日本の総人口は急速に減少しつつあり,2014年末に政府は長期ビジョンと創生総合戦略を策定し,地方自治体も人口ビジョンと地方版総合戦略を策定して,人口減少,地方の衰退,東京一極集中現象の解決に取り組んだ.本稿では47都道府県を取り上げその人口ビジョンをもとに,目指す将来人口の策定への姿勢と過程,出生率・社会移動の設定,2040年推計人口の特徴,達成の可能性を日本の国土構造と関連させて議論した.
地域人口の現状に圏域差があり,ビジョン策定への姿勢と過程にも大きな差があるものの,各県は国のビジョンと戦略に準拠して将来人口の設定を行った.出生率では2030年1.8(希望出生率) ,2040年2.07(人口の置換水準) のモデルを,社会移動では2020年または2040年での転出入均衡モデルを多くの県が採用した.設定した出生率と社会移動は過大な設定となり,圏域差もほとんどなかった.各県の2040年推計人口は社人研推計の約10%増であり,達成が難しいと思われる.15~49歳女性人口の対全国シェアが大きい県ほど設定出生率が低く,人口回復への効果が危惧される.将来人口の過大な設定には,人口減少が激しい県ほど,県民の希望を梃子に人口規模の維持・安定化が決め手とされた.知事の選挙マニフェストも過大な設定理由の1 つであった.改めて都道府県のもつ広域な地域の政策の重要性と市町村への影響力の大きさが判明した.
現代の国際分業に対しては,多国籍企業の立地行動とグローバル・サプライチェーンが大きな影響を与えている.本稿では,日本・アジアにおける国際分業の変化や近年における日本の多国籍企業のアジアへの立地行動の特徴について整理するとともに,グローバル生産ネットワーク論(特に ,グローバル生産ネットワークの動態の論理) の議論を参考にしながら,現代の国際分業の編成の論理を検討した.
先進国が重化学工業製品を,発展途上国が一次産品や軽工業品をそれぞれ輸出するといった,従来の国際分業パターンは,その当時における世界経済の立地環境(先進国と発展途上国の立地環境) を反映している.そして,こうした世界経済の立地環境を背景にして,多国籍企業の立地行動が進展してきたわけだが,逆に,多国籍企業の立地行動が世界経済の立地環境に対して影響を与えることになる.現代の国際分業では,先進国だけでなく一部の発展途上国(新興国) が重化学工業で国際競争力を発揮するようになってきているが,多国籍企業の立地行動とグローバル・サプライチェーンの進展が新興国の経済成長や立地環境変化を促進していると考えられる.日本の多国籍企業のアジアへの立地行動とグローバル・サプライチェーンに関しては,以上のような論理が特に当てはまるといえる.