2017 年 31 巻 4 号 p. 488-493
症例は73歳男性.血痰を主訴に来院し胸部CTで左肺S6に70 mm大の腫瘤を指摘された.気管支鏡下生検で扁平上皮癌の診断となり手術の方針となった.腫瘍はS1+2に浸潤し,葉間肺動脈や上葉気管支を巻き込み左肺全摘が必要と判断した.また胸部CTで胸部下行大動脈への腫瘍浸潤が疑われ,大動脈壁の合併切除が必要と考えた.肺切除に先行し大動脈ステントグラフトを内挿したが,強度の観点から二重内挿とした.続けて右側臥位に体位変換し開胸左肺全摘を施行し,大動脈への腫瘍浸潤が疑われ大動脈外膜を合併切除した.周術期合併症はなく退院した.病理診断は多形癌であり,大動脈外膜への腫瘍浸潤を認めた.後療法は施行せず,術後1年の時点で再発やステント挿入による合併症はない.本法は低侵襲かつ安全に手術を完遂することができ,大動脈浸潤肺癌に対する手術法として有効な方法の1つであると考えられた.