経済地理学年報
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最新号
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表紙
研究ノート
  • ――伝統性を活かした生産への取り組み――
    久米 吉裕
    2026 年72 巻2 号 p. 171-189
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     本稿では,小規模ではあるが古い歴史を有し,漆器の生産が県内各地で続けられている岩手県の漆器産地について,その全体像を掴むとともに,原材料としての漆の利用など,漆器製造における伝統性の維持と活用について,これまで未解明な部分が多かった生産の特徴について明らかにする.

     調査により明らかになった主な特徴は以下のとおりである.漆器製造事業者は県北・県央・県南地域に分かれて県内の各地に散在しており,集積産地の形成は見られない.全ての事業者が,木地と漆を使用する伝統的技法を活かした生産を行っている.製造品目については,椀をはじめとする食器類の製造比率が高いことが当該産地の特徴のひとつである.さらに,原材料として地元産漆を使用する事業者が多く,漆を通じた地元とのつながりは,漆生産地に立地する当該産地独自の特徴といえる.これに加え,新型コロナ感染拡大後の経済活動の低迷時期においても,浄法寺塗に関しては生産額が増加しているという事例が見られた.これについては,伝統性に重きを置いた浄法寺塗の製造の方針に対する消費者側の理解が需要の拡大に繋がっていると捉えている.

     岩手の漆器産地は,漆生産地という地域の特性に重きを置き,伝統性を活かす漆器生産を続けている産地である.

  • ――東京都東部を事例として――
    井内 麻友美
    2026 年72 巻2 号 p. 190-204
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     本稿では,東京都東部を事例として,プラネタリウムの投影サービスのサービス圏を分析することを試みた.研究対象としては,サービスの利用者,提供形式,及び利用目的に注目し,①個人による固定式の一般利用,②集団による固定式の教育利用,③集団による移動式の教育利用,の三タイプのプラネタリウムサービスを取り上げ,それらのサービス圏を考察した.GISを利用して,利用者 (個人や小学校) の分布図を作成し,一次・二次サービス圏(それぞれ,全利用者の60%と80%を含む円)を設定したところ,個人による固定式プラネタリウムの一般利用は,約10kmの二次サービス圏を形成していた.一方,集団による固定式プラネタリウムの教育利用では,約5kmと一般利用に比べて狭い二次サービス圏しか形成されていなかった.このようなサービス圏の規模の大小は,個人と集団のアクセスにおける制約の強弱が関係すると考えられる.集団による固定式の教育利用での狭いサービス圏は,サービスの空白地域を生み,集団による教育利用で,移動式プラネタリウムの業態を成立させ,約30kmの二次サービス圏を展開していた.

展望
  • ――地方創生論10年の見取り図――
    和田 崇
    2026 年72 巻2 号 p. 205-228
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     本稿は,人口問題と地域政策,まちづくりという3つの観点から,10年間に及ぶ地方創生をめぐる地理学における議論の論点を整理し,その見取り図を提案するものである.人口問題の観点からは,出生率低下と東京一極集中の実態把握と要因分析をもとに,少子化対策と人口分散策の内容と成果が検討された.しかし実際には自治体間の人口獲得競争に陥っており,人口減少を前提とした社会構想の必要性も提起された.地域政策の観点からは,選択と集中を強調する地方創生政策が政策対象として選択される地方都市と切り捨てが懸念される条件不利地域に及ぼす影響,それらを踏まえた目指すべき国土・地域構造が議論された.また,成長・成果重視や選択と集中といった政策手法がもたらす国への再集権化,自治体や住民の自立阻害といった副作用が報告され,地方分権と住民参加の促進が求められた.まちづくりの観点からは,地方創生政策がまちづくりへの注目とシンクロを進める中で,地方創生がまちづくりの代名詞として定着しつつある状況が報告された.その上で,まちづくりの持続的展開に向けて,地域資源の活用と地域の価値づけ,担い手の確保・育成などの課題にいかに対応すべきかが議論された.これらを踏まえ,地理学は従来からの地域政策の分析・提言に加えて,「ポスト地方創生」に向けたより実践的な調査研究や伴走支援を行う必要性が提起されている.

フォーラム
  • 小木田 敏彦
    2026 年72 巻2 号 p. 229-236
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     経済史との分断状況を解消するには中間組織論が突破口となり得るが,経済地理学ではその組織の存在意義である市場の失敗への対処に関する関心が極めて薄い.市場の失敗を引き起こす様々な要因は集合的行為のジレンマとしてモデル化されており,本稿では「共有地の悲劇」を足利(栃木)の意匠の問題に,そして「囚人のジレンマ」を川俣(福島)の共同購入の問題に適用した.この結果判明したのは市場の失敗が複数のジレンマによって生じ得たことであり,経済地理学は戦前期日本に関する独自の中間組織論を構築するために,ジレンマの束という問題に着眼する必要がある.

  • ――2025年度地域大会報告――
    2025年度地域大会実行委員会
    2026 年72 巻2 号 p. 237-
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり
     2025年10月11日(土)に,経済地理学会2025年度地域大会を北海道教育大学函館校で開催した.本大会では「縮小社会における地域の持続可能性」をテーマとしたシンポジウムを開催し,166名の参加を得た.シンポジウムでは第1部と第2部をあわせた6件の報告を踏まえ,総合討論では活発な意見交換がなされた.
  • ~私たちは,どう生きるか
    大中 幸子
    2026 年72 巻2 号 p. 239-246
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり
     本報告は,青森県の人口動態とDX推進の現状,および筆者が実務者として参画する「津軽海峡マグロ女子会」の活動を紹介するものである.青森県では18〜24歳層の社会減が顕著であり,若者の定着・還流が課題となっている.県は2023年度策定の基本計画「青森新時代」のもと,「挑戦」「対話」「DX」を基盤としたAX(Aomori Transformation)を進めている.他方,2014年に発足した津軽海峡マグロ女子会は,行政に頼らず青森・道南の女性たちが連携・発信・創造を掲げて地域づくりを展開してきた.人口減少下の地域に必要なのは,変化を恐れず行動する大人の本気であり,仕組みづくりと人と人とのつながりである.
  • ――函館市の事例を中心に――
    永澤 大樹
    2026 年72 巻2 号 p. 247-253
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     函館市は高いブランド力を誇り2024年度には観光客数も過去最高を記録する一方,深刻な人口減少に直面している.20~30代人口は25年前に比べ半減し,出生数は年間1,000人を割り込んだ.背景には,高等教育機関が充実していながら,卒業生を吸収できる高付加価値型産業が少ない点にある.他都市のデータに見られる,市外進学した若者のUターンが函館では限定的であり,25~39歳層でも社会減が続く.地域企業の付加価値額は類似都市平均を下回り,売上の過半が保険収入の医療・福祉業が業種別で最も付加価値を生んでいる状況にある.持続可能な地域社会の構築には,若者が定着できる産業の育成と域内経済循環の向上が不可欠である.

  • 小池 司朗
    2026 年72 巻2 号 p. 254-264
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     わが国では人口減少がいよいよ本格化するとともに,長年にわたり人口の東京圏一極集中が継続している.近年の各地域における人口減少の主因は自然減であることから,長期的な人口減少は不可避であり,今後は全域的に人口減少を前提とした地域社会の構築が不可欠である.一方,東京一極集中の要因に関しては,主に経済的な観点から指摘されることが多いが,親世代も含めた東京圏出生割合の上昇という人口学的要因も大きく影響していると考えられ,その意味で東京圏一極集中は根深い問題であるといえる.防災面などをはじめとして,一極集中のデメリットはこれまでも多く指摘されてきたが,それらに加え東京圏においては出身地属性からみた多様性の低下も近年のイノベーションの停滞に関連していると考えられる.反面,地方圏においては人口が減少していくなかでも総じて住民属性の多様性は増しており,Iターンの報告事例がとくに目立つ中国・四国地方において独自の地域活性化の試みが多くみられるのも,住民属性の多様性と無関係ではないと思われる.このような観点に立てば,非東京圏においても強力に人口流出を止めようとする対策よりはむしろ,大都市圏からのIターンを喚起する方策や,一度域外に流出したとしてもUターンしてもらいやすい環境を整備することなどが求められるといえよう.

  • 中澤 高志
    2026 年72 巻2 号 p. 265-275
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     地域生活圏の構築は,地方圏の住民が直面している生活上の困難という現実に即した重要な課題である.この現実は,財・サービスの供給側からみると到達範囲の下限が上限を上回って供給活動が困難になる状況である.需要側からみると,所得機会,消費機会,共同生活機会にアクセスし生活の空間的組織化を行うことが困難になっている状況である.本稿では,地域生活圏の理念と現実について,場所,領域,スケール,ネットワークという4つの次元から批判的に検討し,地域生活圏の理念と現実の間にみられる齟齬の解消に向けて国民的な議論が必要であることを指摘した.

  • ――工場誘致から地域能力の形成へ――
    近藤 章夫
    2026 年72 巻2 号 p. 276-284
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     人口減少と低成長が常態化する縮小社会において,戦後日本の地域開発を支えてきた産業立地政策をどう捉え直すかを論じる.産業立地政策と地域政策は,かつて国土計画のもとで一体的に構想されてきたが,国土形成計画への移行と内発的発展論の浸透のなかで両者は乖離した.本稿はこの乖離を歴史的に整理したうえで,ラピダスに代表される国家戦略型の半導体投資を分工場経済の視点から検討し,さらに地域資源を再定義する動きを取り上げる.縮小社会の産業立地政策は「どこに工場を置くか」ではなく「いかなる地域能力を育てるか」を問う,人を中核とする総合的・産業横断的な政策へ再定位されることが望ましいことを主張する.

  • 石川 義孝
    2026 年72 巻2 号 p. 285-287
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり

     本稿は,入手困難な全国データを用い,市区町村の国際交流協会による多文化共生に向けた施策の地域格差を分析している.その結果,集住地域に比べ,散住地域では施策の実施が遅れており施策が欠落している市町村も多いことがわかった.施策の有無は,自治体の人口規模や財政規模の影響を受けている.得られた知見は,多文化共生策に関する自治体間連携の必要性を示唆している.

  • ――「手段」あるいは「過程」としての「多文化共生」に関する一考察――
    片岡 博美
    2026 年72 巻2 号 p. 288-296
    発行日: 2026/06/30
    公開日: 2026/09/05
    ジャーナル 認証あり
     本稿では,「縮小社会」という文脈の中で,「外国人と地域」,「地域と多文化共生」の現状と問題点を捉え直し,従来の「多文化共生の地域づくり」から「多文化共生『で』の地域づくり」へと,「過程・手段」としての多文化共生の位置付けと外国人の「内集団化」の可能性を示し,ホスト社会住民と外国人が「協働」で縮小社会における地域生活圏の持続可能性へ貢献することの重要性を指摘した.
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