抄録
近年のわが国農業を取り巻く状況は, 著しい変化を遂げている. 農産品の輸入自由化に代表されるような農業の国際化, 農外資本による農業部門への進出, 一方, 環境問題が取り沙汰される中で, 「持続可能な開発」の議論に象徴されるような農業と環境に関わる新たな視点も提出されている. このような農業を取り巻く新たな諸変化に対して, 農業地理学研究においても新たな研究の枠組みが必要とされているのではないか. この問題意識に基づいて, 近年欧米で取り上げられるようになった新たな農業地理学の方法論としてフードシステム論に着目し, その特徴を展望した. その際, 先進国における農業の工業化と農業の資本化という2つの観点を取り上げた. また, フードシステム論の途上国農業への応用の可能性を開発論や持続可能性の議論などから検討した. 次に, フードシステム論を農業地理学の方法論として位置づけるための課題を検討した. その際, 生産, 加工, 流通などの諸部門間の関連, 都市と農村, あるいは農村と農村といった地域間の関連及び商品や資本, 労働力などのシステムを循環するフローに着目した.