抄録
肝外門脈損傷はまれであるが死亡率は高く, 検索した限り本邦では救命例の報告はない。今回われわれは鈍的外傷の1救命例を経験したので報告する。症例は71歳男性。乗用車運転中に電柱に激突し受傷。ショック状態で当科に搬送された。8年前に胃癌に対してBillroth I法再建による胃切除の既往があった。膝部開放骨折を認めたほか, 腹部CTで膵体部損傷と腹腔内液体貯留を認め, また網嚢腔に膵とは接しない奇異な液体貯留を認めたため開腹術を施行した。術中所見で膵体部の部分断裂のほかに門脈本幹損傷が判明した。大量出血のコントロールと術野の確保に難渋したが, 大動脈閉鎖バルーンで大動脈遮断を行うことにより門脈を膵上縁と肝門部でクランプでき, 門脈損傷部を縫合した。膵損傷に対しては縫合術とドレナージを行った。術後全身状態は特に問題なく経過。イレウスと脾静脈血栓症を合併したが自然軽快し, 下肢骨折の手術とリハビリの後に117病日独歩退院となった。