抄録
63歳男性.2008年8月初めより左前胸部から背部にかけての胸痛および38℃台の発熱を自覚し,症状が持続するため,胸膜炎の疑いで当院紹介となった.血液検査では炎症反応の上昇がみられ,胸部CTにて前縦隔に3×8×10cm大の不均一に造影される腫瘤性病変を認めた.腫瘤周囲の周囲脂肪織濃度が上昇し,両側胸水の貯留も認めた.外来での経過観察にて胸部症状および前縦隔の炎症所見は改善されたが,前縦隔に2つの腫瘤が残存した.FDG-PETおよびMRIにて胸腺腫(正岡III期)とそれに隣接する良性腫瘤の診断にて胸腺全摘術を行った.病理結果では,胸腺腫(正岡II期,WHO Type B2)と周囲に多発嚢胞を伴う黄色粥状の内容物を含んだ嚢胞性病変を認めた.胸腺腫を合併した多房性胸腺嚢胞と診断した.術後1年目の胸部CTにて再発や異常所見を認めていない.