抄録
本稿では,グローバル化の中で急速に変貌する中山間地域農業について,その現状と問題を検討し,さらに振興方策について考察した.中山間地域では農産物輸入の増大の中で多くの商品作目が姿を消し,農業経営の中心をなしていた複合経営が危機に陥った.その結果,農業の急速な崩壊と稲作単一経営化が起こっている.他方,多面的機能の維持を目的に2000年度から中山間地域等直接支払制度が発足した.WTO農業協定に抵触しないデカップリング政策であり,農地保全の面で高く評価されるが,限界的農用地(あるいは限界集落)への適用,担い手の確保と継承,多面的機能の中のウェイト付け,交付対象地域の基準など解決すべき多くの問題があり,この政策だけに過大な期待をかけることはできない.むしろ,中山間地域の経済は厳しい状況にあるだけに,地域社会維持に資する産業の再構築が重要な意味をもつ.グローバル化はローカルフードへの関心の増大など,中山間地域にとってプラスに作用する面もあり,こうした動きを受けて,農業を核として,農産物の販売,農産物加工,ツーリズムなどを産業融合的に展開させ,地域の活性化に成功している事例もある.こうした産業をここでは「総合生活文化産業」と名づけ,また,この種の産業を核とした新たな経済の展開を「都市農村交流型農村複合化」として捉えた.今後の中山間地域における農業振興,地域振興の一つの方向性を示すものといえる.