東京電力福島第一原子力発電所事故による環境汚染対応のため,中間貯蔵施設の整備,除去土壌の処理・貯蔵,焼却残渣の熱的減容化開始等の進展がある。今後,県外最終処分に向け,熱的減容化後の副生成物等の灰洗浄・濃縮によるさらなる減容化や廃棄のための安定化,最終処分,また,低濃度の処理物の有効利用が必要になり,中長期的技術課題の整理と技術開発戦略の設定が重要である。そこで,専門性を有しかつ中立的な立場にある環境放射能除染学会において,県外最終処分に向けた技術開発戦略の在り方を取りまとめるための研究会を設置した(2018~2020年度)。その活動概要を概説する
核燃料や燃料被覆管のふるまいに係る研究で得られた知見やデータは,燃料挙動解析コードにモデルとして集約され,燃料設計や安全評価に活用されている。著者らは,国産/公開コードであるFEMAXIの最新バージョンFEMAXI-8を開発し,燃料分野における産官学の研究開発をより強力にサポートする技術基盤とすべく,モデル/機能拡充に加え,体系的検証による性能評価を経た標準モデルセットを提供した。2019年3月の公開に至るまでの取り組みを概説する。
流れ現象は日常生活から工業プラントまで身近に存在するが,それを定量的なものとして把握するために可視化技術が発展してきた。原子炉燃料集合体はその複雑な構造内部を水が流れながら除熱や中性子減速材の役割を果たす。本稿では,当所が研究開発を進めている燃料集合体内の沸騰二相流計測技術に焦点をあてる。これまでに開発した計測技術の測定原理や計測機器の概略を示し,模擬燃料集合体を用いた計測事例を紹介する。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて,世界の経済成長率ならびにエネルギー需要は大きな影響を受けた。また,デジタル化など,ポストコロナの新たな社会生活様式の広がりによるエネルギー需給の新たな構造的変化への関心が高まっている。欧州等ではポストコロナの経済復興と環境対策の両立を図る政策への機運が高まる一方,同時にレジリエンスといった社会の安全,安心,復興,適応への関心が一層高まる可能性があり,社会,経済,地政学の新たなニューノーマルを注視しつつ,日本のエネルギー戦略の再構築が重要であると考えられる。
世界各国が原子力を巡る厳しい課題に直面する中,国際協力に対する期待が高まっており,日本としてもOECD/NEAなど国際機関を一層活用しつつある。OECD/NEAの歴史,特徴,加盟国,意思決定システム,事務局体制等に着目して概観するとともに,その活動や事務局において日本人が活躍している状況に触れる。
1935年に刊行された4ページに満たない論文でアインシュタインはある思考実験を提案し,生まれたばかりの量子力学の根幹を鋭く突いた。著者達の頭文字からEPRパラドックスとも呼ばれるが,これは量子力学の発展過程における深淵な刺激剤となった。その後半世紀を越える理論実験両面での努力をあざ笑うかのようにEPRの衝撃は形を変えて生き永らえ,21世紀のいま量子暗号や量子ネットワークといった革命的新技術の鍵として期待されている。量子通信の実用化がますます現実味を帯びる一方で,物理的実在とはいったい何なのかという根源的な謎に答えはまだ無い。
核・放射性物質の盗取・密輸を始めとした規制外の核・放射性物質に関連する核セキュリティ事案の技術的な対応手段として,近年各国で核鑑識に関する能力整備が進められている。今回の講座では,核セキュリティ強化における対応手段として重要性が認識されている核鑑識の概要,日本を中心とした核鑑識技術開発や実施能力整備の現状と今後について解説する。
工学システムにおける機器故障の発生とは本質的に異なる「人間のエラー」を確率論的リスク評価 (Probabilistic Risk Analysis: PRA) という一つの体系の中で扱うことの難しさは初期のPRA研究者の間では共有されていたが,現状ではPRAの中での人間信頼性解析 (Human Reliability Analysis: HRA) の重要性の認識は低いと言わざるを得ない。PRAの結果として得られるリスク情報に含まれる不確実性の大部分がHRAの結果の不確実性に起因するものである。不確実性があることを前提にしてリスク情報を活用することがリスク情報に基づく意思決定 (Risk Informed Decision Making: RIDM) の考え方の基本であるが,そのためにはHRAにおける分析手法に関しての十分な理解が必要である。
学会に通算8年に亘って設置された「遮蔽ハンドブック」と「遮蔽計算の応用技術」研究専門委員会は,20年以上前に刊行されたハンドブックを改訂し,「基礎編」と「応用編」の2分冊の「放射線遮蔽ハンドブック」を上梓した。これによって放射線遮蔽工学の体系化と知識の普及に貢献したとして,第52回日本原子力学会「貢献賞」を受賞した。ここではそれぞれのハンドブックの概要と,委員会における出版活動の軌跡を紹介する。
2020年1月30日,令和元年度使用済燃料の貯蔵に係る動向セミナーが都内で開催され,産官学の関係者が一堂に会して,中間貯蔵に係る世界各国の最新動向と国内の乾式貯蔵施設の近況について担当者から直に報告が行われた。近年,使用済燃料管理のトピックスは専ら中間貯蔵であり,それら情報の共有を目的とした講演およびポスター展示の概略を紹介する。
東京工業大学が中心となり2010年度より実施してきた「国際原子力人材育成大学連合ネットワーク」(以下大学連合)による国際原子力教育事業を紹介する。本事業では,これまでにTV遠隔講義の国内外配信,国内外学生を対象とする原子力道場セミナーやIAEAなどへの学生海外派遣を実施してきた。これらを通して,原子力を専門とする学生だけでなく,他分野の学生も対象とし,原子力に対する質の高い効果的な教育を実施してきている。
文部科学省機関横断的人材育成事業の一環で2020年2月17日~29日に米国研修派遣が行われ,テキサスA&M大学,世界銀行,在米日本大使館,アイダホ国立研究所 (INL) を見学した。テキサスA&M大学では学生同士の討論・研究施設見学を行った。世界銀行,在米日本大使館では米国の原子力政策動向について講義を受けた。INLでは研究炉の見学,研究開発動向について講義を受けた。研修を終え,今の日本で原子力を志す私たちが何を見てどんな想いを抱いたか紹介する。
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