2025 年 4 巻 1 号 p. 33-51
物語において,内容が同じであっても,表現ひとつで読者に与える影響は大きく変化する.したがって,表現が読み手に与える影響を分析することは有益であると推測される.そこで本研究では,読者に与える印象に大きく寄与すると考えられる「描写距離」の概念に着目することとし,描写距離に影響する文体的特徴を分析し明らかにした.分析は,描写距離がそれぞれ近・中・遠と考えられるジャンルの小説中の条件を満たすシーンを対象に,基礎統計解析やχ二乗検定,共起分析等を行った.分析から,地の文の視点や語り手を登場人物が担うなどすることで情報の付加や婉曲が生まれ,複雑性が増加し,その結果描写距離が近くなることが示唆された.その後分析結果をもとに描写距離の計算式を作成し,実際に描写距離を算出し,評価実験を行ったところ,描写距離が近いほどは描写距離の判定が容易になること,描写距離の特徴が混合しているシーンにおいては,判定がより困難になることが示唆された.