抄録
アルコール性肝硬変患者に合併した肺放線菌症の1手術例を経験したので報告する.症例は,喀血を主訴としたアルコール性肝硬変加療中の63才,男性.胸部CTで左肺S6に辺縁不整,5cm大の腫瘤影を認めた.気管支鏡検査では悪性細胞陰性で細菌培養も常在菌のみであった.肝硬変はChild-Pugh分類Aで,喀血が頻回になったことと肺癌を否定できないため,術前に輸血を行い貧血を是正した後に左下葉切除を施行した.術中病理所見は肉芽腫性炎であった.左肺は広汎に癒着していた.一度は止血された剥離面からの再出血に難渋し,術中に輸血を必要とした.術後は肝硬変の増悪はなく経過は良好であった.切除標本の病理組織所見では慢性炎症と肉芽形成および膿瘍を認め,細菌の染色,形態より肺放線菌症と診断された.現在は外来通院しているが再発は認めていない.