本論文の目的は, 世界都市論の理論的再検討と, バブル崩壊後の世界都市東京の現実把握にある. 世界都市のヒエラルキーは, 多国籍企業の組織構造とその空間的展開によって, あるいはまた地域本社の自立化に伴う管理部門内部の国際分業の進展によって, 大きく左右されてきた. 多国籍企業のオフィス立地には, 市場の成長性やアクセスの良さ, 言語・ビジネス環境が重視され, こうした立地因子を十分備えた都市が, 世界都市として選択されてきたのである. 加えて, 多国籍企業の母国や進出先国内の都市システムの特徴により, 都市選択に違いがみられる点も重要である. 1980年代の金融のグローバル化も, 世界都市の成長を促し, ロンドン・ニューヨーク・東京の金融市場は, 共鳴しつつ急成長を遂げてきた. これにはジャパンマネーの動きが関わっており, ドル体制と金融自由化の落差の下で, その多くは, 合衆国への証券投資とユーロ市場でのエクイティファイナンスに向けられた. しかし, バブル崩壊により, 東京市場では空洞化が進行している. 東京の世界都市化は, グローバル化を進める製造業企業の本社集中によって特徴づけられるとともに, バブル経済の影響を強く受けてきた. 都心周辺の住宅地区は, オフィスビル建設のために破壊されていったが, バブル崩壊後, オフィスビルの需給状況は急速に悪化し, 空地や空室が増大している. 国際金融市場とオフィス市場の空洞化は, 世界都市化の限界を露呈しているのである.