高成長を続けてきた中国は,近年少子高齢化の急進行や不動産不況に象徴される景気後退を背景に従来の「投資主導型」から「消費主導型」への経済構造の転換を図りつつある.なかでも,戸籍制度の大幅な改正によって消費の主体である農民工を市民化したり,人材の自由流動を促したりする「新型都市化」政策や「共同富裕」論が登場し,新たな社会変容の可能性を滲ませている.本稿は地域間経済格差の問題意識から上記の政策の内実と効果を検証するために,日本の県民所得に類似した統計指標であり,新たに公表された省・市・県(区)の「全住民可処分所得」を使って,主に省間の所得格差,省内の区県別所得格差の変化特性及び人口変動への影響を検出し,同時に全国レベルにおける大都市への人口流動・就職地選択と所得の格差もしくは所得機会の格差との関係を解明することに努めた.段階的に省間の所得格差が縮小に向かいつつあり,底辺の農民工の経済的地位の底上げや中・西部への工業分散の効果と関係している.一方の省内区県別所得格差はバラツキが大きく,地域経済の特色と競争優位性に起因するものと考えられる.大学新卒者の就職地選択の動向と合わせて,中国の地域間格差の態様は都市対農村,沿海対内陸という従来の構図から大都市対地方という新しい関係に変わりつつある.
大規模広域災害に際して,経済地理学はどのような貢献ができるのかという立場から,被災後の救援活動における可能性を検討した.経済事象としての救援物資のサプライチェーンの可視化を念頭に,避難生活において必要な情報の地図化の重要性を指摘し,災害発生後の避難生活を改善し救援活動を迅速かつ効果的に推進するための救援活動支援地図を設計・提案した.具体的には和歌山県みなべ町で,6つのレイヤーを用いて救援拠点や避難所などのノード,それらをつなぐ道路というリンク,およびそこで供給される救援物資のフローの地図化・可視化に取り組んだ.また,それを通じて市町村レベルでの緊急輸送道路の策定などを提起した.