本稿では,小規模ではあるが古い歴史を有し,漆器の生産が県内各地で続けられている岩手県の漆器産地について,その全体像を掴むとともに,原材料としての漆の利用など,漆器製造における伝統性の維持と活用について,これまで未解明な部分が多かった生産の特徴について明らかにする.
調査により明らかになった主な特徴は以下のとおりである.漆器製造事業者は県北・県央・県南地域に分かれて県内の各地に散在しており,集積産地の形成は見られない.全ての事業者が,木地と漆を使用する伝統的技法を活かした生産を行っている.製造品目については,椀をはじめとする食器類の製造比率が高いことが当該産地の特徴のひとつである.さらに,原材料として地元産漆を使用する事業者が多く,漆を通じた地元とのつながりは,漆生産地に立地する当該産地独自の特徴といえる.これに加え,新型コロナ感染拡大後の経済活動の低迷時期においても,浄法寺塗に関しては生産額が増加しているという事例が見られた.これについては,伝統性に重きを置いた浄法寺塗の製造の方針に対する消費者側の理解が需要の拡大に繋がっていると捉えている.
岩手の漆器産地は,漆生産地という地域の特性に重きを置き,伝統性を活かす漆器生産を続けている産地である.
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