本稿は,教師中心から学習者中心の教育パラダイムへの転換を前提とした上で,学習者中心の貸借対照表の学びのモデルを導出するために,階層分析図を用いて貸借対照表の様々な解釈方法を列挙し,各解釈に応じたそれぞれの学習目標を達成するための積み上げ型の学習の過程がどのようなものになるのかを提示する。
以上の検討が有する含意は次のとおりである。学習者による様々な解釈や学習目標の設定が可能である貸借対照表という学習素材は,学習者中心の教育実践を展開していくための絶好の教材であり,学習者および教師の双方が自己調整型学習の方法を習得する重要な機会として活用することができる。貸借対照表は,作成目的や分析方法の多様性という点から,他の学習者との意見の共有や議論を引き出しやすい話題であり,教師中心の指導から学習者中心の指導への円滑なパラダイム・シフトを実現可能にする学習素材である。