2020 年 62 巻 10 号 p. 578-582
1935年に刊行された4ページに満たない論文でアインシュタインはある思考実験を提案し,生まれたばかりの量子力学の根幹を鋭く突いた。著者達の頭文字からEPRパラドックスとも呼ばれるが,これは量子力学の発展過程における深淵な刺激剤となった。その後半世紀を越える理論実験両面での努力をあざ笑うかのようにEPRの衝撃は形を変えて生き永らえ,21世紀のいま量子暗号や量子ネットワークといった革命的新技術の鍵として期待されている。量子通信の実用化がますます現実味を帯びる一方で,物理的実在とはいったい何なのかという根源的な謎に答えはまだ無い。