1995 年 9 巻 1 号 p. 108-114
症例は34歳, 男性.検診の胸部X線写真上右上縦隔の異常陰影を指摘され, 縦隔腫瘍の疑いで当院に紹介された.胸部X線では右上肺野縦隔側に境界鮮明な腫瘤影を認め, 胸部CT, MRI検査にて, 上方は甲状腺右側から, 右腕頭静脈と鎖骨下動脈の間より下方は上大静脈の裏側の上縦隔に達する嚢胞性腫瘤と診断された.頸部からの穿刺による内容液検査ではアミラーゼは221U/lと軽度の上昇を示したのに対し, サイログロブリンは120.4mg/mlと著明に高値であった.本症例は右悪性甲状腺腫を合併していたため, 一期的に手術を施行した.胸骨縦切開および頸部襟状切開にてアブローチし, 嚢腫摘出, 甲状腺右葉切除および頸部郭清を施行した.組織学的に嚢腫は鯉嚢胞と診断された.また嚢胞壁内に異所性甲状腺組織が存在した.
これらの所見より本症例は頸部より上縦隔に進展増大した鰐嚢胞と診断された.また組織学的所見より, 本嚢胞の成因および増大に甲状腺上皮が関与していることが推測された.