日本腹部救急医学会雑誌
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特集 : 下部消化管出血に対する診断と非手術的治療
ダブルバルーン内視鏡による小腸出血の診断と治療
阿部 孝水谷 昌代河相 直樹川野 淳佐藤 信紘
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2007 年 27 巻 7 号 p. 949-956

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抄録

消化管出血は, もっとも多く診療する機会のある疾患の1つである。しかし小腸出血の内視鏡診断や治療が困難であったのは, 従来の内視鏡機器では, 小腸まで到達できなかったためである。最近開発されたカプセル内視鏡は, 小腸の直接観察が可能になった。このカプセル内視鏡では生検や内視鏡治療ができないが, ダブルバルーン小腸内視鏡 (double balloon enteroscopy : DBE) は, 2.8mmの鉗子口を持ち, 各種の処置用器具を使用することが可能である。今回当院における小腸出血を疑う症例に対して, DBEを施行し若干の知見を得たので報告する。対象は, 2004年7月より2007年7月までに大阪警察病院にてDBEを施行した400件 ; 経口法161件, 経肛門法239件であった。そのうち上下内視鏡検査にて異常がなく小腸出血と考えられた100症例 (男性70例 ; 女性30例 ; 平均年齢63.1歳, 19~89歳) について検討した。対象症例100例のDBEのアプローチは, 経口と経肛門法65例, 経口法20例, 経肛門法15例であった。DBE施行にて100例中70例で診断が得られ, 出血源不明は30例であった。疾患の内訳は, 血管性病変30例 (Angiodysplasia28例, 血管腫1例, 小腸静脈瘤1例), 潰瘍性病変28例 (びらん9例 : NSAIDsによる2例を含む, クローン病8例, Dieulafoy潰瘍2例, サイトメガロウイルス潰瘍1例, 慢性出血性小腸潰瘍1例, 回腸憩室炎2例, Meckle憩室症1例, 虚血性小腸2例, その他の潰瘍2例), 腫瘍性病変12例 (悪性リンパ腫2例, 十二指腸癌1例, 空腸癌2例, 回腸癌1例, 転移性小腸癌2例, GIST1例, 分類不能小腸悪性腫瘍1例, 脂肪腫1例, 腺腫1例) であった。内視鏡治療は, Angiodysplasia16例, Dieulafoy潰瘍2例, びらん2例, 憩室炎1例, 静脈瘤1例, 慢性出血性小腸潰瘍1例にて内視鏡的に止血処置を施行した。静脈瘤1例でPolidocanol (AethoxysklerolR) を用いたが, その他の22例はすべて止血クリップおよびHSEにて止血し得た。術中大きな合併症を経験しなかった。ダブルバルーン小腸内視鏡は, 原因不明と考えられていた小腸出血の診断や内視鏡治療に有効であった。

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© 2007 日本腹部救急医学会
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