学術情報処理研究
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原著論文
データ可視化・分析授業パッケージの設計
太田 啓介鈴木 斉上繁 義史丹羽 量久
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2025 年 29 巻 1 号 p. 298-302

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Abstract

本稿では,BIツール「Tableau」を用いた短期集中型のデータ可視化・分析授業を設計し,学生のデータに基づく論理的な意思決定力や仮説検証力を高めることを目的として,さらに他大学における再利用を視野に入れた汎用型授業パッケージを構成した事例を報告する.授業は,1コマ90分を2コマ連続で全4回(連続2週)にわたって実施した.全国展開する架空の企業に対するコンサルテーションを行うシナリオで進行し,ツールの導入から仮説構築,可視化・分析に至る一連のプロセスを学生が段階的に学べる教材を整備した.最終課題として統合可視化画面(ダッシュボード)と提案文の作成を課した.学生の成果物からは,データに基づく判断や分析を通じた提案構築が確認され,省察的活動を明示的に促さずとも,課題構造を通じて思考の整理や再構成が自然に生じる様子が見られた.これにより,本授業は限られた時間内でも学生の思考と判断を支援する枠組みとして機能し,今後の授業設計に対する有益な示唆を提供する可能性がある.本パッケージは,MDASH応用基礎レベル「データサイエンス基礎」に含まれる学修項目に対応し,リテラシーレベルを修了した学生を対象に,非プログラミング環境で実施するデータサイエンス系授業の一部に組み込む形で有効に機能する.

1  はじめに

現代社会においては,データに基づく考察や意思決定の重要性が高まっており,大学教育でも,数理・データサイエンスおよびAIに関する基礎的素養の涵養が求められている[1].こうした背景のもと,文部科学省は「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(Mathematics, Data Science and AI Smart Higher Education:以下,MDASH)」を創設し,大学における教育体制の強化を推進している[2]

MDASHでは,基礎的な素養を身につける「リテラシーレベル」と,実践的な応用に力点を置いた「応用基礎レベル」の二段階に分けて,各レベルにおける学修目標を設定している.

それぞれのレベルには多岐にわたる学修項目が設定されており,MDASH認定を目指す大学では,対応する教材やカリキュラムの構築に加えて,継続的な教育の実施に必要なリソース確保も課題となっている.

この課題への対策として,筆者らは複数の大学が連携し,関連する学修項目に対応する数回分の授業を一つのコースウェアとして設計・パッケージ化し,それを相互に活用できる環境を整備することが有効であると考える.これにより,各大学はそれらを柔軟に組み合わせてカリキュラムを構成できるようになり,授業担当教員は授業実践により専念しやすくなる.

このような課題認識に基づいて,「データ可視化・分析授業パッケージ」を設計した.具体的には,汎用的なビジネスインテリジェンス(Business Intelligence:以下,BI)ツールである「Tableau[3]」を用い,限られた授業時間においても,学生がデータの可視化および分析の基本的手法を順を追って習得できるように,思考を段階的に整理していく進め方となるように工夫した.その際,他大学への展開を視野に入れて,教材を活用可能となるよう汎用性にも配慮した.

本稿では,こうした特定の教育的意図に基づいて設計した授業の事例を報告するとともに,実践を通じて明らかになった課題に基づき,今後の改善点を検討する.

なお,本稿の構成は次の通りである.第2章ではBIツールを活用した教育実践の動向を整理し,先行事例における特徴と課題を概観する.第3章では本授業パッケージの設計方針と各回の実施内容を報告し,第4章では学生の成果物に基づく教育的効果と課題を考察する.第5章では本稿全体を総括し,今後の展望を示す.

2  BIツールを用いた教育実践の動向

データサイエンス教育においては,実社会の課題解決に資する実践的能力の育成が求められており,MDASHの応用基礎レベルにおいても,「データ観察」「データ分析」「データ可視化」など,多様な学修項目が設定されている[4].これらに対応する授業実践は,先行研究も含め複数の大学で報告されており[5, 6],これらの授業を円滑かつ効果的に展開するための支援ツールや学習コンテンツの活用事例も報告されている[7]

中でも,Tableauは,可視化を通じて学習者の思考過程を支援する点で注目されており,北陸大学では初年次教育への導入が進められている[8].また,神田外語大学や淑徳大学でも,Tableau等のBIツールを活用した授業が導入され,学生の思考過程の可視化と省察的学習の促進が試みられている[9].リレーショナルデータや大規模データへの対応,インタラクティブ性,ダッシュボード機能,共有・展開のしやすさから,Tableauの導入校や開講科目数は,近年増加傾向にあり,授業設計における活用可能性が高まりつつある[10]

これらの事例は,BIツール導入を前提とした可視化・分析授業の実践として有用であり,学習者の思考支援や省察的学習を促す観点からも意義が大きい.一方で,教材や指導内容が各授業設計者の工夫に依存する面もあり,再利用や展開を前提とした構造的な教材設計の事例はまだ限定的である.本稿では,こうした先行的な動向を踏まえつつ,他大学展開を見据えた設計の視点から補完を試みるものである.

3  授業設計と実施方法

3.1  授業設計と教育的目標

本稿の対象は,2023年度・24年度に長崎大学で開講された教養教育科目の一単元として設計された授業である.学部1・2年生を主な対象とし,全4回(各90分)の講義・演習から構成される対面授業として実施された.

本授業では長崎大学における教学IRシステムの構築・運用[11]で培われたTableau活用の実務的知見をもとに,教育利用に適した操作手順書や指導内容を整備した.具体的には,可視化項目の選定基準や視覚的表現のルールを明示して,属人的な知見を一定程度一般化し,操作手順書や教材パッケージとしての再利用性を高めることを意図した.

また,学習環境としては,教育ライセンスの整備されたTableauアカデミックプログラム[12]を活用し,一定期間ではあるが有償製品と同等の機能を学生に提供した.

学生は,初期のデータ観察に基づく仮説立案から,可視化・分析,判断根拠の再評価に至る一連のプロセスを段階的に習得する.このような設計により,データをもとに論理的に考え,意思決定する力だけでなく,自身の判断過程を客観的に見直す姿勢の涵養を図っている.

以上の設計意図から,本パッケージは,MDASH応用基礎レベル「データサイエンス基礎」に含まれる学修項目「分析設計」,「データ観察」,「データ分析」,「データ可視化」に対応し,リテラシーレベルを修了した学部1・2年生を中心とする幅広い専攻の学生を対象とする.

また,授業設計の中にデータ活用の必然性が組み込まれている科目であれば幅広く適用可能であり,特に,課題解決型学習(PBL)や探究活動,専門分野への導入科目,リテラシーレベル修了後の応用演習など,学習の一部にデータ可視化・分析を位置付けられる授業との親和性が高い.

なお,理論学習・アルゴリズム実装・プログラミング等の体験には本パッケージの使用は適していない.

3.2  授業パッケージの構成と各回の実施内容

図1に授業進行の流れを示す.第1回では,まず,架空企業の経営課題を分析し提案を行うという授業のシナリオと目的を,短時間の講義を通じて共有した.続いて,ツール導入と基本操作の習得に焦点を当て,学生には初学者向けに作成した導入手順書を参照させながら,Tableauのインストールおよびライセンス認証を各自のPC上で実施させた.この際,ティーチング・アシスタント(Teaching Assistant:以下,TA)を配置し,操作上の不明点に対応することで,導入過程の円滑化を図った.

図1  授業進行の構成フロー

その後,Tableauを起動させ,標準付属する「サンプル・スーパーストア」データ(Excel形式)を用いて,可視化の基本操作を体験的に学ばせた.なお,「サンプル・スーパーストア」データは,架空の小売企業の売上データであり,10,000件の注文データを含み,顧客情報,製品情報,地域情報,売上,利益,割引率などの情報が整理されている.

第2回では,分析に先立ち,全体的な業績傾向を把握することの重要性を説明した上で,売上や利益の時系列的変化を可視化する演習を行った.棒グラフ,折れ線グラフ,クロス集計表,円グラフ,地図上への可視化,散布図といった基本的な可視化手法を用い,地域や製品カテゴリごとの傾向を比較させ,次回以降の詳細な分析に向けた準備とした.

第3回・第4回では,営業戦略を再構築する観点から,売上・利益に影響を与える要因を探索的に分析する演習を実施した.学生には,地域別の収益性や製品カテゴリ別の貢献度に注目させ,地図グラフやパレート図を用いて可視化を行わせた.さらに,曜日別の受注傾向や割引戦略と利益の関係も検討させ,多角的にデータを解釈する視点を養わせた.これらの学びを通じて,学生自身が仮説に基づく視点を可視化によって検証し,因果構造の再考や判断の前提を見直す省察的な思考の涵養を図った.

最終課題では,これまでの講義・演習で習得した可視化手法を用い,実際のビジネス課題を想定した3ページ構成の分析・提案資料を作成させた.第1ページでは,売上と利益を可視化し,年度,顧客区分,製品カテゴリ,地域によるフィルタ機能を設けさせた.第2ページでは年度別の業績推移を示すレポートを構成させ,第3ページでは2021~2023年度の業績を比較したうえで,営業戦略の改善提案を記述させた.

この課題は,単なる操作の習熟を目的とするものではなく,データに基づいた現状分析と課題発見,さらに提案構成を通じた思考の構造化を促すことを意図したものである.

4  成果物からみる教育的効果と示唆

最終課題では,データを可視化し,そこから営業戦略に関する改善提案を導き出すことを目的とした.その際,単なる操作の習熟にとどまらず,可視化を通じて問題の所在を見出し,データに基づいた判断や提案を構成する一連の思考過程を重視した.

提出された成果物からは,売上や利益の傾向を多面的に把握しようとする学生の試行が多数確認された.たとえば,地域別に売上が高いにもかかわらず利益が低いケースに着目し,割引率や配送コストなどの要因を想定したうえで,価格戦略の見直しや物流効率化の必要性を論じる記述が見られた(表1).また,カテゴリごとの利益率の違いに注目し,高利益カテゴリへの注力や,商品構成の再検討を提案するなど,データに裏付けられた思考の展開がなされていた(表2).

表1 地域別利益構造に基づく戦略提案記述例

分析記述例(一部抜粋)
また,割引率と売上,利益のグラフより割引率が8.65%ほどであるのが利益売上共に出る最適な割引率であることがわかるため割引を行う際は優先的にこれほどの割引率になるように指針を決めればよい.そして出荷モードと地域のグラフを見ると北海道では通常配送意外行われておらず通常配送では利益率はマイナスとなっており,配送元となる倉庫などがり利益率が最も高い関西にあるためであると考えられる.そのため東北地方や東北地方よりの関東地方などに拠点を置くことで北海道地方の発送の利用方式が増え通常配送での赤字も改善されると考える.
表2 商品カテゴリ別利益構造に基づく戦略提案記述例

分析記述例(一部抜粋)
これらのことから,テーブル・電話機・画材などカテゴリ別で利益率の低い商品の割引率の上限を利益がプラスになる最低ラインの15%に設定することを提案する.また,大企業に対しても商品の割引率の上限を15%に設定することを提案する.大企業は顧客構成割合が増加傾向にあるため,割引率上限を15%に設定することで,マイナス利益がなくなり,利益を増やすことができるだろう.特に,顧客構成で大企業が半数弱を占める北海道では,マイナス利益を回復できると考えられる.

可視化されたグラフの構成についても,閲覧者が傾向を把握しやすいように配色や並び順に工夫を加えた成果物が散見された.例えば,売上と利益の関係性を地図上に視覚化し,地域別の情報整理を試みた構成においては,可視化が思考を補助する認知的支援として機能していたことがうかがえる(図2).

図2  地域別売上と利益の可視化例(学生作成)

一方で,一部の記述では,可視化された内容と提案との間に論理的整合性が十分でない事例も存在した.たとえば,特定の地域や顧客層が「悪化している」とのみ述べられ,何をもって問題と判断したのかが明示されていないものや,提案が「改善するべき」といった抽象的表現にとどまり,具体的施策や判断基準が不明瞭なものもあった.このような成果物は,分析における視点の明確化や,問いの設定に関する初期指導の必要性を示唆しており,今後の改善点と捉えることができる.

興味深いのは,課題として省察的活動を明示的に求めていなかったにもかかわらず,学生が自主的に差し替えた成果物において伝達性を意識した工夫が一部に見られた点である.たとえば,グラフの配置と説明文の焦点を対応させたり,可視化を精緻化して個別具体的な分析を加えたりするなど,他者への説明を意識した調整の痕跡が認められた.これらは,課題が「判断の根拠を示し,他者に伝える」ことを求めていたため,結果的に思考や判断を見直す契機となった可能性を示唆している(図3).

図3  伝達性・具体性を意識した可視化と記述の構成例(学生作成)

このように,限られた授業時間内であっても,課題設計によって,データの解釈・判断・提案を通じた実践的な思考力を引き出すことが可能であり,可視化が認知の支援手段として有効に機能していたことが確認できた.

5  むすび

本稿では,BIツールを活用した短期集中型のデータ可視化・分析授業を設計し,他大学における再利用および展開を見据えた授業パッケージの内容を報告した.本授業では,ツールの導入から可視化・分析・提案までの一連の流れを学生が段階的に学べるよう,必要な操作手順書や教材を整備した.

実施を通じて,データに基づき問いを立て,仮説を構築し,可視化によって検証しながら提案へと展開する一連の思考プロセスを学生が体験できる構成となったことが確認された.特に,省察的活動を明示的に求めていなかったにもかかわらず,一部の成果物には,他者への伝達を意識した表現上の調整が見られた.これは,課題構造が学習者に説明内容を調整・工夫させる契機となり,結果として思考整理の痕跡が表出した可能性を示唆するものである.

ただし,実施を通じていくつかの課題も明らかとなった.第一に,仮説構築に対する支援が不十分であった点が挙げられる.明確な問いを持たずに可視化を進めた一部の学生では,提案と可視化の整合性が乏しい事例が見られた.今後は,問いの立て方を支援する教材の整備に加え,問題設定から提案までの思考の流れを,可視化や分析のプロセスと連動させた授業設計が求められる.

第二に,提案文の記述力向上を図るため,論理構成の見本提示や段階的な記述支援,少人数での相互レビューによる表現の客観的見直しを促す仕組みが効果的であると考えられる.

第三に,導入時の環境設定に関する課題が残された.特にTableauのインストールに授業時間を要した点は,効率の観点から改善の余地がある.こうした課題に対応するため,クラウド型の環境整備や説明資料の改良が今後の検討課題となる.

一方で,授業設計の改善として,2025年度からは基礎から応用までをカバーする動画教材を導入し,共通のリソースとして活用できるよう設計に組み込んでいる.これにより,教員の指導効率が高まるとともに,他大学への再利用も視野に入れた教材パッケージとしての汎用性が高まっている.

データ活用が高度化し,AIとの共存が前提となる時代において,自ら問いを立て,思考を構造化し,省察する力の育成は,今後の高等教育において一層重要な課題である.本稿で示した設計と実践は,その一端を担う教育設計の方向性を示したと考えられる.

謝辞

本研究はJSPS科研費JP24K06284の助成を受けたものです.また,学生PCへのTableauインストール支援において長崎大学大学教育イノベーションセンターの喜多まゆ美氏に心より感謝いたします.

参考文献
 
© 2025 学術情報処理研究編集委員会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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