経済地理学年報
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特集号: 経済地理学年報
66 巻 , 1 号
特集 都市・社会とオリンピック
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
表紙
巻頭言
特集論文
  • ―地理学的主題の探求―
    成瀬 厚
    2020 年 66 巻 1 号 p. 3-28
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,英語圏におけるオリンピック研究を整理したものである.本稿で取り上げたオリンピック研究の多くは,上位分野であるメガ・イベント研究に位置づけることができ,学際的な観光研究から発したこの分野には都市社会学や地理学の貢献が大きかった.オリンピックという複雑で大規模なイベントの性質上,本稿では多様な研究分野を扱っているが,オリンピック研究における都市研究を含む広義の地理学的な主題を探求するのが本稿の目的である.
        IIIでは初期のイベント研究における社会的インパクトの分類―経済,観光,物理的,社会・文化的,心理的,政治的―に従って,多様な分野におけるオリンピック研究を概観した.IVでは地理学的主題をもった研究に焦点を合わせ,オリンピック都市,グローバル都市間競争,都市(再)開発,レガシー・環境・持続可能性,市民権と住民参加という分類で整理した.
        地理学者によるオリンピック研究は2000年前後から,過去の開催都市を概観する形で,それ以降盛り上がりをみせる地理的主題を持つオリンピック研究を牽引したといえる.当初から国際的なイベントであった近代オリンピック競技大会は,今日において大会招致がグローバル都市間競争の一端となり,大会関連開発は新自由主義的な都市政策の下で官民連携によって行われている.さまざまな問題を抱え,オリンピックはどこに向かうのだろうか.

  • ―脱工業化,リスケーリング,ジェントリフィケーション―
    荒又 美陽
    2020 年 66 巻 1 号 p. 29-48
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        本論は,東京,パリ,ロンドンが19世紀以降に実施してきたメガ・イベントとその開催地を手掛かりに,21世紀にこれらのグローバル・シティがオリンピックを招致した都市計画的な意味を検討する.19世紀中葉にはじまる万博は,国民意識の形成と労働者の教化を目的としており,都市においてはその近代化を内外に示すものであった.世紀転換期には植民地支配の正当性を示す展示も行われ,帝国主義的な意味合いを強めた.オリンピックは,当初は万博ほどの影響力をもたなかったが,スタジアムの建設などを通じて次第に都市におけるインパクトを強めた.第二次大戦前のオリンピックは,特に都市の郊外開発と軌を一にしており,戦後には郊外がさらに広がる巨大都市化との関係を読み取ることもできる.そこから近年の事例をみると,脱工業化の局面において,特に1990年代からの都市再生プログラムに連動する形でメガ・イベントの会場設定がなされていることを見て取れる.三都市は中心から半径10キロ程度の領域の再価値づけを共通して行っており,その範囲におけるジェントリフィケーションも進んでいる.それは,都市が投資を集中する範囲を定めたという意味でのリスケーリングであり,都市計画においてはグローバル企業を引き付けるための基盤づくりや観光化といった特徴を持っている.メガ・イベント招致は,三都市において,こうした政策の促進剤の役割を担っている.

  • ―都市(再) 開発の様相に関するメモランダム―
    大城 直樹
    2020 年 66 巻 1 号 p. 49-59
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿では,東京で行われた(る) 二つのオリンピック大会に関連した都市(再) 開発の様相の異同について簡単な検討を行った.1964年と2020年の間には大きな差異が存在する.一言で言うならば,後者におけるイベント自体の商業化の進展と公的空間の大規模な再開発にともなう収益装置化,つまり公的空間の価値の使用価値から交換価値への転換に他ならない.都心部のみならず沿岸部の埋め立て地でも同様のことは行われている.他方,1964大会の特徴は,東京都心部の諸インフラの大々的な改造・建造であるが,事業は1960年代の高度経済成長期の状況ににわかに対応させたものであったため,今日では,諸々の建造環境が逆に都市成長の桎梏となり果てている.また,都市表象ないしは景観表象についても,衛生観念と結びついて,美化キャンペーンのもとで,ゴミやポスター,汚水・下水の不可視化が徹底された結果,人々の意識を大きく変容させることとなった.

  • 山口 晋
    2020 年 66 巻 1 号 p. 60-72
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        本研究では,ヴィリリオの「速度」,クレーリーの「知覚」とドゥボールの「スペクタクル」との交点を分析概念として援用しつつ,1924年に開催された第1回シャモニー・モンブラン冬季五輪から2018年開催の第23回平昌冬季五輪における男子4人乗りボブスレー競技とその空間の変容について考察を進めた.テクノロジーの進展とともにボブスレー競技が高速化することで,観る者の知覚が変容し,スペクタクル化が生まれる.それらの相互作用がさらなる高速化と知覚の変容,スペクタクル化を生み,結果としてこの競技の熱狂を下支えしていることを跡付けた.

  • ―モントリオールとシドニーの五輪スタジアムを事例に―
    岡田 功
    2020 年 66 巻 1 号 p. 73-89
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        近年,オリンピックの開催費用は増大する一方である.華々しい2週間余の祭典が幕を閉じると,今度は五輪施設の維持・運営費が開催都市にどこまでも付いて回る.とりわけ頭が痛いのは収容人数が通常7万人を超す夏季五輪スタジアムである.巨大な観客席を埋めるイベントの需要が限られるうえに,維持管理・修繕費が莫大な額にのぼるからである.しかし近年,「ホワイト・エレファント(無用の長物) 」として批判を浴びがちな五輪スタジアムに再投資することで地域活性化の呼び水にしようとする動きが一部でみられる.1976年夏季大会と2000年夏季大会の開催地モントリオールとシドニーである.モントリオールの五輪スタジアムの屋根を支える展望塔には2018年,大手金融機関の本部が入居し,1,000人以上が働くオフィスに様変わりした.シドニーでは2016年7月,ニュー・サウス・ウェールズ州政府が五輪スタジアムを所有・運営する民間企業から所有権を買い戻した.近代的なスタジアムに大改修するほか,2本の鉄道新線を建設し,接続させる.両都市が五輪レガシーの再生に踏み切った経緯や狙いを分析すると,ある共通点が浮かび上がった.それは五輪スタジアムが①都心部に近く交通アクセスに優れたオリンピック公園に立地する②所有者が従来から設備投資を怠らなかった③競合スタジアムが事実上存在しない④恒常的な赤字体質か,近い将来じり貧に陥ることが確実視されていた―ことである.

  • 小泉 諒
    2020 年 66 巻 1 号 p. 90-111
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,2020年オリンピック東京大会の会場計画において「ベイゾーン」と位置付けられている東京臨海部について,その開発の経緯を追い,時々に作用した時代の効果を整理しながら考察した.東京臨海部の埋立地は,江戸期以降,河川の浚渫や港の整備,ごみ処分などにより造成され,その後,東京都によるテレポート構想を元にした臨海副都心計画や,国策による都市再開発構想の舞台となった.1980年代に進められたそれらの構想は,バブル経済やその崩壊,都政の変化などから,その内容を変えた.1990年代後半以降には都市再生が国策と位置付けられ,都市改造がIOCの「レガシー」戦略とも合致するようになったことで,東京都のオリンピック招致は進められた.このように東京臨海部は,周辺と摩擦を起こしうるものも含めて様々な名目が動員され開発が進められる,東京の拡大に必要な場所であったと言える.

  • 杉山 和明
    2020 年 66 巻 1 号 p. 112-135
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        東京五輪・パラリンピック(東京2020大会) の開催が決定してから,「安全・安心」に関する新たな対策が展開されるようになっている.本研究では,公文書,各種機関・団体・企業の報道資料,新聞・雑誌記事などを用いて,これらの新たな対策を概観しその特徴を明らかにするとともに,高度なセキュリティ対策の進展にともなって生じる問題点を指摘する.
        日本では2000年代以降,「安全・安心」に関する地域の取組のなかでハード面とソフト面がそれぞれ強調されてきた.ソフト面では,警察・関係団体の市民等への歩み寄りと市民等の自主的な参加が強調され,両者の協働が進んでいった.ハード面では,監視カメラの活用のように防犯環境設計に基づいた取組も展開されてきた.東京2020大会の開催決定後,それらの延長線上で,「安全・安心」に関する対策が加速している.これらの対策のなかでも公共空間における監視カメラを用いた防犯対策が著しい進展をみせている.鉄道各社による車両内への監視カメラの設置が進んでおり,2020年には首都圏の主要路線を走るすべての車両に監視カメラが導入されることになる.加えて,技術革新を背景として「カメラシステムの高度化」 が図られ,最先端の群衆行動監視技術を用いた予測警備も検討されるようになっている.
        こうした複合的な「安全・安心」に関する対策は治安維持の方策として効果的であると多くの市民が考えており,東京2020大会が近づくにつれてより高度な監視・管理技術が採用されていくことが予想される.とりわけ,公共空間におけるAI・IoTを用いた行動分析,予測警備を導入した「安全」対策は,運用の仕方によっては監視・管理の極大化につながり,一転して市民的自由を窒息させかえって市民の「安心」を奪うリスクを秘めている.

  • ―2020東京五輪を契機とする新しい観光流動創出の政策―
    太下 義之
    2020 年 66 巻 1 号 p. 136-152
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2021/03/30
    ジャーナル フリー

        ロンドン五輪の際,「ロンドン・プラス( London Plus)」という観光キャンペーンが実施された.これは,海外からの観光客がロンドンに滞在するだけでなく,1~2都市プラスして,他の都市にも足を延ばしてもらおうという観光キャンペーンであった.
        ただし日本では,従来の通り首都圏空港から入国し,いわゆるゴールデン・ルートを旅行するという形だけでは,受け入れ容量の限界に達しつつある.
        試算では,政府目標の「6,000万人」を達成するためには,主要7 空港における国際線の増便に関しては現在の構想がすべて実現することが絶対に必要であり,かつ,地方空港に関しては,主要空港並みではなく,楽観的な前提での試算でも6倍以上,より保守的な前提での試算では10倍以上に外国人数を入国させないと,政府の目標は達成できないことが明らかとなった.
        すなわち,地方都市に訪日外国人を直接誘導したうえ,必要があれば東京にも足を延ばしてもらう,という「プラス・トーキョー」が,日本が目指すべき戦略である.
        そして,「プラス・トーキョー」戦略を地方都市で展開する際,滞在する観光客を惹きつける要素として,食文化をはじめとする「文化プログラム」が大きな役割を果たすと期待される.

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