経済地理学年報
Online ISSN : 2424-1636
Print ISSN : 0004-5683
ISSN-L : 0004-5683
企業による農業参入の展開とその地域的影響 : 大分県を事例に(<特集>構造再編下の日本農業)
後藤 拓也
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 61 巻 1 号 p. 51-70

詳細
抄録

本稿は,2000年代以降の日本で顕著となった「企業の農業参入」に着目し,それがどのように展開し,地域にいかなる影響を与えたのかを,地理学的視点から検討した.日本における企業の農業参入は,耕作放棄地対策(担い手対策)の切り札として,2000年代の農地法改正やCSRブームを背景に急展開する.しかし地域的にみると,企業参入の多さが必ずしも耕作放棄地の抑制に結びついていない.耕作放棄地の増加が抑えられている地域の多くは,早くから担い手不足が顕在化し,自治体が独自の対策を進めてきたという共通点があり,そのような地域の1つとして大分県に焦点を当てた.大分県では2000年代以降,工場誘致のノウハウを生かして企業の農業参入を支援し,県内外から多くの企業を参入させた.これらの企業が地域に定着できたのは,多くの選択肢から参入先や営農品目を選択できたという大分県の地域的特徴が背景にある.さらに,県当局が企業の条件に応じて体系的に農地を供給してきたことも,参入が促された地域的背景であるといえる。企業の農業参入が地域に与えた影響を検証した結果,大分県では(1)野菜産地の拡大,(2)耕作放棄地の活用,(3)新規雇用者の増加が確認された.しかし,全ての企業が耕作放棄地の活用に積極的という訳ではなく,また企業が雇用する農業従事者も大部分が非正規雇用であるなど,これらの効果を手放しで評価するには注意が必要である.

著者関連情報
© 2015 経済地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top