本研究の目的は,宮城県大崎市を事例に,農業法人による規模拡大と農地利用の再編を可能にした条件を分析することを通じて,農業法人の経済的自立性がいかにして確保されているのかについて明らかにすることである.
対象地域である宮城県大崎市では,任意組織の転作組合が農地利用の主体となってきたが,2000年代後半以降から大規模な農業法人が農地利用の主体として台頭している.調査対象である旧三本木町のS法人は,圃場整備が実施されず耕作条件の相対的に劣る農地を集積することで,早くから規模拡大を進めた.しかし,規模拡大に伴って増加する生産調整面積に関しては,排水設備の整った圃場整備済みの農地を転作向けに借り入れざるを得なかった.S法人は,転作交付金を小作料に上乗せすることで,転作部分の農地を借り入れていたが,高額の地代負担は生産原価のうち最も大きな支出項目となっていた.
2020年代に入ると地域内で離農者が増加し転作組合の解散が生じた.これを受けてS法人は遠隔地の農地の返却と地代の減額を進めた.これによりS法人は,分散していた圃場を集約化するとともに,収支の改善を進めた.S法人は地域内の農地条件,生産調整への地域的対応,農地供給層の形成速度の差異という地域的条件を利用しながら,土地利用調整を伴う戦略的な規模拡大を進めることで経済的自立性を確保していた.