要旨:地域維持のための方策は,住民の関心や懸念を十分に把握・共有し,できるだけ地域全体の合意に基づいた形で検討されることが適切である。本稿では北海道厚岸を対象として,ヒアリングとアンケート調査を行い,森・里・海を生産・活動の場とする地域住民間における,意識の乖離(ある対象に対して異なる関心・懸念が表出された状態)についての分析を行った。その結果,多くの住民が主産業である漁業や水産物(特にカキ)に「地域らしさ」を感じているものの,海の環境変化についての懸念は陸域住民に比べて有意に海域住民が高い等,住民間で意識の乖離が認められた。同様に,周辺から一目置かれる立場にあるリーダーと一般的な住民との間で,環境への適応に対する意識の乖離も認められた。本稿では,意識の乖離の解消に寄与する方策を考察し,最後に「地域らしさ」の今後の変化度合いをシナリオ化することにより,地域全体でのより円滑な対応策のための意思疎通・合意形成に寄与する一手法を検討した。この手法により互いに「気づき」を与えあう効果や,意識の乖離が解消する効果が期待できると考える。