長崎県対馬市は韓国との国境地帯に位置する.近年では1999年に対馬釡山間に定期高速船航路が開設されたことを契機に,日韓両国間の人の行き来が増えた.特に韓国からの観光客が多く,2018年には韓国人入国者が年間40万人を越えた.観光客は1999年から2010年までは徐々に増加したものの,年間5~6万人程度で落ち着いていた.その後2011年の原発事故による韓国人の日本旅行客減少を受け,博多釡山間を運航していた会社が,距離が近く運賃が安い対馬に博多から航路を振り替えたことを契機に対馬への入国者が一気に増え,観光関連事業への投資が活発になった.ところが日本政府による韓国への輸出規制厳格化を受け韓国内で起こったボイコットジャパン運動の影響で2019年7月から入国者が激減した.さらに2020年3月にはCOVID-19の感染拡大を受け,韓国から対馬への入国が禁止されたため,入国者数は0になった.対馬の観光業は大きな打撃を受けたが,他産業から観光関連産業への就業者移行は進んでおらず,地元の住民への影響はそれほど大きくなかった.急激な観光客の増大は産業構造の大きな変化は起こさず,観光業を産業の中心に据えたいのであれば,もっと長期的な施策が必要になる.
本稿は,最近の日本経済の再生や地域振興による観光業への期待が高まりながらも,人口流出,少子化と労働力不足を抱える地方の観光地において,どのように労働力の確保が行われているのかを明らかにすることを目的とする.観光地の主要産業として地域を牽引してきた宿泊業に焦点を当て,長野県軽井沢町を事例とした.法人経営による大規模宿泊施設では,繁忙期の時間的なミスマッチを中心に人材派遣や紹介会社等を活用し,求人募集でも全国的なスケールで行われる特徴が見て取れた.法人経営による小規模宿泊施設でも,派遣会社や求人募集を活用しているが,その空間スケールは軽井沢町周辺を中心とする,通勤が可能なローカルなスケールとなっている.これは,求人にかかるコスト負担の可否や,寮などの居住設備を提供できるか否かといった,宿泊施設の経済力の違いによる.宿泊業は職住近接な環境が望ましく,大規模宿泊施設は自らの持つ資本力に基づき,居住設備を整備することで労働の時間変動の問題を克服し,小規模宿泊施設は軽井沢町周辺からの通勤が可能な範囲によって,労働の時間変動の問題に対処していた.加えて長年,軽井沢町に根差し,地域に密着した個人経営の宿泊施設では,地縁・血縁を中心とする人的ネットワークを活用することで,労働力の確保を行っていた.その空間スケールは軽井沢町内や宿泊施設周辺という,法人経営による宿泊施設と比較して,さらにミクロなスケールとなっていることが明らかとなった.
2020年10月17日(土) および18日(日) の2日間にわたり,経済地理学会岐阜地域大会を開催した.17日は中山道加納宿まちづくり交流センター(岐阜市加納本町) を会場に,常任幹事会と評議会を,18日は午前にエクスカーションを,午後はJR岐阜駅前のじゅうろくプラザ(岐阜市文化産業交流センター) を会場にシンポジウムをそれぞれ開催した.
「都市のスポンジ化への抵抗」をテーマとした午後のシンポジウムには,計47名(うち Zoomによるオンライン参加者15名) の参加者を得て,趣旨説明に続く3 件の報告と1 件のコメントをふまえ,総合討論では活発な質疑応答がなされた.
本稿は,都市計画基本問題小委員会中間とりまとめ「『都市のスポンジ化』への対応」公表後の市町村の取組みなどを概観するとともに,コンパクト・プラス・ネットワーク形成に向けた新たな展開を整理した.そのうえで,これまでに指摘されていた問題点について検証した.既存研究で指摘されていた都市圏での立地適正化計画作成と規制の緩い居住誘導区域外などにおける土地利用規制の強化については,都市再生特別措置法等は改正されたが,法制度に課題が残されている点を指摘した.そのため,都市圏での各種計画の策定や土地利用規制の整合性を図る広域調整の仕組みの必要性を提示した.
これまでの郊外化による市街地の拡大に対して,人口の停滞から減少への転換のなかで,岐阜市では「多様な地域核をもった集約型の都市構造」を計画では打ち出してきたが,拡張的な線引きのままのもとでは,立地適正化計画が策定されているものの,地価の低い周辺部での人口増加を抑えきれていない.
他方で,人口減少や商店街の衰退が続いてきた中心市街地では,町家の保存と活用,図書館等の複合施設の「みんなの森 ぎふメディアコスモス」の利用や市民活動,さらに柳ヶ瀬商店街における「サンデービルヂングマーケット」の活況といったまちづくりの新たな潮流が動きだしている.
2020年度経済地理学会岐阜地域大会シンポジウム「都市のスポンジ化への抵抗」において,荒木俊之,久保倫子,富樫幸一の3 人が行った報告を受けて,同シンポジウムでコメントを担当した立場から,「都市のスポンジ化」を論じる地理学的な意味について3 つの論点に即して考察した.第一に,スポンジ化の概念について,学術的な使用履歴の浅い用語であり,分析概念としての実質をもたせるには,空き地・空き家の発生メカニズムの考究が欠かせないことを指摘した.第二に,長期的な都市変化との関係において,コンパクトシティを目標像として個人や企業の選択を束ねる大きな方向転換を導き出すことの難しさについて述べた.最後に,都市計画学における立地適正化関連の研究実践にふれながら,地理学からの積極的な提案が期待される取組みとして,領域横断的連携への支援と地域文脈に即した政策立案を提示した.