抄録
症例は30歳女性。5年前,先天性胆道拡張症に対して総胆管切除術+胆摘出術+胆管空腸吻合術を施行されていた。妊娠27週までは母児ともに経過良好であったが,突然の嘔吐と腹痛を主訴に当院を受診した。理学的には腹部膨満はあるが,腹膜刺激症状はなかった。癒着性イレウスと判断し,入院加療となった。しかし,入院24時間後に腹痛が増強し,ショック状態となった。腹部単純CT検査で絞扼性イレウスと診断し,緊急開腹手術を施行した。腹腔内には多量の血性腹水を認め,横行結腸間膜の間隙で小腸が内ヘルニアとなり絞扼されていた。胎児機能不全であったため帝王切開術で児を娩出した。その後,壊死小腸を切除し,総肝管断端は縫合閉鎖した。胆汁は右肝管より外瘻化した。術後22日目に胆道再建術を行い,術後34日目退院となった。妊娠中の絞扼性イレウスの確定診断は容易ではなく,早期診断・早期治療の重要性において極めて示唆に富む1例を経験したので報告する。