2023 年 45 巻 1 号 p. 147-157
本研究の目的は大学の研究室改善のため,明文化されたルールを巡る構成員の相互作用の実態を明らかにすることである.課題は2点,ルールを語る表現形式,ルールへの態度の解明である.研究室滞在時間が長く「研究活動は集団的活動」を原則とするため,コアタイムをはじめとするルールが存在する理系研究室の全構成員を対象にインタビューと参与観察を実施し,質的に分析した.その結果,ルールを語る表現形式には「直接引用」「言い換え」「自己裁量」の三つが見られた.またルールへの態度では教員の態度と学生の態度があり,学生の態度にはルールの当然視,順守,破るがあった.ルールに対して融通をつけ学生達自身が研究し易い状況を作り出すためにはルールの軽重を測り,取捨選択できるだけの情報が必要である.その情報を得るためには他の構成員との繋がりを築き,観察・情報収集,仮説,検証を繰り返し,社会的ネットワークの周辺から中心に行くための学習が必要であることが示唆された.改善への提案としては研究室所属時の明示的ルールの提示,ルールの吟味,暗黙のルールを認識するための指導の重要性が示された.