2018 年 34 巻 2 号 p. 88-100
非民主主義体制(=独裁体制)の政治過程は,秘密のベールに覆われている。そのため,その選挙,殊に選挙不正については,不明な部分が多い。本稿の目的は,独裁体制の選挙不正に新たな光を当てることを通じて,その政治過程の理解に貢献することである。具体的には次の2つを主張する。第1に,独裁体制における選挙不正には,独裁体制内の中下級エリートが独裁者に対して,自らの得票率を誇示するための「ゲーミング」として行うものが存在する。第2に,野党が競争選挙に参加し,監視するようになると,ゲーミングとしての選挙不正は起きづらくなる。2000年の民主化以降,様々なアーカイブ資料やデータが利用可能となったかつての独裁国家メキシコを分析し,これらの仮説の妥当性を検証した。