経済地理学年報
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沖縄・石垣島のサトウキビ作経営群の技術選択とサトウキビ政策
新井 祥穂永田 淳嗣
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2009 年 55 巻 3 号 p. 215-233

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抄録

本研究では,石垣島のサトウキビ作経営群の技術選択を適応的技術変化の視点から分析し,その結果を基に,沖縄県のサトウキビ作の構造再編の帰結として政府が想定する大規模機械化地域生産システムの現実性や妥当性を検討した.石垣島のサトウキビ作経営群の技術選択では,沖縄の気象条件や土壌条件など生態環境が課す制約に対処しうる経費節約的技術の選択という基本方針が確認され,特に生計戦略上サトウキビ作への依存度が高い経営は,家族労働力代替的な機械収穫を積極的に選択することはない点,大規模機械化経営は,沖縄の生態環境の下で規模の経済を十分に発揮できず,優位性を持ち得ない点などが明らかになった.以上より,今後農家の高齢化により農地が流動化しやすくなるとしても,自立的な大規模機械化経営群を核とする大規模機械化地域生産システムを追求し続けることは現実性を欠くといえる.一方で,家族労働力代替的な機械収穫の受委託関係を軸にした地域生産システムへの一元化も,サトウキビ作所得の最大化・確実化を図る青壮年など機械収穫に合理性を見出せない経営群の排除につながり,妥当性を欠く.機械収穫と手刈りそれぞれが,異なる経営目標に対して持つ意義に注目し,両者を組み込んだ複合的な地域生産システムを追求することが,結果的に青壮年を含む地域の農業経営群の活力の維持に貢献することになり,沖縄サトウキビ政策の方向性としてより現実的かつ妥当であるといえよう.

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© 2009 経済地理学会
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