抄録
症例は71歳,男性.胃癌術後の経過観察中の胸部CTで前縦隔腫瘍を指摘された.画像上,腫瘍の内部は低吸収で均一であったため胸腺嚢胞と判断され経過観察となったが,6ヵ月後の胸部CTで増大傾向を認めた.そのため悪性疾患の鑑別のためにも前縦隔腫瘍摘出術を施行した.摘出した腫瘍は大きさ55×40×20mmで淡黄色透明の液体を含む単一の嚢胞であったが,嚢胞壁の病理診断はWHO分類type B1胸腺腫であった.腫瘍全体が嚢胞状形態を来たす胸腺腫の成因は腫瘍内部の出血や壊死と考えられており,そのため内腔は凝血塊や壊死物質で充満している.しかし,同様の嚢胞状形態であっても自験例のように内腔が漿液性の液体で充満している症例は稀で,これらとは成因が異なると考えられた.つまり胸腺嚢胞の嚢胞壁に発生した胸腺腫が,嚢胞壁を置換するように浸潤・増殖した可能性が示唆された.