2025 年 29 巻 1 号 p. 207-216
香川大学「DXラボ」は,従来の落とし物管理の業務課題を解決すべく,落とし物管理システム「KadaMikke/カダミッケ」(以下,カダミッケと呼ぶ)を内製開発した.カダミッケは,落とし物を登録する「落とし物登録機能」,落とし物をWeb上で閲覧する「落とし物閲覧機能」,落とし物を返却したときにそれを登録する「落とし物返却登録機能」,落とし物が見つからなかった場合,落とし主のメールアドレスと探している落とし物のカテゴリを登録するとともに,同カテゴリの落とし物が新しく登録された場合にそれをメールで通知する「カテゴリ登録・通知機能」,落とし物データを管理する「落とし物管理データベース」から構成され,香川大学全4キャンパス(幸町キャンパス,林町キャンパス,三木町医学部キャンパス,三木町農学部キャンパス)のみならず,大阪教育大学や島根大学など複数の大学で実際に運用されている.本論文では,内製開発したカダミッケについて述べるとともに,落とし物管理業務のサービスレベルと業務品質から有効性を考察する.
香川大学において落とし物については,届けられた部局や部署で「拾った場所」と「日付」を記載した付箋を落とし物に貼り付け,それをガラスショーケースに展示する形態で管理されていた.図1は,落とし物が展示されたガラスショーケースを示している.落とし物をした学生は,落とし物をしたと思われる場所を管理する部局や部署のガラスショーケースから自身の落とし物を探す.落とし物が届いていない場合は,他の部局や部署が管理するガラスショーケースも確認する.学生からは「落とし物について保管場所や問い合わせ先がわからない」,「窓口が空いている時間しか落とし物を探せない」,「落とし物が届いているか確認するために,実際に大学に行かなくてはならない」などの意見が寄せられていた.また窓口で対応する職員にも,学生から落とし物に関する問い合わせが多数寄せられ,他部局や部署,他キャンパスへの落とし物の確認など,その対応業務工数も問題視されていた.

香川大学は,DXを推進すべく DX推進戦略「デジタルONE 戦略」を策定した[1].香川大学は,情報化やDXを推進すべく2021年5月に情報メディアセンターに「DX推進部門」(現在のDX推進研究センター)を設置するとともに,その中に「DXラボ」[2] を組織した.「DXラボ」は,システム設計・開発を専門とする香川大学創造工学部創造工学科情報システム・セキュリティコースの教員,情報部に所属する職員,クロスアポイントメント制度を利用して企業から招聘した教員や研究員に加え,情報技術を学ぶ香川大学の学部学生と大学院生から構成され,業務のかかえる課題をユーザの視点で分析する「業務UX調査」,業務を改善するアイデアを創出する「業務改善アイデアソン」[3],業務システムを内製開発する「業務システム内製開発」[4],内製開発したシステムで得られたデータを分析する「業務データ分析」,内製開発やデータ分析のスキルを獲得する「内製開発/データ分析ハンズオン」[5] など,香川大学の情報化やDX推進にむけた様々な取り組みをおこなっている.
情報通信技術の発展により,高度なプログラミング知識がなくてもシステムやソフトウェアが開発できるローコード・ノーコードプラットフォームによるEUC(End User Computing)[6]が注目されている.ローコード・ノーコードプラットフォームは,システム開発における「ニーズの曖昧さ」,「短期間で変化する要求」に対応するための手段として,DX推進での活用が広がっている [7].ローコード・ノーコードプラットフォームによる開発は,開発工数を大幅に削減し,リーン・スタートアップ[8]で提唱される実用最小限の製品であるMVP(Minimum Viable Product)[9]の「検証」までの時間を大幅に短縮する効果が見込めることから,要件と開発されるシステムの粒度的ギャップが生じにくく,MVPを特定したシステム開発に有効であるとの報告[10] も存在する.「業務システム内製開発」,「業務データ分析」,「内製開発/データ分析ハンズオン」では,ローコード・ノーコードプラットフォームのMicrosoft Power Platform[11] が導入された.「業務システム内製開発」で開発された業務システムは 2025年5月現在で100を超え,多くの業務システムが香川大学で実際に運用されている.
「DXラボ」は,従来の落とし物管理の業務課題を解決すべく,落とし物管理システム「KadaMikke/カダミッケ」(以下カダミッケと呼ぶ)を内製開発した.カダミッケは,香川大学全4キャンパス(幸町キャンパス,林町キャンパス,三木町医学部キャンパス,三木町農学部キャンパス)のみならず大阪教育大学や島根大学などで実際に運用されている.
本論文では,内製開発したカダミッケについて述べるとともに,落とし物管理業務のサービスレベルと業務品質から有効性を考察する.2章では,落とし物管理システム「KadaMikke/カダミッケ」について述べる.3章では,考察を述べる.4章では,まとめを述べる.
カダミッケは,Microsoft Power Platformを用いて開発された.Microsoft Power Platform は,Microsoft Power Apps[12],Microsoft Power Automate,Microsoft Power BI,Microsoft Copilot Studio,Microsoft Power Pages の 5 種類のサービスから構成される.カダミッケは,Microsoft Power Appsをベースに,Microsoft Power Automateを用いて,Microsoft Forms,Microsoft SharePoint,Microsoft Outlook,Microsoft Azure AI Custom Visionを連携して開発した.
図2はカダミッケのシステム構成図を示している.「落とし物登録アプリ」は落とし物を登録する「落とし物登録機能」,落とし物を返却したときにそれを登録する「落とし物返却登録機能」,登録された画像から落とし物を検知する「物体検知機能」を有している.「落とし物登録アプリ」で登録された落とし物データは,Microsoft SharePointで開発された「落とし物管理データベース」で保管される.「落とし物管理データベース」に保管された落とし物データは,Microsoft SharePointで開発された「落とし物閲覧Webサイト」で確認できる.「カテゴリ登録・通知機能」は,落とし物が見つからなかった場合,落とし主のメールアドレスと探している落とし物のカテゴリを登録するとともに,同カテゴリの落とし物が新しく登録された場合にそれをメールで通知する機能である.「カテゴリ登録・通知機能」は,Microsoft Power AutomateとMicrosoft Outlook を連携させて開発された.

図3はカダミッケのユースケース図を示している.アクターはカダミッケにより落とし物を探す「学生(教職員)」(以下,学生と呼ぶ)とカダミッケにより落とし物の管理をおこなう「職員」がそれに該当する.「学生」は「落とし物を閲覧する」,「通知を希望する落とし物のカテゴリを登録する」,「通知を希望するカテゴリの落とし物が届いたときにそれを通知する」のユースケースに関連づけられる.「職員」は「落とし物を登録する」,「落とし物の返却を登録する」,「落とし物を管理する」のユースケースに関連づけられる.カダミッケは,学籍番号を有する「学生」と職員番号を有する「教職員」のみを対象ユーザとしている.

表1は,「落とし物管理データベース」に登録される落とし物データのデータ項目を示している.落とし物には,登録される落とし物の名前,カテゴリには,落とし物の種類(「貴重品」,「衣類」,「文房具」,「雑貨」,「その他」),キャンパスには,落とし物が拾得されたキャンパスの名前が格納される.保管場所には,落とし物を保管している部局や部署の名前,拾得場所には,落とし物を拾得した場所,拾得日には落とし物を拾得した日時,画像には落とし物の画像が格納される.香川大学では落とし物の保管期限を半年としており,保管期限には,拾得日から半年後の日時が格納される.ステータスには,返却されたかどうかに関する情報(はい/いいえ)が格納される.落とし物が返却された場合は,返却日に返却された日時,保管期限を過ぎて削除された場合は,削除日に削除された日時,学籍番号には落とし物を受け取った学生の学籍番号(教職員の場合は職員番号)が格納される.また赤枠内は,登録時に職員が入力する項目を示している.
図4は,カダミッケのシーケンス図を示している.カダミッケは「落とし物登録フェーズ」,「落とし物検索フェーズ」,「落とし物通知フェーズ」,「落とし物返却フェーズ」の4段階のフェーズで動作する.「落とし物登録フェーズ」で,「職員」は落とし物を「落とし物登録機能」を用いて登録する.「落とし物検索フェーズ」で,「学生」は落とし物を「落とし物閲覧機能」を用いて検索・閲覧する.「落とし物通知フェーズ」で,「学生」は通知を希望する落とし物のカテゴリを「カテゴリ登録・通知機能」を用いて登録する.希望するカテゴリの落とし物が届いたとき,登録者にはその旨がメールで通知される.「落とし物返却フェーズ」で,「職員」は「落とし物返却登録機能」を用いて落とし物が返却されたことを登録する.

図5は職員が使用する「落とし物登録機能」の落とし物登録画面を示している.落とし物登録画面では,落とし物の画像をアップロードするとともに,落とし物の名前,落とし物の「カテゴリ」,拾得された「キャンパス」,「拾得場所」,「保管場所」,「拾得日」を入力する.落とし物の画像をアップロードすると同時に,「物体検知機能」がMicrosoft Azure AI Custom Visionを用いて画像の特徴から物体の名称を類推することで落とし物の名称を自動入力する.

図6は,学生が閲覧するMicrosoft SharePointで構築された「落とし物閲覧機能」の落とし物閲覧画面を示している.学生は落とし物閲覧画面で自身の落とし物が届いているかどうかを確認する.カダミッケは,「カテゴリ」,「キャンパス」,「保管場所」による検索,「拾得日」による検索,「落とし物」,「拾得場所」からの検索などに対応している.「落とし物」や「拾得場所」については,部分一致による検索にも対応している.落とし物が見つかった場合は,保管場所に落とし物を引き取りに行く.従来の管理方法では,「拾った場所」と「日付」を記載した付箋を落とし物に貼り付け,ガラスショーケースに展示する形態で落とし物を管理していたが,カダミッケを用いることで学生は自宅等どこからでも全ての落とし物を落とし物閲覧画面上で確認できるようになった.

図7は,学生が使用するMicrosoft Formsで構築された「カテゴリ登録・通知機能」のカテゴリ登録画面を示している.落とし物が見つからなかった場合は,「カテゴリ登録・通知機能」を用いて通知を希望する落とし物のカテゴリを登録する.通知を希望するカテゴリの落とし物が届いた場合は,登録者に通知を希望するカテゴリの落とし物が届いたことがメールにて通知される.

図8は,「カテゴリ登録・通知機能」によって送信される通知メールを示している.通知メールには,「落とし物」と「保管場所」,「落とし物閲覧機能」へのURLが記載されており,届いた落とし物が自身の落とし物であるかを確認することができる.

図9は職員が使用する「落とし物返却登録機能」の落とし物更新・返却画面を示している.落とし物更新・返却画面では「返却ボタン」を押すことで,学籍番号(職員番号)入力画面が表示される.「筆アイコン」を押すことで登録内容の更新ができる.「ゴミ箱アイコン」を押すことで登録内容の削除ができる.

図10は「落とし物返却登録機能」の学籍番号(職員番号)入力画面を示している.学籍番号(職員番号)入力画面では学籍番号(職員番号)を入力することで受け取りに来た学生(教職員)の学籍番号(職員番号)と落とし物の返却が登録される.返却が登録された落とし物は,それ以後落とし物閲覧画面には表示されない.香川大学におけるカダミッケの運用では,落とし物は学生証(職員証)を用いた本人確認を経て,落とし主に返却される.また財布など貴重品については,実物の写真を掲載せず,落とし物の詳細な特徴や拾得場所などの情報から落とし物が本人のものであるかどうかを確認するとともに,「落とし物返却登録機能」を用いて受け取りに来た学生(教職員)の学籍番号(職員番号)を登録する.これよりカダミッケは,万が一誤って落とし物が別の学生(教職員)に返却された場合でも,受け取った学生(教職員)を記録することができる仕組みを有している.

カダミッケは,必要な機能を段階的に開発するアジャイル開発の手法を用いて開発された.2023年3月15日にシステム開発を開始させ,「落とし物登録機能」と「落とし物閲覧機能」,「落とし物管理データベース」を追加したv1.0を2023年4月12日にリリースした.次に,落とし主のメールアドレスと探している落とし物のカテゴリを登録するとともに,同カテゴリの落とし物が新しく登録された場合にそれをメールで通知する「カテゴリ登録・通知機能」を追加したv1.1を2023年5月8日にリリースした.続いて,「落とし物閲覧機能(検索機能)」と,「落とし物返却登録機能」を追加したv1.2を2024年3月15日リリースした.その後,Microsoft Azure AI Custom Visionの画像認識技術を用いて,登録された画像から落とし物のカテゴリを検知する「物体検知機能」を追加したv1.3を2024年4月1日にリリースした.2025年5月31日時点で,香川大学ではv1.3が運用されている.
香川大学は複数にキャンパスが分散しており,「幸町キャンパス」,「林町キャンパス」,「三木町農学部キャンパス」,「三木町医学部キャンパス」の4つのキャンパスがある.当初,カダミッケは2023年4月12日から幸町キャンパスの教育・学生支援部学生生活支援課で運用を開始し,その後,2023年6月に図書館・教職支援課・情報部に導入され,2024年4月に教育学部・法学部・経済学部・医学部に導入し,2025年1月に創造工学部・農学部に導入されたことで,香川大学全4キャンパス(幸町キャンパス,林町キャンパス,三木町医学部キャンパス,三木町農学部キャンパス)で実際に運用されている.現在は,香川大学のみならず,大阪教育大学や島根大学など複数の香川大学以外の大学でもカダミッケは実際に運用されている.
本章では,2023年4月12日から2025年5月31日の運用データから落とし物管理業務のサービスレベルと業務品質から有効性を考察する.考察の対象は香川大学における事例としている.
3.1 落とし物管理業務のサービスレベルからの考察本節では,落とし物管理業務のサービスレベルから有効性を考察する.サービスレベルはSLI(Service Level Indicator)[13]を用いて測定する.SLIは,システムの性能や品質を定量的に示す指標である.本論文では,可用性(Availability),平均応答時間(Mean Response Time)を用いて,従来の対面式での落とし物管理業務(以降,カダミッケ導入前)と,内製開発されたカダミッケによる落とし物管理業務(以降,カダミッケ導入後)のSLIから有効性を考察する.
SLIにおける可用性は,ユーザに対してシステム・サービスが実際に利用可能な時間の割合として以下の式で示される.
SLIにおける平均応答時間は,「すべての落とし物に対して応答時間の平均値を計算した値」として定義する.応答時間とは,「ある落とし物が落とし物管理部門に届けられてから,落とし主に返却または廃棄処分されるまでの一連の作業時間」を指す.ただし,個別の応答時間を正確に測定することが困難であるため,推定値として以下の式で平均応答時間を算出した.
短縮率は,カダミッケ導入前の平均応答時間とカダミッケ導入後の平均応答時間の差から算出した.
表2は,従来の対面式による落とし物管理業務と内製開発されたカダミッケのSLIの比較を示している.
まず可用性について述べる.本研究では,落とし物管理業務において「学生が24時間365日体制で落とし物が届いているか確認可能な状態であること」を目標と定め,本来あるべき提供体制として総提供時間は24時間×780日(運用期間の全日)とした.表2より,カダミッケ導入前は,各部局での受付時間(平日9:30~17:00)は7時間30分であり,稼働時間(祝日を除いた平日日数528日)および総提供時間(24時間×780日間)より,可用性は21.2%である.一方カダミッケ導入後は,カダミッケの運用データから0:00~24:00の毎時での閲覧記録ログが確認された(深夜帯も4:58,5:01などで存在).稼働時間(バージョンアップ実施の3稼働日を除いた全日777日)および総提供時間(24時間×780日間)より,可用性は99.6%である.これらの結果から,可用性に関しては,78.4%上昇していることがわかった.また,2025年1月1日から2025年5月31日における学生からのカダミッケへの時間外(平日9:30~17:00以外)のアクセスログを確認したところ1000件を超えるアクセスが確認された.
次に,平均応答時間について述べる.落とし物管理業務は「落とし物を登録する」「落とし物を返却する」「落とし物を管理する」の3種の大項目および11種の小項目に分類される.表3は,導入部門である学生生活支援課に対し,カダミッケ導入前後において,小項目の作業工数[分]および月間平均回数[回]を聞き取り調査した結果とカダミッケが該当する機能を示している.また月間平均作業時間[分]は作業工数[分]と月間平均回数[回]の積を示している.カダミッケ導入前は,落とし物管理業務に要する月間平均作業時間の累計は301.5分,月間平均届け数15個より,平均応答時間は20.1[分/個]である.カダミッケ導入後は,落とし物管理業務に要する月間平均作業時間の累計は126.5分であった.「落とし物の登録作業(カダミッケのみ)」の作業時間が追加されたものの,「落とし物タグの取り付け」「電話での問い合わせ対応」「ショーケースを探す」「落とし物が届いていない場合の他部局への確認」「保存期間(半年)の超過チェック」「棚卸台帳への記載,処分」の作業内容に改善効果が見られ,累計175分の改善効果が見られた.月間平均届け数15個より,平均応答時間は8.4[分/個]であった.これらの結果から,短縮率は58%である.特に,「電話での問い合わせ対応」「ショーケースを探す」はそれぞれ40分/50分の改善効果がみられ,カダミッケ該当機能である「落とし物閲覧機能」「落とし物閲覧機能(検索機能)」「カテゴリ登録・通知機能」が業務効率化に寄与し,サービスレベル向上に大きく貢献していることがわかる.
3.2 落とし物管理業務の業務品質からの考察本節では,落とし物管理業務の業務品質から有効性を考察する.落とし物管理業務の業務品質は,拾得数/返却数/返却率を用い考察した.考察は,香川大学で2023年4月12日に最初にカダミッケを導入した学生支援部学生生活支援課の拾得・返却状況,およびその後順次展開したその他部門(図書館/教職支援課/情報部/教育学部/法学部/経済学部/医学部/創造工学部/農学部)の拾得・返却状況の結果から実施する.
図11は,学生生活支援課の拾得・返却状況の月別の結果,表4は,4半期および年度ごとの累計結果を示している.図11より,学生支援課にはほぼ毎月落とし物が届けられていることがわかる.また図11より,2023年4月および2024年9月を除き毎月落とし物が返却されていることがわかる.表4より,23年度は拾得数210個/返却数59個/返却率28.1%に対し,24年度は拾得数284個(+74個)/返却数88個(+29個)/返却率31.0%(+2.9%)となり,拾得数/返却数/返却率ともに大幅な向上が見られた.

図12は,その他部門における拾得・返却状況の月別の結果,表5は,4半期および年度ごとの累計結果を示している.表5より,23年度は拾得数119個/返却数23個/返却率19.3%,運用部門が増えた24年度は拾得数382個(+263個)/返却数83個(+60個)/返却率21.7%(+2.4%)となり,拾得数/返却数/返却率ともに向上が見られた.

拾得数/返却数/返却率の向上は,落とし物管理業務における質的な改善を示唆している.拾得数の向上は,学生による「拾得物を届ける」という行動が定着しつつあることを示しており,カダミッケが学内のホームページでの紹介を通して学内で広く認知されてきた結果といえる.すなわち,拾得行動の促進という観点で,システムが学生の行動に影響を与えたといえる.次に,返却数および返却率の向上は,学生がカダミッケを通じて落とし物の所在を把握しやすくなったこと,また,職員側の管理・検索業務が効率化された結果といえる.特に返却率の向上は,単に拾得物が増えたというだけでなく,「必要な人に確実に返せる仕組み」が機能していることを意味しており,v1.1で追加した「カテゴリ登録・通知機能」,v1.2で追加した「落とし物閲覧機能(検索機能)」,v1.3で追加した「物体検知機能」など,複数の要素が作用した結果だと考えられ,現在数字の向上の原因解析及び更なる数字の向上に向けた認知率把握等の活動を進めている.
本論文では,内製開発した落とし物管理システム「カダミッケ」の導入とその効果を,サービスレベルおよび業務品質の観点から評価した.その結果,学生・職員双方の負担軽減や業務効率化,返却率の向上など,従来の落とし物管理業務の業務課題解決に貢献することが示された.カダミッケは,大阪教育大学や島根大学など他の大学でも運用が開始されている.「落とし物管理業務」という組織や業種に大きく影響しない業務課題に対して,MVPに基づいて開発されたカダミッケは,大学組織を超えてシステム導入できることが示された.今後は,大学のみならず「落とし物管理業務」を扱う異業種も含めたシステム導入も計画している.