インドでは, 経済自由化に伴い近年急速な工業化がみられる.こうした工業化によって創出された労働市場の性格を, 低開発地域の大規模工業開発に焦点をあて, 大規模工場の労働市場を中心に検討した.大規模工場の労働者, 工業団地内での臨時工求職者, 近接農村の工場就業者の3側面から労働市場の調査を行ったところ, 次の点が明らかとなった.1)大規模工場の労働市場は, スタッフ以上, ワーカー・本工, ワーカー・臨時工の3層の労働市場からなる.各労働市場は労働力の供給源・供給圏の双方において大きく異なり分断性が強い.2)スタッフ, ワーカー・本工の供給源は既就業の熟練者と新卒者を基本とするが, 臨時工では新卒者に加え, 既就業の農村過剰人口が流入する.3)労働力供給圏は, スタッフ以上の場合は全インドにわたるのに対し, ワーカー・本工, ワーカー・臨時工では狭く, MP州が中心となる.4)低熟練の単純労働力は容易に調達できるが, 高学歴や熟練度の高いスタッフ以上の労働力の確保は難しい.5)各労働市場は需要する労働力が異なるため, 従業員の採用手段にも違いがみられる.6)カーストとの関係では, スタッフやワーカー・本工で上位カーストの占有率がきわめて高い.小規模工場の本工や大規模工場の臨時工には中位・下位カーストの進出が相当数みられる.7)下位カーストの工業労働力化に関しては人材形成面への対策強化が重要である.