能力が教員として必要な資質・能力として有機的に統合され,形成されたかについて確認していく[4].このように教員養成課程では,教室で行われる授業等だけでなく,入学から卒業時までの在学期間にわたる学内外の様々な学びを通して教員としての専門性が開発される.その中でも,教育実習は最も重要な実践的な学びの場であり,それに至るすべての学びはどれも欠くことのできないキャリア形成の要素であると考えられる.この中で,学生は,在学期間を通して,自らの教員養成の状況とその成果を確認し,学びを調整しながら学び続けることが期待される.

一方,これまで教育実習日誌,授業観察記録,学習指導案や自己評価等の教育実習に関する記録のほとんどが紙ベースで記録されていたり(課題1),在学期間中の自身の学修に関わる記録は学内外に散在していたりしていた(課題2).このため,学生が自身の教員養成の状況を振り返るときに,時間的・空間的な制約に悩まされ,「今どのような状況か」「これまで何をどこまで取り組めてきたか」といった自身の学びを振り返りづらい場面に直面することがあった.ここで,教育実習に関する記録を集約するシステムを開発するとともに,デジタル化された教育実習に関する記録を含む学内外に散在する学生の学びの記録を集約するeポートフォリオシステムを構築できれば,学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りを促進し,修得主義に基づく教員養成を実現することができるのではないかと考えた.特に,COVID-19とそれと前後して推進されていたGIGAスクール構想の展開は,これまで紙ベースや対面を前提として行われてきた活動や取組みを変革する契機となった.

そこで,本学では,上記の課題を解決し,学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りを促進し,修得主義に基づく教員養成を実現することを目的に,「eポートフォリオ構築によるデジタル技術を活用した教育実習DX」に取り組んだ[5].具体的には,まず課題1の解決に向け,本学附属校で行われている教育実習の教育実習日誌を電子的に扱い,実習の記録や指導・支援の記録を集約する「教育実習日誌eポートフォリオシステム」(以下,実習ポートフォリオ)を開発した[6].そして課題2の解決に向け,実習ポートフォリオを含む既存の学内システムに蓄積されている学生の教員養成に関するデータを一元的に管理し,教育AIを活用して蓄積されたデータから学生の学習状況を分析・可視化するeポートフォリオシステム「TGUポートフォリオシステム」(以下,TGUポートフォリオ)を開発した[7].これらシステムにより,教育実習を含め4年間連続的に学修に関するデータを蓄積,可視化することで,縦断・横断的なカリキュラム全体を通した学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りを促し,修得主義に基づく教員養成の実現が期待できる.

本論文では,本学におけるTGUポートフォリオの開発とその取組の内容,試行を通した本システムの有効性の評価について述べる.

2  eポートフォリオ活用とラーニングアナリティクス

2.1  eポートフォリオ[8]

eポートフォリオとは,学修者の継続的な学びを記録したデジタルデータの集合体であり,「学習履歴」と「学習記録」から構成される(表1).教育の視点から見たeポートフォリオも,システム側から見れば無機質な「学修データ」である.しかし,これらは実態としては同じものであり,学修者の学びの営みの中で生成される大切な学びの記録そのものであると言える.

表1 eポートフォリオの構成要素

分類 項目 主な内容
学習履歴 学習ログ 正課内の行動・活動履歴
正課外の行動・活動履歴
操作ログ ICT機器の操作履歴
活動の様子 観察の記録
学習の記録 テスト/アンケート テスト
アンケート
発問
学習記録 学習成果物 作品
レポート
日誌
実技
体験
プレゼンテーション
発表 議論・対話
思考プロセス ワークシート
メモ・ノート
情報収集・分析の記録
解決プロセス 演習の記録
実習の記録
課題解決の記録
学びの振り返り 振り返りの記録
ゴール設定 学習目標
学習計画
評価の記録 学習評価 自己評価
相互評価
教員評価
他者評価
評定
表彰・検定 表彰・顕彰
検定・資格

学習履歴とは,システムや情報端末等のICT機器を使うと自動的に取得できるログデータ,または,行動歴・経歴等の記録である.また,テストやアンケート等の結果を含めることがあり,初等中等教育においては,スタディ・ログと呼ばれている.たとえば,学修者が,タブレット端末を操作すれば,いつ,どこをタップして何を参照したかなどの情報を自動取得し,それらを取り出して分析することが可能になる.また,システムへのログイン回数やテストへのアクセスの有無や得点を自動取得することで,支援を必要とする対象者を絞り込むことができるようになる.

学習記録とは,学修者の入力を伴う意図的な活動によって収集されるデータであり,学修者が制作した学習成果物,考えなどを外化した思考プロセスの記録,学びの振り返りの記述などがあげられる.たとえば,レポートや作品などの学習成果物,学習の一場面や教材等を撮影した画像や動画,授業の過程で生成されるワークシートやノート,議論や対話の記録などがあり,自己評価による振り返りや,相互評価による仲間からのアドバイス,教員等からのフィードバックなどの記述データと紐付いて同時に記録されることが望まれる.具体的には,学修者が考えたことや議論したことなどをワークシートに書き込み,授業の終わりに自己評価を行い,学びを振り返ることにより,学修者の思考・判断の流れや変容を見取ることができるようになる.

これら学習履歴と学習記録の2つは,学修者の学習状況を把握するためのデータとして,切っても切り離すことができないものである.学習履歴はいわゆるログで,その人の行動・活動歴を知ることはできるが,何を考え質的にどう変容したのか,具体的にどのように成長したのかを判断することは困難である.そのため,多人数の学修者をブラックボックス化して見取ることに適している.一方,学習記録は,思いや考えを外化したデータを含むため,頭や心の内をホワイトボックス化でき,さらに,具体的な学習成果をエビデンスとして含むため,学修者の質的な変容を密に見取ることができる.つまり,学習履歴と学習記録をあわせて利活用することで,学修者を多面的・多角的に可視化し,学習評価につなげることが可能になると考えられる(図1).

図1  eポートフォリオ活用のイメージ

2.2  ラーニングアナリティクス[9]

ラーニングアナリティクス(以下,LA)とは,学びに関するデータ(eポートフォリオ/学習データ)を収集・分析し,その結果をダッシュボード上に可視化するデータ分析のことで,学習効果の向上や学習促進のための方法として研究が進められている.ただし,LAはデータを闇雲に分析して,学修者にその結果を提示すればよいというものではなく,それ自体が学修者の主体的・自律的な学びの何らかの支援のために使われることが求められる.つまり,それはただの分析結果の通知ではなく,学修者が自身の学びを振り返り,自己調整しながら学び続けるための支援そのものでなくてはならないのである.そこで,学修者の学習活動の過程において,収集したデータを分析し,ダッシュボード上に可視化し,提示することで,学修者に気づき(メタ認知)を与え,理解や問題解決のための学習支援(足場かけ)を行っていくことが有効である(図2).

図2  LAによる学びのイメージ

あくまで,学修者が学びの主役であり,責任者であるため,学習状況の可視化は学修者のために行われるべきものである.これにより,学修者自身の学びが促進され成長が促されるとともに,教員が自身の授業等を改善することで,教育自体の質向上にもつながっていくと考えられる.

2.3  LAシステムのタイプ[9]

LAシステムの導入・実現にあたっては,次の3つのタイプに分けられ,それぞれにメリットとデメリットが存在する(表2).

表2 LAシステム導入・実現の典型(タイプ)

システム開発の規模 学び/支援のやり方 取組の始めやすさ LAとしての有効性
タイプI A
開発なし
C
学生の主体性に強く依存
A C
既存の可視化機能に依存
タイプII B B B B
タイプIII C
大規模な開発が必要
A
想定するやり方に合う
C A
意図する分析を作り込める

※A:容易・高い>B>C:難しい・低い

タイプIは,学内にある既存のLMS等のシステムに搭載された可視化機能を利用するため,新規の開発は不要となり,すぐに取組を始めることができる.一方,学生が主体的・自律的に学ぶことが大前提であり,教員も支援者として学生に寄り添うことが大切となる.また,既存の可視化機能に依存するため,LAの効果は未知数となる.タイプIIは,学内の複数の可視化を集約したダッシュボードを活用する.この開発は既存システムの可視化を集約するため,比較的に容易に取組を始めることができる.一方,どのようなダッシュボードになるか,どのように教育に活用したらよいかは所有するシステムに依存する.タイプIIIは,新規に独自のLAシステムを開発するため,規模も大きく,取組を始めることの敷居が高くなる.一方,先端のAI技術を搭載したLAを用い,目指す教育を実現できるため,LAの有効性が非常に高くなる.このタイプのLAシステムの例としては,九州大学のM2B(みつば)システムがある[10].

2.4  本学におけるeポートフォリオ構築の構想

以上を踏まえ,本学では,散在する学生の教員養成課程での学びの記録を集約し,学習状況/学修成果を蓄積・可視化する東京学芸大学教職ポートフォリオシステム「TGUポートフォリオ」の構築を目指す.

具体的には,既に導入済みの学修管理システムをはじめとして,教務システム/履修カルテシステム,図書館システム,キャリア支援システム,実習ポートフォリオ等から各学生の在学期間中における学びの過程とその成果の記録を統合したデータベース(以下,統合データベース)を構築する.そして,統合データベースからAI等を活用して学生一人一人に自身の学習状況/学修成果を分析,可視化し多面的・多角的な学びの振り返りを支援・促進するダッシュボードを開発する.

TGUポートフォリオを構築することにより,学生,大学教員,附属学校教員,大学機関,その他学生の教員養成に関わるすべての関係者が,時間的・地理的な制約に制限されることなく,いつでもどこでもアクセスし,学生の学修や実習等の学びや指導について記録し確認できるようになることを目指す.そして,連関したカリキュラム全体を通じた教員養成の実現を目指す(図3).

図3  TGUポートフォリオの活用概念図

特に,タイプIIのLAシステムとして,TGUポートフォリオを開発し,学生の学習状況/学修成果の可視化を1つのシステムに集約する.これにより,学生がいつでもどこでもアクセスし,自身の教員養成に関わる学習状況/学修成果を多面的・多角的に把握できるになると期待され,短期的・中長期的な見通しを持って学びに取り組むことを支援・促進できるようになると期待される.

3  TGUポートフォリオの開発

3.1  開発の概要とその体制

TGUポートフォリオの開発にあたっては,本学のDX推進本部の下に教育実習DXプロジェクト,学生サポートDXの体制を整備し検討を進めた.

教育実習DXプロジェクトは,令和3年度から組織され,教育担当の副学長の下,教育実習の実施運営を行っている次世代教育研究センター・教育実習プロジェクトチーム(現在の先端教育人材育成推進機構・教育実習グループ)の2名,システム開発を担うICTセンター(現在のICT/情報基盤センター)の教員2名,事務部門からは附属学校課,学務課,情報基盤課に加え,TGUポートフォリオへのデータ提供を予定しているキャリア支援課,学術情報課,大学院課からなるメンバーで構成された.本プロジェクトでは,TGUポートフォリオの構築に先立ち,実習ポートフォリオの開発を進めた[6].具体的には,教育実習日誌をデジタル化したプロトタイプシステムを令和3年5月から開発を進め,令和3年度実施の附属校での教育実習における協力者を対象にプロトタイプシステムの試験利用を実施し,フィードバックを得た.その後,試験利用時のフィードバックを踏まえ,本学の附属校で行われる教育実習に対応するすべての機能を備えたシステムを開発し,令和4年度の附属校で行われる教育実習の実習生全員を対象に試行利用を実施した.以降,令和5年度からは本運用を開始した.

学生サポートDXプロジェクトは,令和4年度から組織され,学生支援担当の副学長の下,システム開発を担うICTセンター(現在のICT/情報基盤センター)の教員2名,事務部門からは学務課,情報基盤課,キャリア支援課,学術情報課,大学院課からなるメンバーで構成された.本プロジェクトでは,プロジェクト設置に先行して,令和3年12月からTGUポートフォリオの開発を進めた.具体的には,まず統合データベース構築のための学内の各システムベンダーと,連係するデータの検討とそのデータ連係方法に関するミーティングを実施し,統合データベースのスキーマを定めた.その後,統合データベースに格納される学生一人一人の学習データから,何をどのように可視化したりすることで多面的・多角的な学びの振り返りを支援・促進するかを検討した.

そこで,TGUポートフォリオに,学修・学生生活に関するデータを可視化するダッシュボード(以下,ダッシュボードA),成績・履修カルテに関するデータを可視化するダッシュボード(以下,ダッシュボードB)と,学生生活に関する質問の応答に加え,在学期間中の授業内の学びや授業外の取組に関する振り返りを促し,蓄積するインターフェイスとしてのチャットボットを実装した.これらの機能を有するTGUポートフォリオを学生が活用することで,学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りを支援・促進することを目指す(図4).

図4  TGUポートフォリオを活用した学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りのイメージ

3.2  システムの構成と機能

TGUポートフォリオには,学生の在学期間中の学びの記録を集約するために必要なストレージを備えること,集約された記録からAI等を活用して学生一人一人の学習状況/学修成果を分析するために必要な処理性能を備えること,集約された記録やダッシュボードに可視化された分析結果にいつでもどこでもアクセスして確認するために必要な処理性能を備えることが求められる.

そこで,TGUポートフォリオはマルチサーバ構成で構築し,各サーバのリソースや機能を柔軟に拡張できるようにした.なお,本学の基幹システムが稼働している仮想基盤サーバ上に構築することを検討したが,既存の基幹システムの稼働に必要なリソースに合わせて仮想基盤サーバが最適化されており,TGUポートフォリオを構築するためのリソースが不足しているため,物理サーバで構築した.具体的には,令和3年11月にハードウェアを調達し,Webサーバ(HPE ProLiant DL360 Gen10, RHEL8),DBサーバ(HPE ProLiant DL360 Gen10, RHEL8),データ処理サーバ(HPE ProLiant DL360 Gen10, RHEL8),バックアップサーバ(HPE ProLiant DL380 Gen10, Windows Server 2019)とストレージサーバ(NetApp FAS2750A)の5つのサーバでTGUポートフォリオを構成した.なお,今後予定されている本学の基幹システムリプレイスにおいて,TGUポートフォリオの稼働に必要なリソースを仮想基盤サーバに確保したうえで物理サーバを仮想化することで,単一障害点を回避し可用性を向上させる方針とした.

システムの機能は,令和4年度の1年をかけて,既存の学内システムとの連係を考慮し,本学の学修管理システムWebClass[11]の拡張機能として,統合データベース,ダッシュボード,チャットボットの各機能を実装した.

3.2.1  統合データベース

統合データベースはPostgreSQLを用いて実装した.本データベースは,既存の学内システムである教務システム,履修カルテシステム,学修管理システム,図書館システム,キャリア支援システム,実習ポートフォリオとのデータ連係により各システムのデータを集約する.

教務システム(LiveCampus)からは,学籍情報,履修情報,成績,GPA情報等の学籍や成績に関するデータを取り込む.履修カルテシステム(LiveCampusのサブシステム)からは,「教職観」「教科基礎力」「学習指導力」「子ども理解力」「生活指導力」に関する自己診断(自己評価)データを取り込む.学修管理システムからは,学習履歴のデータ(ログイン回数,各コースへのアクセス回数,滞在時間,レポート提出数,学習活動の履歴等)を取り込む.キャリア支援システム(キャリタスUC)からは,進路希望,就職活動報告,進路決定届,進路相談記録等のデータを取り込む.図書館システム(LIMEDIO)からは,図書貸出情報,予約情報,相互貸借情報,購入依頼情報,お気に入り書籍情報,お気に入り棚情報等のデータを取り込む.実習ポートフォリオからは,教育実習期間中のシステムへのログイン回数,滞在時間,教育実習自己評価表のデータを取り込む.

統合データベースは,日次のバッチ処理により各システムとデータ連係する.データ連係方法として,教務システムと履修カルテシステムはTGUポートフォリオからデータを直接参照して取り込み,その他はシステム内で連係用データを作成しそれをTGUポートフォリオに送信してもらうことでデータを取り込むこととした.連係されたデータと学生を紐づけるためのキーとして,学生に入学時に発行するGARNetアカウント(本学における学内システムアカウント)のユーザーIDを用いた.

3.2.2  ダッシュボード

ダッシュボードAの可視化はApexChart.js[12],ダッシュボードBの可視化はChart.js[13]を用いて実装した.ダッシュボードは,デフォルトでダッシュボードAが表示されるようにし,画面上部のメニューバーからダッシュボードAとダッシュボードBを交互に切り替えられるようにした.

(1)ダッシュボードA

ダッシュボードAは,学修・学生生活に関する可視化として図書館システム,キャリア支援システム,学修管理システム,実習ポートフォリオのデータの可視化とチャットボットを有する(図5).図書館システムについては「現在借りている図書一覧」を表形式で,「これまでの貸出履歴」を棒グラフで可視化する(図5-①).キャリア支援システムについては「現在の進路希望入力情報」を表形式で第1希望から第3希望を可視化する(図5-②).学修管理システムについては在学中の各セメスターにおける「滞在時間」を曜日と時間帯別にヒートマップで,「ログイン回数/利用時間」をログイン回数の棒グラフ,利用時間の折れ線グラフの複合グラフで,「レポート提出数」を棒グラフで,「eポートフォリオ・コンテナ活動数」を活動の種類ごとに棒グラフで,「学習活動割合」取り組んだ活動(利用したモジュール)の割合を円グラフで,「アクセス回数の多いコースリスト」を多い順に表形式で可視化する(図5-③).実習ポートフォリオについては,参加した教育実習ごとの「ログイン回数/利用時間」をログイン回数の棒グラフと利用時間の折れ線グラフの複合グラフで可視化する(図5-④).

図5  ダッシュボードAの画面例

(2)ダッシュボードB

ダッシュボードBは,成績・履修カルテに関する可視化として,教務システム,履修カルテシステムのデータの可視化を有する(図6).教務システムについては,在学中の各セメスターにおける「修得単位数・合計修得単位数」を修得単位数の棒グラフと合計修得単位数の折れ線グラフで,「GPA」を学科平均GPAと自身のGPAの棒グラフで,「成績評価割合」を100%積み上げ棒グラフで,「合計修得単位数」を棒グラフで,「科目種類別成績評価割合」を教養科目,教育創成科目,教育基礎科目,専攻科目,自由選択等の科目種類別に100%積み上げ棒グラフで可視化する(図6-①).履修カルテシステムについては,「履修カルテ自己診断データ」を「教職観」「教科基礎力」「学習指導力」「子ども理解力」「生活指導力」の観点の各年次の自己診断結果をレーダーチャートと棒グラフで可視化する(図6-②).

図6  ダッシュボードBの画面例

3.2.3  チャットボット

チャットボットは,JavaScriptとPHPを用いて実装した.チャットボットはダッシュボードA(図5-⑤)に配置され,ダッシュボードAにアクセスしたときに自動的に起動する.本チャットボットは,ダッシュボードAにアクセスした際に統合データベースに蓄積された学生のデータに基づいてチャットボットが発言する「初期発言」,大学に関する質問の応答ができる「質問するモード」と授業内,授業外の日々の学びの振り返りを入力できる「ふりかえりモード」の3つの機能を有する.

初期発言はダッシュボードAにアクセスした際に自動的に表示され,その後「質問するモード」としてチャットボットは動作する.チャットボット画面内の「ふりかえりをする」をクリックすると「振り返りするモード」に切り替わる.各モードはボタンで切り替えられる.

(1)初期発言

本機能では,学生は,自身の各システムの利用状況,入力状況に関する情報を得ることができる.

本機能では,アクセスした学生のユーザーIDをもとに統合データベースに蓄積された各システムの利用状況を問い合わせ,チャットボットがその状況に応じて定められた発言を行う.発言する内容として3種類定めた.

1つ目は図書館システムの「図書貸出情報」の貸出状況をもとに初期発言をする.具体的には,1週間以内に返却期限を迎える図書資料がある場合「まもなく返却期限を迎える図書が○冊あります.忘れずに返却または延長の手続きをしましょう」と発言し,返却期限を過ぎている図書資料がある場合「返却予定日を過ぎている図書が○冊あります.返却または延長の手続きを行いましょう」と発言する.2つ目はキャリア支援システムの「進路希望」の入力状態をもとに初期発言をする.具体的には,進路希望が未入力の場合「進路希望の記録が入力されていないようです.今の自分の進路希望を記録に残しておきましょう」と発言する.また上記の2つのいずれにも合致しない場合「チャットボットに質問がある場合はテキストボックスに入力して送信ボタンを押してください.また『振り返りをする』をクリックすると1日の振り返り(出来事や学んだこと)を記録できます」と発言する(図7).

図7  チャットボットの初期発言の画面例

(2)質問するモード

本モードでは,学生は,大学や学生生活に関する質問を入力することでその回答を得られる.なお,質問の応答は生成AIやRAG(Retrieval Augmented Generation)を用いたものでなく,ルールベースで応答をする.

大学や学生生活に関する質問の応答のため,本取組では,学務課,大学院課,キャリア支援課,図書館(学術情報課)の窓口でよくある質問とその回答からなる161件のQ&A集を作成した(学務課:62件,大学院課:42件,キャリア支援課:16件,図書館:42件).そして本モードでチャットボットが質問内容を特定して回答を提供できるよう機能を実装した.具体的には,Q&A集のデータを「検索対象」「質問カテゴリ」「質問テキスト」「回答テキスト」からなるCSVファイルとして作成し,データベースに登録した.そして,学生が,ハッシュタグ付きでキーワードを入力すると,入力したキーワードに合致する質問とその回答テキストを表示するようにした.「#貸出」と入力した際に出力される質問とその回答の例を図8に示す.

図8  質問するモードでの応答例

(3)ふりかえりモード

本モードでは,学生は,日々の学びの振り返りを記録でき,記録した学びの振り返りの記述を確認できる.

本モードは,図7下部のモード切替部で「ふりかえりをする」をクリックすることで利用できる.質問するモードからふりかえりモードに切り替わると,チャットボットは「ふりかえりモードに切り替わりました.今日はどんなことに取り組んだり,学んだりしましたか?1日を振り返ってみましょう」という学びの振り返りを促すプロンプト(以下,学びの振り返りプロンプト)を表示する.学生はチャットボットからの学びの振り返りプロンプトの提示のあと,入力欄に学びの振り返りを記述し,送信ボタンをクリックすることで学びの振り返りを記録できる.記録した後,チャットボットは「ふりかえりを登録しました.過去のふりかえりは『振り返りの確認』から確認できます」と発言して,本モードが質問するモードに自動で切り替わる(図9).

図9  ふりかえりモードでの振り返りの画面例

チャットボット画面右上の「振り返りの確認↗」をクリックすることで,振り返りの確認画面が開かれ,本モードでこれまで記録した学びの振り返りを確認することができる(図10).振り返り確認画面では,学びの振り返りを月ごとに見返すことができ,各月では日付の降順で表示される(図10-①).また学びの振り返りの記述をもとに作成されたワードクラウドを確認できる(図10-②).このワードクラウドでは,これまでに記録された学びの振り返りの記述を形態素解析し,最も出現回数が多い語句を15語表示する.

図10  振り返りの確認画面の例

3.3  TGUポートフォリオの利用の流れ

TGUポートフォリオは,在学期間を通して,以下のように学生が活用していくことを想定している[7].

学期始め:学生は,ダッシュボードを確認して,これまでの自分の学習状況や学修成果を振り返り,今学期の学修の見通しを立てる.

学期途中:学生は,ダッシュボードを確認して,今学期の授業等での学修の取り組み方やその状況を振り返り,学期末までの学修の見通しを立てる.

学期終わり:学生は,ダッシュボードを確認して,今学期を通した学修の取り組み方や学修成果を振り返り,次の学期に向けた学修の見通しを立て,履修カルテで自身の教員として必要な資質・能力を自己評価する.

学期全体:学生は,継続的に大学内や大学外で学んだことを踏まえ,自身の学びを振り返って記録する.また,記録してきた学びの振り返りの記述を,区切りの良いタイミングに見返し,学びを総括的に振り返る.

TGUポートフォリオのダッシュボードAの学修・学生生活に関する可視化により,学習者が自身の学習状況を把握して,短期的・中長期的な見通しを持って学修に取り組んでいくことを支援できると期待される.またダッシュボードBの成績・履修カルテに関する可視化により,自身の学習成果や教員養成課程の学びの状況を把握して,各学期や次年度の学びを自己調整しながら学びに取り組んでいくことを支援できると期待される.またチャットボットの初期発言により,学生の学生生活や学びを誘導したり支援したりすることができると期待される.さらに,質問するモードにより,学生が実際に窓口にいかなくとも必要な情報を得ることができると期待される.最後に,ふりかえりモードにより,科目を問わず在学期間を通して学生の学びの振り返りを支援,促進すること,ダッシュボードの可視化やこれまでの学びの振り返りをもとに,これからどのように学びに取り組んでいくか学びの自己調整を促すことが期待される.

4  TGUポートフォリオを用いた学びの振り返りの試行

4.1  試行の内容と対象

開発したTGUポートフォリオを活用した学びの振り返りの有効性を明らかにするために,TGUポートフォリオを用いた学びの振り返りの試行を行った.

対象は,本学の情報教育を専攻する学部生,大学院生の計92名とした.その理由は,パソコンの操作に慣れている学生を対象とすることで,TGUポートフォリオの使い勝手を含めて,本試行における学びの振り返りの有効性を検証できると考えたからである.期間は,令和5年7月3日~7月28日の4週間とし,TGUポートフォリオを用いた学びの振り返りの試行を実施した.

試行に先立ち,対象とした学生に向けて6月26日に,説明会を開催した.説明会では,TGUポートフォリオの概要,機能,期間中どのようにTGUポートフォリオを利用するかについて説明した.試行期間中の使い方として,以下の3点を行ってもらうように説明した.

①定期的に,ダッシュボードAおよびダッシュボードBに可視化される自身の学習状況を確認する.

②期間中毎日,チャットボットから1日の授業等での学びの振り返りを登録する.

③定期的に,チャットボットの振り返りの確認から,これまでに登録した学びの振り返りを確認する.

また,本試行は授業等の成績評価に関係しないこと,TGUポートフォリオは強制ではなく自分自身の学びのために活用するものであること,ダッシュボードの可視化やチャットボットに入力した質問や,登録した学びの振り返りの内容は本人しか閲覧できないことを説明した.

4.2  評価方法

開発したTGUポートフォリオを活用した学びの振り返りの有効性の検証のため,事後に自由記述を含む質問紙調査を行った.質問項目は,ダッシュボードA,ダッシュボードBの各可視化に関する項目を12項目,チャットボットによる「大学生活に関する質問」と「学びの振り返り」に関する項目を9項目,ダッシュボード全体に関する項目を4項目の計25項目,5件法(5が高い)で作成した.自由記述は「TGUポートフォリオを利用した感想や気づいたこと」「ダッシュボードの改善できると思う点」の2項目作成し,自由に記述してもらった.

5  試行の結果と考察

5.1  試行における利用状況

試行期間中の協力者によるTGUポートフォリオの利用状況としてアクセス回数,チャットボットの「ふりかえりモード」を用いた学びの振り返りの記述の記録数,チャットボットからの発言回数,チャットボットへの入力回数を集計したところ,表3のとおりとなった.

表3 利用状況の集計表

項目 総数 1人あたり
最小 最大 平均
アクセス数 184回
(32人)
1回 18回 約6回
学びの振り返りの記述記録数 189件
(23名)
1件 26件 約8件
チャットボットからの発言数 252回
(24名)
1回 70回 約10回
チャットボットへの入力回数 49回
(14名)
1回 13回 約4回

表3から,期間全体で,92人中32人(35%)からの,計184回のアクセスがあり,1人あたり最大18回,平均で6回アクセスしていたことがわかった.学びの振り返りの記述は92人中23名から計189件登録され,1人あたり最大26件,平均で8件記録していたことがわかった.チャットボットからの発言数は92人中24人に対して計252回発言があり,学びの振り返りの記述の記録を除いたチャットボットへの入力回数は92人中14名から計49回の入力があったことがわかった.このことから,多い人で期間中ほぼ毎日TGUポートフォリオにアクセスするとともに,毎日チャットボットの「ふりかえりモード」を利用して学びの振り返りを登録していた様子がうかがえた.なお,チャットボットの「質問するモード」は,「ふりかえりモード」と比べて利用が少なかった様子がうかがえた.

試行で記録された189件の学びの振り返りの記述の内容の分析のためワードクラウドを作成した(図11).このワードクラウドから,授業に関するキーワード,ゼミ活動に関するキーワードが見受けられ大学での学修に関する学びの振り返りの記述や大学生活に関する学びの振り返りの記述が記録された様子がうかがえた.

図11  試行で記録された学びの振り返りの記述のワードクラウド

5.2  質問紙調査の結果と考察

作成した質問紙について,試行期間の終了にあわせて7月27日~8月4日の間に回答を求めたところ,92人中26人からの有効回答が得られた(回収率:約28%).得られた回答について,各項目の肯定―否定の傾向を分析するため,母平均を中央値(3)とするt検定で分析した.分析した結果を表4に示す.

表4 質問紙調査の分析結果(母平均を中央値(3)とするt検定)

質問項目(N = 26) n Min Max M SD p値
1. WebClassの可視化を確認することで,自分の学習状況を把握することができた. 26 2 5 4.46 0.76 **
2. WebClassの可視化を確認することで,今後の学修への取組み方を見直すことができた. 26 1 5 3.69 1.05 **
3. 実習ポートフォリオの可視化を確認することで,自分の教育実習の取組みの状況を把握することができた. 14 3 5 4.43 0.65 **
4. 実習ポートフォリオの可視化を確認することで,今後の教育実習や学修に対する取組み方を見直すことができた. 14 4 5 4.43 0.51 **
5. 図書館システムの可視化を確認することで,自分の図書館の利用状況を把握することができた. 26 1 5 4.08 1.13 **
6. 図書館システムの可視化を確認することで,今後の図書館の利用方法を見直すことができた. 26 1 5 3.77 1.18 **
7. キャリタスUCの可視化を確認することで,自分の現在のキャリア形成の方向性(希望する進路)を把握することができた. 26 2 5 3.92 0.98 **
8. キャリタスUCの可視化を確認することで,今後のキャリア形成の方向性を見直すことができた. 26 1 5 3.65 1.06 **
9. 学生情報トータルシステムの可視化を確認することで,自分の学修の成果を把握することができた. 26 3 5 4.81 0.49 **
10. 学生情報トータルシステムの可視化を確認することで,今後の学修や授業への取組み方を見直すことができた. 26 2 5 4.23 0.99 **
11. 履修カルテの可視化を確認することで,自分の教員として必要な知識や技能の修得状況を把握することができた. 26 2 5 4.27 0.83 **
12. 履修カルテの可視化を確認することで,今後の学修や教員になるための取組み方を見直すことができた. 26 2 5 4.12 0.82 **
13. チャットボットで質問することで,自分の授業や履修,成績に関して自分が知りたいことに役立てることができた. 26 2 5 3.65 1.02 **
14. チャットボットで質問することで,学生生活や課外活動(サークル,部活動等)に関して自分が知りたいことに役立てることができた. 26 1 5 3.35 0.98
15. チャットボットで質問することで,図書館の利用に関して自分が知りたいことに役立てることができた. 26 2 5 3.54 0.95 **
16. チャットボットで大学のことに関して質問できることは,有用であると思った. 26 2 5 3.69 0.88 **
17. チャットボットで質問することで,大学のことに関して自分が知りたいことを得ることができた. 26 2 5 4.54 0.76 **
18. チャットボットで振り返りすることを通して,一日の中でよく取組めたことや学んだことを,振り返ることができた. 26 1 5 4.19 1.10 **
19. チャットボットで振り返りすることを通して,一日の中でよく取組めたことや学んだことを,今後の学修につなげていくことができた. 26 1 5 4.04 1.18 **
20. これまでの登録した振り返りの記述を確認することで,自分のこれまでの学修を振り返ることができた. 26 2 5 4.27 0.92 **
21. これまでの登録した振り返りの記述を確認することで,今後の学修に対する取組み方を見直すことができた. 26 1 5 3.96 1.08 **
22. ダッシュボードAとダッシュボードBの可視化を確認することを通して,自分の学習状況を把握することができた. 26 2 5 4.27 0.83 **
23. ダッシュボードAとダッシュボードBの可視化を確認することを通して,今後の学修の進め方について見通しを持つことができた. 26 3 5 4.23 0.82 **
24. ダッシュボードAのように自分の学修や学生生活に関するデータが可視化されることは,自身の学習状況を把握することにとって,良いことであると思う. 26 1 5 4.35 0.94 **
25. ダッシュボードBのように自分の学修の成果に関するデータが可視化されることは,自身の学習状況を把握することにとって,良いことであると思う. 26 1 5 4.42 0.95 **

* p < .05,** p < .01

項目1~12のダッシュボードA,ダッシュボードBの各可視化に関する項目では,全項目で有意差が認められ,各項目を肯定的に捉えている傾向が示唆された.このことから,ダッシュボードA,ダッシュボードBの各システムの可視化を確認することで,自分の学習状況を把握することができ,今後の学修への取り組み方を見直すことができる可能性がうかがえた.

項目13~21のチャットボットによる「大学生活に関する質問」と「学びの振り返り」に関する項目では,項目14を除いた項目で有意差が認められ,各項目を肯定的に捉えている傾向が示唆された.このことから,チャットボットの「質問するモード」を利用することで,自分の授業や履修,成績,図書館の利用に関して自分の知りたいことに役立てることができる可能性がうかがえ,チャットボットで大学のことに関して質問できることは有用であると捉えている可能性がうかがえた.また「ふりかえりモード」を利用することで,1日の中でよく取り組めたことや学んだことを振り返って,今後の学修につなぐことができる可能性がうかがえ,「振り返りの確認」画面を利用することで,これまでの学修を見返し,今後の学修につなぐことができる可能性がうかがえた.

項目22~25のダッシュボード全体に関する項目では,全ての項目で有意差が認められ,各項目を肯定的に捉えている傾向が示唆された.このことから,ダッシュボードAとダッシュボードBの可視化を確認することを通して,自分の学習状況を把握することができ,今後の学修の進め方について見通しを持つことができる可能性がうかがえた.またダッシュボードA,ダッシュボードBのように自分の学修,学生生活,学修の成果に関するデータが可視化されることは,自身の学習状況を把握することにとって良いことであると思う可能性がうかがえた.

また「TGUポートフォリオを利用した感想や気づいたこと」「ダッシュボードの改善できると思う点」の自由記述の抜粋を表5,表6に示す.表5の記述からTGUポートフォリオは,各システムの可視化が1つのシステムに集約されることで,多面的・多角的に,自身の学修状況を把握したり振り返るきっかけとなり,その先の見通しをどうしていこうかを考えることができることや,可視化されたものを見ながら振り返りができることで,日々の学習に対して見通しを持てたり,長期的な目で見た時の見通しも考えられる可能性がうかがえた.これは質問紙調査で項目1~12,22~25で有意差が認められたことを支持していると考えられる.また表6の記述から「携帯電話でも利用できるようにしてほしい」「スマートフォンでアクセスしようと思ったらできなかった」「もっとポータルの見やすい所から確認できたり,Topに可視化があるとよい」といった記述が得られた.このことから,TGUポートフォリオのダッシュボードの使いやすさのさらなる向上,利用頻度がより高まるような運用の検討を進める必要があることがわかった.

表5 TGUポートフォリオを利用した感想や気づいたことの自由記述(抜粋)

・ポータルやトータルシステムなど複数の場所を見に行かないといけなかったのが,1ヶ所で見られるようになった点が良いと思った.

・振り返りをしようと思うと何気に他の可視化が目に入り,最近本を借りていなかったなとか,ログイン時間が減っていたなと見直したり,学習の進め方を見直すきっかけになった.

・自身のログインしている時間や,GPAの変容を見ることで自身の学び方について見つめ直すことが出来た.また,キャリタス等の支援システムも統括的に見られることで他のシステムの利用意欲も向上した.このシステムがあることで既存のシステムの利用に繋がると感じた.

・普段,自分がどのような授業を履修してきたかやログインの状況を知ろうとも思わなかったため,このような可視化があることで,例えばなんでこの講義はこんなにアクセスしたんだろうと見返すきっかけになったり,可視化されたものを見ながら振り返りができることで,日々の学習に対して見通しを持てたり,長期的な目で見た時の見通しも考えられるようになったと思う.

表6 ダッシュボードの改善できると思う点の自由記述(抜粋)

・これまで取得単位数やGPAなどを確認するときには学務に行かないと見れなかったので,TGUポートフォリオダッシュボードを使って確認することができてよかった.もっとポータルの見やすい所から確認できたり,Topに可視化があるとよいなと思う.

・携帯電話でも利用できるようにしてほしい.そのほうが気づいた時,このことを書いておきたい,といった際にすぐ記入することが可能となるからである.

・スマートフォンでアクセスしようと思ったらできなかったので,できるようになったら使いやすいかなと思いました.

6  むすび

本学では,学生本位の多面的・多角的な学びの振り返りを促進し,修得主義に基づく教員養成を実現することを目的に,「eポートフォリオ構築によるデジタル技術を活用した教育実習DX」に取組み,既存の学内システムに蓄積されている学生の教員養成に関するデータを一元的に管理し,教育AIを活用して蓄積されたデータから学生の学習状況を分析・可視化するeポートフォリオシステムであるTGUポートフォリオを開発した.

TGUポートフォリオを用いた学びの振り返りの試行の結果,ダッシュボードを確認することで,自分の学習状況を把握することができ,今後の学修への取り組み方を見直すことができる可能性がうかがえた.特に,各システムの可視化がTGUポートフォリオに集約されることで,学生の多面的・多角的な学びの振り返りができるようになり,日々の学習に対して見通しを持てたり,長期的な目で見た時の見通しも考えられるようになる可能性がうかがえた.なお,本試行ではTGUポートフォリオの利用率(アクセス数)は対象者の35%,質問紙調査の回収率は約28%にとどまった.これは,対象者が期間中にTGUポートフォリオを自由に利用でき,質問紙調査への回答も任意であったことに起因すると考えられる.言い換えると,表2のタイプIIのLAシステムとしてのTGUポートフォリオは,「学び/支援のやり方」において,学生の主体性にそれなりに依存する可能性がうかがえた.このためTGUポートフォリオの利用率を高めるには,タイミングよくTGUポートフォリオを用いて学びの振り返りを行うことやダッシュボード上の可視化を確認することを促したり,そのような授業等でのきっかけを作って,誘導したりしていくことが重要になってくると考えられる.

試行の結果を踏まえ,TGUポートフォリオは,令和5年10月から在学する全ての学生へ試験公開し,令和6年4月から本格的な運用を開始している.今後は,在学する全ての学生を対象にTGUポートフォリオの詳細な有効性の評価を行う予定である.また,画面構成・画面遷移の工夫やダッシュボードとチャットボットの機能改良などにより使いやすさをさらに高めること,TGUポートフォリオを用いた学びの振り返りと本学のカリキュラムとの接合を図ることで,TGUポートフォリオの利用率を向上させていくとともに,修得主義に基づく教員養成の実現に向けたTGUポートフォリオの利活用,運用方法の検討を進める予定である.

謝辞

本システムは文部科学省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」事業において採択された,東京学芸大学「eポートフォリオ構築によるデジタル技術を活用した教育実習DX」の一環で開発されたものである.

参考文献
 
© 2025 学術情報処理研究編集委員会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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