2022 年 36 巻 5 号 p. 547-553
末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter:以下PICC)は,中枢挿入型に比べて挿入が簡便で危険性が低い.両者に共通して,稀な合併症としてカテーテル先端の血管外穿破や膿瘍形成が知られている.当科で経験したPICCによると判断された縦隔炎の一例を報告する.
症例は60歳男性で,下咽頭癌に対する化学療法中の発熱・食事摂取困難に対し,PICCが留置された.一時的な炎症所見改善の後に再増悪した.挿入後15日目にカテーテル閉塞のため抜去したが,同日のCTで縦隔炎を認めた.緊急で胸腔鏡下縦隔切開術を施行し,集中治療を要したが救命しえた.
中心静脈カテーテルが原因と考えられる縦隔炎の報告は自験例を含めて9例あり,その内3例が感染による縦隔炎との判断から手術治療が行われた.抗癌剤や高カロリー輸液による化学性炎症であれば保存治療可能であるが,感染を疑った場合には速やかに手術に踏み切るべきである.