経済地理学年報
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食品のローカル性と産地振興 : 虚構としての牛肉の地域ブランド(<特集>食と地域振興)
高柳 長直
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2007 年 53 巻 1 号 p. 61-77

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抄録

近年,地域ブランドが社会的に着目されている.とりわけ,農産物や食品では,ブランドの呼称に地名を利用し,産地を強調するものが多数みられるようになった.本稿では,牛肉を事例として,農産物や食品に込められるローカル性の意味について考察するとともに,地域ブランドを利用して産地振興を図る際の方向性について議論を行った.地域性をアピールした牛肉が市場で大量に流通するようになったが,牛の品種・血統や飼料の地域的差異は縮小し,牛肉の品質は均一化しつつある.そもそも,繁殖と肥育が地域分業で営まれ,市場で流通している地域ブランド牛肉には,産地内で生まれたものと産地外で生まれたものとが混在している.また,ブランドは必ずしも品質を保証しておらず,呼称の混乱もみられるほどである.したがって,牛肉の商品自体に付随するローカル性は縮小し,「地域」ブランドは虚構であるといわざるを得ない.牛肉産地における振興の方向性としては,3つのことがあげられる.第1に,ローカル性の喪失には目をつむり,地域ブランドの示す空間範囲を拡大することである.弱小ブランドの産地としては,既存のフードシステムで競争する限り,流通量を増やして,少しでも認知度を高める必要がある.第2に,ローカル性を徹底的に追求していくことである.希少性のある品種を飼養したり,飼料や飼育方法などで,他産地との差別化を図っていく.第3に,牛肉のローカル性が虚構であることを,利用していくということである.現代の日本では,食品の可食部分だけを消費しているのではなく,むしろ食品に付随する情報を消費している.食品に物語性を付加することで,消費者の需要喚起を図っていく戦略が考えられる.

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© 2007 経済地理学会
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