デジタル・ヒューマニティーズ
Online ISSN : 2189-7867
論文
S×UKILAM教材アーカイブのLOD化とその応用
デジタルアーカイブを活用した教材と関連情報の接続・構造化
大井 将生中村 覚大向 一輝渡邉 英徳
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 4 巻 1 号 p. 13-24

詳細
Abstract

本研究の目的は, DAを活用した教材と関連情報を接続・構造化するLODモデルを構築することである. そのために, S×UKILAM教材アーカイブを対象として, 機械可読性の高いRDFを用いてメタデータを構造化し, LODデータセットを構築する. その際, 教材を基点としてメタデータを特性ごとに階層化し, 各リソースにURIを与えることで, 教材や関連情報の検索性を高める. 次いで, 教材と関連情報の接続・構造化を確認するためにSPARQLエンドポイントを開発する. また, SPARQL言語に馴染みのないユーザ向けに, メタデータ項目から直感的に教材や関連情報を検索可能なアプリケーションを開発する. その結果, DAを活用した教材と関連情報を接続し, 構造化されたメタデータに基づいて検索可能なLODモデルを構築することができた. 本研究の成果により, 教育の情報化とデジタル文化資源の活用促進に貢献することができたと考える.

Translated Abstract

The purpose of this study is to construct an LOD model that connects and structures DA-based learning materials and related information. To this end, we develop a LOD dataset for the S×UKILAM learning materials archive by structuring the metadata using machine-readable RDF. The metadata are hierarchized by characteristics centering on the materials, and each resource is assigned a URI to enhance the searchability of the materials and related information. Following this, we develop a SPARQL endpoint to confirm the connection and structuring of the materials and related information. In addition, for users who are not familiar with the SPARQL language, we also develop an application that enables users to intuitively retrieve materials and related information by using metadata items. The result shows that the LOD model can connect DA-based learning materials and related information, and can be retrieved based on the structured metadata. We consider that the results of this study have contributed to the informatization of education and the promotion of the use of digital cultural heritage.

1.はじめに

1.1 研究背景

社会の情報化が進む中で, デジタルアーカイブ(以下DA)の構築と活用の需要が高まっている. とりわけ, GIGAスクール構想下で多様な資料を用いた学習の重要性が増した学校教育 に資する情報基盤の整備は喫緊の課題である. さらに, 今後デジタル教科書の普及などデジタル教育環境の急速な進展が予想される中においては, Web上に散在する様々な資料・情報とカリキュラムなどの教育情報とを有機的に接続する需要が高まっている.

「デジタルアーカイブ憲章」(2023)においても, 多様な関心に応える学びの基盤を構築し, 学習の質を高めると共に情報リテラシーの向上や歴史的・国際的な視点を育むことが目指されている1). デジタル文化資源を授業で活用可能な環境を構築することで, 学習者の意欲や学習効果を向上させることができることも明らかになっている2).

一方で, DA資料と学校教育における学習内容とを関連づける体系的な方法は未確立であることが指摘されてきた3). また, DA資料の教育活用方法や事例を共有する仕組みについても十分に検討されてこなかった. こうした課題をふまえ, 教育現場の目線に基づいたDA資料の活用を促進するためには, 以下の要件を満たす手法を検討する必要がある.

  •    DA資料と教材(活用方法)やカリキュラムなどの教育情報との接続
  •    DA資料への教育現場の目線に基づいたメタデータ(以下「教育メタデータ」)の付与
  •    DA資料と教材の関係性の把握や関連情報の検索を容易にするための構造化されたメタデータの整備

1.2 問題の所在

DA資料とカリキュラムなどの教育情報を接続し, 「教育メタデータ」を付与する試みとしては, 「S×UKILAM(スキラム)連携」が挙げられる4). このスキーマでは, 小中高(School)の教員や資料公開機関(University・Kominkan・Industry・Library・Archives・ Museum)の関係者が共創的にDA資料を教材化し, 「教育メタデータ」をDA資料自体に付与するのではなく, 「加工された」教材に対して付与している点に特徴がある. S×UKILAM連携で共創される教材は, 教科・単元・時代・キーワード・視点・授業場面・育みたいコンピテンシー・学習指導要領コードなど, 学校現場の視点から付与された「教育メタデータ」と共に, IIIFビューアを用いて包括的に閲覧可能な形で, かつ二次利用可能なライセンスが付与され, 「教材アーカイブ」として公開されている5). そのため, S×UKILAM連携はDA資料の教育活用の方法を共有する仕組みとしても機能している.

しかしながら, 上記 S×UKILAM教材アーカイブが公開されている状態では, 教材と既存のコンテンツや関連情報との接続は為されていないという課題が残る. 限られた時間の中でDA資料を活用した教材開発や探究学習を行うためには, カリキュラムに即して構造化された様々な関連情報にシームレスにアクセス可能なオープンデータの構築が望まれる.

1.3 研究目的と本稿の位置付け

そこで本研究は, 「DAを活用した教材と関連情報を接続・構造化するLinked Open Data(以下LOD)モデルを構築すること」を目的とする.

なお, 本稿は, 「人文科学とコンピュータシンポジウム(じんもんこん)2023」で発表した内容6)について, 研究進捗のあった点を中心に大幅に加筆・修正し, 総括的に述べるものである.

2.関連研究

2.1 デジタルコンテンツへの教育メタデータ付与と課題

Web上のコンテンツに対する教育現場の目線に基づいた検索が可能である代表的なサービスとしては「NHK for school」7)があり, 教科書や学習指導要領から動画コンテンツを検索することができるため, 広く教育現場で活用されている. DA資料とカリキュラム等の教育情報を接続する方法としても, 資料に校種・学年・単元・教科などの「教育メタデータ」を付与することが有効と考えられる. 「教育メタデータ」に基づいた検索が可能なDAは稀有であるものの, 福井県文書館の「学校向けアーカイブズガイド」8)や「東京学芸大学教育コンテンツアーカイブ」9)などが先進的な事例として挙げられる. 2024年5月時点で, 前者は62件の資料が単元・校種ごとに検索可能であり, 後者は5625件の資料中およそ200件の資料が学校種別・教科・学習指導要領コードなどの教育メタデータから検索できる.

一方で, 「教育メタデータ」の付与には教育学的な知識や経験が求められるため, 資料公開機関が単独では実行しづらいという課題がある. さらに, 学校教員や児童生徒がDA資料を実際に活用する際には, 「問い」に即した自由な発想で, 単元などの固定的な要素に縛られずに検索を行いたいという需要もある. そのため, キーワードなどを含めた多様な観点での「教育メタデータ」付与とその活用方法のあり方について, 継続的な検討を進める必要がある. その意味においても, 前述したS×UKILAM連携で共創される教材及びそこに付与された「教育メタデータ」は, 今後のDA資料の教育活用を進展させるLODモデルを検討する際のケーススタディとして, 適していると考えられる.

しかしながら, S×UKILAM連携の教材アーカイブや前述した「教育メタデータ」が付与されている先駆的なDAにおいても, 当該アーカイブ内でのメタデータに基づいた閲覧や検索が可能なオープンデータの構築は為されているものの, 外部の関連情報との有機的なリンクは実現しておらず, 教材・DA資料・メタデータを十分に活かしきれていないという課題がある.

2.2 DAに関するLOD

上述した課題を解決するためには, DA資料を用いた教材と多様なコンテンツや関連情報を機械可読性の高い形で接続・構造化するためのLODモデルを構築することが有効であると考える. 林ら(2016)は, Web上の情報資源の多くがPDFのように機械可読な構造化が不十分であることをふまえ, 異なる性質の要素を持つ複合的な情報資源に対して相互運用性を持つLODの適用を検討することの重要性を指摘した10). また嘉村ら(2017)は, 情報の構造が異なる資料群を総合的に情報システムとして扱うためには, 事後的に情報を追加することができる半構造型で表現の自由度が高いグラフモデルを用いることが望ましいとしている11).

そこで本研究では, 主語・述語・目的語を連ねることで有向グラフを構成し, 機械可読性の高い構造化データを表現可能であるResource Description Framework(以下RDF)を用いたLODモデルの検討を行う. DAに関連するLODの代表的な取り組みとしては, Dublin Core 2011で発表されたパイロット12)を元にEuropeanaが2012年から行っている大規模データのLOD化13)14)が先駆的なモデルとして挙げられる. 国内でも, 武田らによって2012年より DBpedia Japaneseが公開され, 分野連携型データベースの枠組みが検討されてきた15). 2020年には国の分野横断統合プラットフォームであるジャパンサーチにおける利活用のためのメタデータスキーマLODとして「ジャパンサーチ利活用スキーマ」16)17)が公開されている. その設計に際しては, 利用者タスクの観点で扱いやすく連携元にもメリットがあることが目指されている点は参照性が高い. ジャパンサーチLODでは外部のRDFの活用が目指されており18), RDFを媒介としたジャパンサーチと接続可能な教育コンテンツの拡充が望まれる.

2.3 教育情報に関するLOD

教育分野に関連するLOD化の取り組みとしては, 「教科書LOD」19)や「学習指導要領LOD」20)などがRDFを用いたデータセットとして公開されている. 「教科書LOD」は初等中等教育の現行使用教科書の出版情報・単元情報・編修趣意書情報などをLOD化した点21), 「学習指導要領LOD」は文部科学省が公開している学習指導要領と教育要領の内容・コード及び関連する情報をLOD化した点22)に特徴がある. 両者は日本の教育現場で重視される教科書や学習指導要領をデータモデルの中心に位置づけて設計している点で参照性・応用性が高く, 教育分野における基盤情報のLODモデルとして有用である.

本研究においても, これらの既存の取り組みを参考にするとともに, 既存のデータセットとリンク可能なLODモデルを検討する. 中村ら(2018)は, DAの活用に際しては, ユーザの目的に応じた史料の収集・整理・分析を可能とする環境が重要であることを指摘している23). このことをふまえ, 学校におけるDAの活用を対象とした本研究では, 教育現場の需要や目的に即した視点でデータモデルを検討する.

なお, DAを対象としない広義の「教材アーカイブ」自体は, 大学や自治体, 企業やNPOなどによって構築が進んでいるものの, 「教材アーカイブのデータセットに対してLODを適用する」という取り組みはDA活用の文脈以外でも管見の限り見当たらない. それゆえ, 本研究のアプローチによって, 教育の情報化及び教材の活用促進のために新しい知見を提示することが期待できる.

3.提案手法

3.1 研究対象

本研究では, 多様なDA資料と「教育メタデータ」が用いられていることから, 前述したS×UKILAM連携で共創された教材アーカイブのデータセット(2023年11月時点で公開されていた教材114点及びそのメタデータ)を対象としてLODのモデル化を行う. 対象データは, 以下の3要素から構成されている点に特徴がある.

  1. 1)   DA上で既に存在している資料・情報
  2. 2)   教材化ワークショップの参加者が, 1)を素材として制作した教材本体(学習シナリオや指導案)
  3. 3)   共創された 2)の教材に対して付与された「教育メタデータ」

なお, 「教育メタデータ」は ,「学年」「教科」「発問」「キーワード」など教材化ワークショップの過程で必然的に付与されていく性質のものと, 「学習指導要領コード」など外部連携のために必要性の高い性質のものがある. また, 「学年」「教科」のように入力事項がある程度統制されている項目と,「発問」「キーワード」のように統制がかけられない項目, 多くの教材に付与されている項目と滅多に付与されない項目など, 多面的な性質が入り混じっているという特徴も認められる. メタデータ付与と教材制作の関係性, 制作手順も一様ではなく, 実際のワークでは教材制作後にメタデータを付与する事例もあれば, 制作中に並行して付与する事例, メタデータから教材を制作する事例もあり, 様々なパターンで構築されている. 少なくとも, 公開されている教材アーカイブ上では, 1)〜3)のデータは並列関係で混在している状態である. 本研究ではこのように複雑な性質がフラットに格納されている教材アーカイブのデータを有効に活用できることを目指し, LODモデルを検討する.

Fig. 1. S×UKILAM連携の全体像と本研究の位置付け

Overall image of the S×UKILAM collaboration and role of this study

S×UKILAM連携の全体像と本研究の位置付けを(Fig. 1.)に, S×UKILAM連携で共創された教材とメタデータの例を(Fig. 2.)に示す. 本研究はS×UKILAM連携で構築・ストックされた多様なデータを構造化し, 外部の関連情報との接続を促進することで対象データのフロー化を図る. そのためのLODモデルについて, 次節で提案する.

Fig. 2. S×UKILAM連携で共創された教材とメタデータの例

Examples of learning materials and metadata co-created through the S×UKILAM

3.2 本研究が提案するLODモデル

LODモデルの設計は, 以下の方針に基づいて行なう.

  •    メタデータを媒介として教材間を接続し, メタデータの共通性から教材を検索可能にする
  •    検索した教材に繋がっているメタデータや情報・資料も検索可能にする

例えば(Fig. 3.)で例示するように, 共通の資料を素材として活用している教材AとBや, 共通の学習指導要領コードをメタデータとして持つ教材AとC, 共通のキーワードを持つ教材CとDなどの繋がりや関係性の把握を支援すると共に, 共通のメタデータを持つ教材に紐付いている多様なメタデータの広がりを探索的に検索可能とするネットワークの構築を目指す. その際, 3.1で述べた対象メタデータの語彙や情報のメタデータ付与上の統制/非統制に関わらず, 既存のLODや外部データと接続しやすい形で構造化する.

上記方針に即して実際にデータを構造化するために作成した, 本研究のLODモデルを(Fig. 4.)に示す. 図中における楕円はリソース, 四角はリテラル, 矢印はプロパティを表している.

Fig. 3. 本研究におけるLOD設計方針の概略

Schematic of the LOD design policy in this study

Fig. 4. 本研究が提案するLODモデル

The LOD model suggested by this study

3.3 LODモデルの設計と特徴

LODモデル設計における最大の特徴は, 本研究が対象とするメタデータが, 素材として活用されているDA資料(以下「元資料」)ではなく, 加工された教材に対して付与されていることを考慮し, 教材を基点・ハブとしたLODモデルを設計したことにある. また, 教材に付与されたメタデータ全体を「教材メタデータ」と定義した上で, 活用された素材資料に関する情報を「元資料メタデータ」, 教育現場の目線に基づいて新たに付与された情報を「教育メタデータ」と定義して階層化した. これにより, 元々DA側で付与されているメタデータと, 教材化のプロセスを経て, 教育現場における特定の目的下での活用を前提として付与されたメタデータとを構造的に区別し, その差異を把握しやすくした.

加えて, 対象教材に複数のメタデータが付与されていることを活かすため, それらを他の教材や外部コンテンツと接続しやすい構造にした. これにより, 他の教材やメタデータからの検索が容易になると共に, セレンディピティの創発に繋がると考えた. この観点及びLODの特徴を活かすための具体的な工夫の一つに, 学習指導要領コードをリテラルでなくリソースとすることで, 外部リソースの既存LODとも機械可読にリンクしやすい構造にしたことが挙げられる.

3.4 RDFスキーマの設計とデータ作成

対象データセットのLOD化にあたり, RDFスキーマの設計を行った. 例えば, 学習指導要領コードに関するメタデータを記述する際には, 値として「学習指導要領LOD」で定義されているURIを与えて設計した. キーワードのメタデータについては, ジャパンサーチ利活用スキーマにURIが存在する場合には, そのURIを与えるように設計した. URIの設計にあたっては, w3id.org24)を用いて以下の永続識別子を得た.

https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/

メタデータ間の関係性及び既存の外部コンテンツとの接続例を(Fig. 5.)に示す. 特徴としては, 「教育メタデータ」に対して外部リソースを関連付けるメタデータとして「semp:指導要領コード」,「semp:キーワード」などのプロパティを用意したことが挙げられる. なお, 接頭辞「sem」,「semp」はそれぞれ, 「https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/」,「https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/term/property#」を示し, 本研究で定義した独自の名前空間である.

RDFスキーマを持っているジャパンサーチのキーワードとの関連付けに際しては, まず「sem」空間でリソースを定義し (例sem:キーワード/農業全書), それを「rdfs:seeAlso」を用いてジャパンサーチのリソース (例keyword:農業全書)と関連づける形とした. そのような設計にした背景には, 対象メタデータが多様であるという特性があった. そのため, ジャパンサーチ以外のリソースとの関連づけを行うケースもあることを考慮し, 独自リソースとして定義したキーワードと既存リソースの関係を柔軟に記述可能とすることで運用性を高めることを重視した.

次いで, RDFに変換する前のexcelで管理されていた対象データに対して, 定義したRDFスキーマに対応するRDFデータ「sukilam-educational-metadata」を作成して GitHubリポジトリに設置し25), 次のURLからアクセス可能とした. https://github.com/sukilam-educational-metadata/sukilam-educational-metadata.github.io/blob/main/dataset/schema.ttl

その結果, 対象教材114点から27,000 件を超えるトリプルを構築し, 公開することができた.

Fig. 5. RDFに即したメタデータの関係性と外部コンテンツとの接続例

Relationships between metadata based on RDF and examples of connections to external content

4. 開発したシステム

4.1 提案モデルに基づいたシステムの開発

本研究では, 提案モデルを用いて, 2つのシステムを開発する. LODモデルを活用したシステムとしては, 情報学に関する知見を有するユーザ向けのものと, エンドユーザ向けのものという2つの方向性/ステークホルダーが想定される. 以下, 4.2では情報学, とりわけSPARQL言語に馴染みのあるユーザ向けに開発したシステム, 4.3ではSPARQL言語に馴染みのないユーザ向けに開発したシステムについて述べる.

4.2 SPARQLエンドポイントの構築

神崎(2012)は, Linked Dataをデータベースで提供する場合には, リソースURIに対してレコード単位の RDFを返すだけでなく, 条件に従って該当するデータセットを取り出せるようにすることの重要性を指摘している26). そこで本研究では, 神崎が指摘した要件を満たすデータセットの活用手法として, dydra.com27)を用いてSPARQLエンドポイントを構築する. また, このエンドポイントに対して, ジャパンサーチの利活用スキーマを参考としてSnorql for Japan Search28)を用いた検索アプリケーションを構築する. さらに, RDFデータ内の一部のURIにアクセスした際, 本エンドポイントにリダイレクトさせることで, URIにアクセスした際の情報提供を可能とする. この機能の構築にあたっては, ジャパンサーチの利活用スキーマに加え, 江草らの手法21)を参考にした.

以上をふまえ, RDFデータの内容を容易に確認できるSPARQLエンドポイントを開発し, 「Snorql for 教育メタデータ」として公開し29), 次のURLからアクセス可能とした.

https://sukilam-educational-metadata.github.io/snorql/

これにより, 本研究のデータモデルの仕様や構造を上述の「sukilam-educational-metadata」と合わせて参照・活用できるようにした. この結果, 例えば(Fig. 6.)のように, キーワードや学年などのメタデータ項目がリソースの形で格納されていることが構造的に確認できるようになった.

Fig. 6. 構築したSPARQLエンドポイントの画面例

Example of a screen view from constructed SPARQL Endpoint

4.3 SPARQL言語に馴染みのないユーザ向けのアプリケーション開発

4.2で述べたLOD開発段階では, ユーザビリティに関する課題が認められた. すなわち, SPARQLエンドポイントを操作するためには, ある程度SPARQL言語に習熟する必要があるため, 本研究で構築したSnorqlを直接的に活用することが難しいユーザが一定数いることが考えられた. そこで, DA資料と教育情報を接続・構造化してネットワークで繋げるLODの利点をSPARQL言語に馴染みのないユーザに有用性の高い形で還元するためのアプリケーションの開発を検討した.

具体的には, 教材に紐づけられた学習指導要領コードを媒介としてNHK for school API30)を活用した関連コンテンツの取得や, CiNii Books, J-STAGE等との関連付けによる書籍・論文などの多様な情報とDA資料を紐付けて教材の検索を可能とするアプリケーションの開発を進めた. その際, バックエンドに4.2のSPARQLエンドポイントを使用し, フロントエンドにはVue.jsのフルスタックフレームワークであるNuxt 3を使用した点は, 本手法の特徴である.

開発したアプリケーション「S×UKILAM LOD Easy アプリ」31)(以下, Easyアプリ)の画面例を(Fig. 7.)に示す. 画面上部には絞り込み用のファセットを提示し, 本データセットの特徴である多様な構造化データに基づく検索を支援する. SPARQLのようにクエリを記述する必要がないため, そのような技術に馴染みのないユーザも直感的に利用することができる.

Fig. 7. Easyアプリの検索画面例

Example of Easy app search view

また, 開発したEasyアプリの詳細画面の例を(Fig. 8.)に示す. 個々の教材に対して, 学習指導要領コードに基づくNHK for Schoolのコンテンツの提示機能や, キーワードに基づくジャパンサーチや関連論文, 書籍の提示機能を提供する. 次章では, これらの関連コンテンツの取得方法, 取得結果についてSPARQLのクエリ文の例と共に述べる.

Fig. 8. Easyアプリの詳細画面例

Example of Easy app detail view

5.検証

5.1 開発したLODにおける教材間の接続

開発したLODにおける教材間の接続を確認するため, 教材ID「sxx-ws1_oi04」を事例として取り上げる. この事例におけるメタデータを基盤とした他の教材との接続例を(Fig. 9.)に示す.

(Fig. 9.)より, 例えば, 「sem:data/教育メタデータ」のうち「semp:指導要領コード」の「https://w3id.org/jp-cos/8220242100000000」を確認すると, 同じ指導要領の項目に紐づけられた教材が他にも15件あることが確認できる. 同様に, 「sem:学年/中1」では37件, 「sem:教科/地理」では11件,「sem:視点/生活」では31件, 「sem:思考力・判断力・表現力」では58件というように, 構造化されたメタデータの要素を媒介として他の教材との接続や関係性を把握可能となったことが確認できる.

Fig. 9. 構築したLODの具体例

Specific examples of LOD constructed

5.2 開発したLODにおける外部データとの接続

開発したLODの利点を活かした活用例としては, 教材に使用された資料やキーワードを媒介として, 関連する既存のDA資料や教育動画コンテンツなどの情報を検索することが考えられる.

そこで本節では, 開発したLODと外部データとの接続を確認するため, ジャパンサーチ及び「学習指導要領LOD」との接続事例を取り上げる.

5.2.1 ジャパンサーチとの接続

ジャパンサーチとの連携については, 開発したSPARQLエンドポイント上でクエリを通じて教材IDに関連付けられたキーワード一覧を取得し,「rdfs:seeAlso」の対応関係にあるジャパンサーチで定義されているキーワードのURIを取得可能となった.

この方法で「教育メタデータ」からジャパンサーチのリソースを取得する検索結果の例を(Fig. 10.)に示す.(Fig. 10.)より, 教材ID「sxx-ws6_grop01-1」に付与された「semp:キーワード」11件のうち, 9件がジャパンサーチでも定義されているLODデータとして接続できていることが確認できる.

PREFIX semp: <https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/term/property#>

PREFIX rdfs: <http://www.w3.org/2000/01/rdf-schema#>

SELECT DISTINCT ?s ?keyword ?jpsKeyword WHERE {

bind(<https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/data/教育メタデータ/sxx-ws6_grop01-1>as ?s)

?s semp:キーワード ?keyword.?keyword rdfs:seeAlso ?jpsKeyword .}

Fig. 10. 教育メタデータからジャパンサーチのリソースを取得する例

Example of obtaining Japan Search resources from educational material metadata

また, 以下のクエリより, 対象データにおいて「元資料メタデータ」の中で137件のジャパンサーチの資料が活用されていることが開発したSPARQLエンドポイント上で確認できる (Fig. 11.).

select distinct ?e ?label ?src ?src_label ?url ?image where {

  ?top semp:元資料メタデータ/semp:元資料 ?src .

  ?src a <https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/元資料>;

    rdfs:label ?src_label;

    schema:image ?image;

    schema:url ?url .

    filter (regex(str(?url), "jpsearch.go.jp")) .

  ?top semp:教育メタデータ ?e . ?e rdfs:label ?label .}

Fig. 11. 「元資料メタデータ」からジャパンサーチの資料が活用された事例を確認した例

Examples of cases in which Japan Search resources have been used from “source material metadata”

さらに, 以下のクエリより, 「教育メタデータ」のキーワードに紐づくジャパンサーチ上のキーワード(及び人物)が662件接続されていることが開発したSPARQLエンドポイント上で確認できる (Fig. 12.).

select distinct ?jpsKeyword WHERE {

 ?s semp:キーワード ?keyword. ?keyword rdfs:seeAlso ?jpsKeyword . }

Fig. 12. キーワードに紐づくジャパンサーチ上のキーワード(及び人物)を確認した例

Example of confirming keywords (and people) on Japan Search associated by keywords

このようなジャパンサーチとの接続により, 「富士山」「防災」「徳川家康」「第二次世界大戦」など, 教材開発時に参照性の高い一般的な語彙をもとにジャパンサーチの様々な資料から教材を検索・参照可能になった点は有用性が高いと考える. ジャパンサーチは2024年5月時点で日本各地の240を越える連携データベースから約3000万件の多様な資料のメタデータを横断検索可能であり32), 今後の教育現場における情報基盤としての役割が期待される. 本研究で示したLODモデルは, 今後更に拡張していくことが予想される国の分野横断型DAプラットフォームの活用促進にも資するものであると考える.

同様に, 開発したEasyアプリで「教育メタデータ」から関連するジャパンサーチのリソースを取得する検索結果の表示例を(Fig. 13.)に示す.

Fig. 13. Easyアプリにおける関連するジャパンサーチのリソースを取得した表示例

Example of Easy app view with related Japan Search resources

5.2.2 「学習指導要領LOD」との接続

学習指導要領コードを媒介とした教材や関連情報の検索が可能となったことも, 開発したLODの利点として挙げられる.「学習指導要領LOD」との連携は, 以下に示す統合クエリにより, 教材IDに付与されていた学習指導要領コードに基づいて学習指導要領のテキスト「schema:description」や教科「jp-cos:subjectArea」, 学校種別「jp-cos:school」などの情報を取得可能となった.

学習指導要領LODに対する統合クエリの取得結果の例を(Fig. 14.)に示す. (Fig. 14.)より, 23件の教材ID「sxx-ws6_grop01-1」に紐づいた学習指導要領の項目を確認することができる.

PREFIX semp: <https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/term/property#>

PREFIX jp-cos: <https://w3id.org/jp-cos/>

PREFIX schema: <http://schema.org/>

SELECT ?code ?desc ?subjectArea ?school WHERE {

<https://w3id.org/sukilam-educational-metadata/data/教育メタデータ/sxx-ws6_grop01-1> semp:指導要領コード ?code .

SERVICE SILENT <https://dydra.com/ut-digital-archives/jp-cos/sparql> {

 ?code schema:description ?desc;

  jp-cos:subjectArea/schema:name ?subjectArea;

  jp-cos:school/schema:name ?school .

 FILTER(lang(?subjectArea) = "ja")

 FILTER(lang(?school) = "ja")

}}

Fig. 14. 指導要領LODに対する統合クエリの取得例

Example of integrated query acquisition for Course of Study LOD

「学習指導要領LOD」との関連付けを行ったことで, SPARQLエンドポイント上で「学習指導要領LOD」のURIを介して教材に関する指導要領の説明文の情報を取得できるようになった. これにより, 指導要領の内容から教材を検索することや, 同じ指導要領項目でも異なる視点や学習デザインで制作された教材を発見することも可能になった. 同様に, 学習指導要領コードが付与されているNHKの動画コンテンツ情報など, 既存の教育に関する情報/資料を接続可能にしたことは, 学校現場の需要に応えるという点で有用性が高いと考える.

例えば, ワークショップで付与された学習指導要領コードは, 教材アーカイブでの公開段階では「8322203121100000」のような数字の羅列に過ぎず, それが何を示しているのか把握できないという課題があった. これに対して, 開発したLODを活用することで「中学校社会科」において, 以下に示す学習指導要領の教育目標に即して制作された教材であることを自然言語で把握できるようになった.

「自らが生活する地域や受け継がれてきた伝統や文化への関心をもって,具体的な事柄との関わりの中で,地域の歴史について調べたり,収集した情報を年表などにまとめたりするなどの技能を身に付けること」

また, Easyアプリにおける学習指導要領コードの表示例を(Fig. 15.)に示す. Easyアプリにおいては, 学習指導要領の項目内容の表示に加えて, NHK for School APIを利用することで, 同じ学習指導要領コードが付与されているコンテンツも自動的に収集・表示する仕様とした.

Fig. 15. Easyアプリにおける学習指導要領コードの表示例

Example of Easy app interface for displaying the Japanese Course of Study code

さらに, 「学習指導要領LOD」側にもS×UKILAM教材アーカイブの検索機能が追加される形で連携が進展した. これにより, 「学習指導要領LOD」のシステム上でも学習指導要領細目に対応するS×UKILAM教材を検索することが可能となった. その事例を (Fig. 16.)に示す. (Fig. 16.)より, 「学習指導要領LOD」上で学習指導要領コード「8434503331100000」を媒介として, 以下の教育目標に基づいて制作された教材が, S×UKILAM教材アーカイブに10件あることが確認できる.

「(ア) 法や制度による支配秩序の形成と身分制,貿易の統制と対外関係,技術の向上と開発の進展,学問・文化の発展などを基に,幕藩体制の確立,近世の社会と文化の特色を理解すること。」

上記事例で挙げた10件の教材は, 同じ学習指導要領に紐づいているものの, 主題は日本橋・忠臣蔵・貨幣制度・徳川吉宗・蝦夷錦・朝鮮通信使・大名行列など多様であり, 当該時代を学習する際のアプローチには多様な可能性があるというヒントを得ることができる. また, 活用されている資料もジャパンサーチのギャラリー・会津図書館・北海道デジタルミュージアム・Aflo社の写真など, 多様な機関, 地域の資料が活用されていることが分かる. 同様に, 高等学校日本史の学習指導要領コードに関する画面からの検索であっても, 紐づいている教材の制作者が小学校の先生から企業関係者まで多様な属性であることにも気付くことができ, 校種を横断したカリキュラムをふまえた教材開発を行うこともできる.

このように, LODを媒介とすることで, 一意の共通するデータを持つアーカイブ/データセット/システム同士が, 互いのUI上で逆引き検索することが可能となる. これにより, 多様なユーザの様々な導線からのアクセシビリティやセレンディピティを高める効果が期待できる. ただし, 本研究のシステムは, 仮にユーザが偶然性を体感できたとしても, 正確にはデータ構築者の設計によって情報のリンク構造を明示することで関連情報を提示しているため, 真のセレンディピティ創発に寄与しているとは言い難い点には留意が必要であり, 更なる検討の余地が認められる.

なお上記の連携事例は, 技術的には「学習指導要領LOD」のサイト上で本研究が公開したSPARQLエンドポイントに対してクエリの発行及びデータの取得を行なう形で接続が為されている. API利用の場合は状況・要求によっては仕様の変更が生じ得るが, SPARQLを利用することにより, 利用者が必要とするデータを柔軟に取得・利用できる. この点も, LOD化及びSPARQLエンドポイントの提供に関する利点, とりわけSPARQL言語に馴染みのあるユーザ向けに開発したシステムとしての有用性を示すものである.

Fig. 16. 「学習指導要領LOD」との連携事例

Example of linkage with “Japanese Course of Study LOD”

5.2.3 開発したLOD及びアプリケーションに関するまとめ

以上の結果は対象データセットをLOD化した利点を示すものであり, ジャパンサーチなどのDA資料や学習指導要領・NHKの動画コンテンツなどの教育情報を学習教材と紐付けて検索することを容易にしたことで, Web上に散在する多様な資料や情報と, 学校教育とを架橋するLODモデルの一例を示すことができたと考える.

LODの内訳については, (Fig. 17.) 左に示したクエリにより, 特定のプロパティでどれだけのトリプルが接続されているかをカウントして確認した. その結果, 上位5件は (Fig. 17.) 右に示した通りであった.

なお, rdfs:seeAlsoとsemp:指導要領コードは, それぞれジャパンサーチの統制語彙及び学習指導要領LODと接続するために使用されるプロパティである. このことより, 4000を超えるトリプルが外部リソースと接続できていることが明らかになった.

Fig. 17.RDFトリプルの内訳

Breakdown of the RDF triples

SELECT ?p (COUNT(*) AS ?count)

WHERE {

 ?s ?p ?o .

}

GROUP BY ?p

ORDER BY DESC(?count)

p count
rdf:type 4515
rdfs:label 4231
rdfs:seeAlso 2387
semp:指導要領コード 1645
semp:キーワード 1427

本研究の成果は, 教育の情報化とデジタル文化資源の活用を促進し, 今後急速に普及が進むことが予測されるデジタル教科書やデジタル副読本において各地の文化資源をカリキュラムに接続させて活用することに貢献し得る. 今後は, 本研究の手法を応用し, デジタル教科書の単元との接続や, 学習指導要領の解説などとの機械可読なデータ接続についても検討する. また, 技術的な観点として, 本アプリの開発にあたってバックエンドにSPARQLエンドポイントを使用することで, フロントエンドの開発に注力することができ, 効率的な開発を行うことができた. この点も教材情報をLOD化した利点を示す一例と言える.

一方で, 取得したいデータを自由に制御できるSPARQLエンドポントに対して, アプリケーションは提供者があらかじめ決めたクエリに基づいた結果しか提示できないという特性・制約による限界があることも否めない. したがって, 本研究で提案したLODモデルを応用したシステムを開発する際には, 対象ユーザを明確に設定した上での設計が望まれる.

5.3 国際連携

本研究の対象データは, 現状では国内の資料が大半である. 一方で, 「歴史総合」の必修化などを背景として, 今後は世界中の資料やコンテンツが教材化の対象となる. その際, 教材作成におけるノウハウやメタデータスキーマについて, 国際的に共通化すべき点, あるいは逆に各国でローカライズすべき点は何かなど, 知識共有の体制を進展することも望まれる. そのため, 今後はEuropeanaなどの国外のDAポータルとの連携への需要も高まっていくことが予想される.

S×UKILAM連携ではEuropeana本部などでWS を継続的に開催し(2022年度オランダ, 2023年度ドイツ, 2024年度オランダ及びデンマーク), DA資料の教材化が国や文化を越えて同様のスキーマで実現できることを明らかにしている. 本研究の対象データにおいても, 日本の教材でEuropeanaの資料が活用されている事例や, Europeanaメンバーが制作した教材にジャパンサーチの日本資料が活用された事例についてもLODとして接続・構造化することができた. その結果, 例えば(Fig. 18.)で例示するように, Europeanaメンバーがジャパンサーチ資料を活用し, 初期のグローバリゼーションについて探究する学習シナリオについて, カルチュラルジャパンやJ-STAGE, CiNii Booksなどで関連コンテンツを機械的に自動収集・提示することで, 更なる教材開発の深掘りや発展的な学習の支援が可能となった. これにより, 教育の質を高めるだけでなく, 教材研究における時間短縮にも繋がり, 業務負担の軽減への寄与も期待できる.

Fig. 18. EasyアプリによるEuropeana WSで共創された教材に関連するコンテンツの接続例

Example of connecting contents related to the learning materials co-created in Europeana WS by Easy app

5.4 課題

本研究が対象とした教材アーカイブに限らず, 日本ではまだ国外資料を活用した教材数が少ない. そのため, LODの利点や国際的な発展性に寄与するデータ構造の精緻化は十分に検討できていない. 今後は国際的なワークショップ実践の蓄積と並行してデータを再構成し, LODの利点を世界的な視座で発揮できるデータモデルを構築する. その際, 国際連携を進展させるために有用なメタデータの共通項目についても検討を進めたい.

また, 本研究のRDFデータでは, 現状では一部正規化が不十分であることも課題として挙げられる. 例えば, 「伊能図」と「大日本沿海輿地全図」, 「月」と「Moon」などの表記揺れリソースを確認している. 今後はこれらの正規化アルゴリズムを改善するとともに, オーサリングツールなどを利用してデータ作成を行う際に正規化された値を入力できるような環境構築を行う.

6. おわりに

本研究の目的は, DAを活用した教材と関連情報を接続・構造化するLODモデルを構築することであった. そのために, S×UKILAM教材アーカイブを対象として, 機械可読性の高いRDFを用いてメタデータを構造化し, LODデータセットを構築した. その際, 教材を基点としてメタデータを特性ごとに階層化し, 各リソースにURIを与えることで, 教材や関連情報の検索性を高めた. 次いで, 教材と関連情報の接続・構造化を確認するためにSPARQLエンドポイントを開発した. また, SPARQL言語に馴染みのないユーザ向けに, メタデータ項目から直感的に教材や関連情報を検索可能なアプリケーションを開発した. その結果, DAを活用した教材と関連情報を接続し, 構造化されたメタデータに基づいて検索可能なLODモデルを構築することができた. 本研究の成果により, 独立したリソースとしてWebに点在していた教育資源を活用しやすい統合的データとして提供可能となり, 教材やDA資料の検索性や再利用性を高めることで教育の情報化・DX化を支援し, 教育内容の発展や教材開発に係る労働環境の改善に寄与する知見を示すことができた. また, デジタル文化資源の活用を促進するモデルを開発したことで, 公開したDAの活用を期待する資料保有機関に対しても有用となる情報活用フローを提供することができた.

なお, 本研究は初等中等教育を対象としているものの, 提案手法は高等教育や社会教育などの分野でも応用可能であると考える. また, 本研究で開発した「S×UKILAM LOD Easy アプリ」は教員が授業で活用する際や資料公開機関が活用事例を参照する際などを想定した仕様ではあるものの, 将来的には児童生徒も活用し, アプリ上でインタラクティブに学習成果を接続する仕組みについても検討していきたい.

高橋(2021)も指摘しているように, 今後はより多くの資料のデジタル化とオープン化が進むことで新しい利用を生み, 新たな知が創出される基盤が形成されることが望まれる33). そのためには, より多くのOpen Dataが必要であり, 資料保有機関の協力が不可欠となる.とりわけ, 多様な資料の教育活用を支援するLODを拡充するためには, 学校と資料保有機関との連携を進展させることが肝要となる. 本研究の成果も, 前提としてS×UKILAM連携におけるデータ利用者とデータ構築者の対話・議論に基づいたメタデータ付与があったことでLODシステムにおいてユーザにとって有用なデータ接続が実現したと考えられる.

今後は, 資料保有機関の負担がより少ない形での資料提供を支援する枠組みや, DA教材を現場で活用する教員の授業設計や実践をよりサポートするためのインターフェースのあり方についても検討されることが望まれる. これらのことをふまえ, 多様なDA資料を子どもたちの豊かな学びに繋げるための「人」と「データ」のネットワーク構築を進展させていきたい.

謝辞

本研究はJSPS科研費 JP 24K15673, 2022年度国立情報学研究所公募型共同研究 (22FC03) の助成を受けたものである.

参考文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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