抄録
本稿の目的は,保護者への共感的な教師の認識を成立させる要素を,情緒的地形の概念を援用して明らかにすることにある。保護者とどのような関係性を結ぶかは学校現場において重要な課題のひとつであるが,先行研究では教師は異なる社会経済的背景を持つ保護者に対して特に共感的な姿勢を示しづらいと言われてきた。しかし,対象校においては,学校の置かれた校区背景は厳しいにも関わらずそのような保護者に対しても共感的である語りが大勢を占めていた。ここに注目し,教師の保護者に対する共感的な理解を構成する要素についてインタビュー調査から検討した。その結果を「教師によるこまめで直接的なコミュニケーション」「形式的でないかかわり」「協力を依頼する際の目的の一致の確認」「教師の指導的立場の自覚とそれを緩和する配慮」として整理し,各学校で培われている実践が校区の社会経済的背景という所与の条件を乗り越えうることを示唆した。