日本原子力学会誌ATOMOΣ
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特集
甲状腺がん発症のメカニズム
2.チェルノブイリ事故から導かれた甲状腺発がん説
石田 健二岩井 敏仙波 毅福地 命當麻 秀樹
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2018 年 60 巻 8 号 p. 455-459

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抄録

 がんは複数の遺伝子に段階的に損傷および変異が蓄積することによって起こるという「多段階発がん説」が,唯一の発がんメカニズムとして定着していた。しかし近年,ある特定の遺伝子が一つ変異するだけで短期間に正常細胞ががん化してしまうというメカニズムが存在する可能性のあることが報告されてきている1)。このような遺伝子の変異を「ドライバー変異」と呼ぶ。このタイプのがんの発生は限られており,小児がんや,白血病のような血液がんに多く見られるといわれている。その一例として,チェルノブイリ事故で多発した小児甲状腺がんが注目されている。本稿ではチェルノブイリ事故後の小児甲状腺がん発症のモデル,すなわち放射線誘発による遺伝子変異した細胞が原因ではなく,放射線による細胞死の誘導と組織微小環境の攪乱により,自然発生(散発性)の遺伝子変異細胞が,増殖を開始して発がんするというモデルについて解説する。

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