経済地理学年報
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高齢期離職就農者による柑橘農業の実態とその意義 : 愛媛県岩城島を事例として
植村 円香
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2013 年 59 巻 1 号 p. 136-153

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抄録

本稿では,高齢化の進んだ柑橘の小規模産地である愛媛県上島町岩城島を事例に,兼業農家の世帯主が高齢期に定年退職を経て就農する現象に注目し,彼らの農業経営の実態とその意義を論じた.上島町岩城島の主な産業は柑橘農業と造船業であり,造船業は1960年頃から柑橘農家の世帯主の主要な兼業先となってきた.岩城島では,1972年の温州みかん価格の下落以降主に八朔への転作が進んだが,その後,八朔価格が下落する中で,1980年代にはレモン,1990年代以降には「せとか」,「はれひめ」など多様な新品種が島内の県試験場の分場を通じて導入された.こうした新品種の導入と世帯主の就農の関係を分析するために,岩城島北部の小漕集落の農家18戸に聞き取りを実施した.その結果,兼業農家の世帯主が2000年頃に高齢期を迎えて就農した事例が多く,就農後,積極的に新品種を導入していること,新品種は収量が少なく,栽培面積当たりの収益性は高くないこと,高齢農家にとっての新品種の導入は,生計維持の手段だけではなく,みかんや八朔などの既存品種よりも難しい栽培技術への挑戦であることや,親戚に裾分けして喜ばれるといったことがモチベーションとなっていることが明らかになった.こうした岩城島のような高齢化の進んだ小規模産地における新品種の導入は,専業農家も多い大規模産地が新品種を導入する際のリスクを最小限に抑えるための試験装置としての役割を果たしているといえる.

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© 2013 経済地理学会
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