日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
甲状腺乳頭癌の至適術式について
伊藤 康弘宮内 昭
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2012 年 29 巻 2 号 p. 123-125

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抄録

甲状腺乳頭癌は一般に予後良好であるが,中には再発を繰り返すようなハイリスクな症例がある。ハイリスクな症例に対しては全摘を行い,予防的郭清も含めて広範囲なリンパ節郭清が必要である。日本内分泌外科学会および日本甲状腺外科学会が2010年に出版した「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」で定められた全摘の適応は,当院のデータから鑑みても概ね妥当である。中央区域のリンパ節郭清はすべての乳頭癌についてルーチンに行うべきであり,外側区域の予防的郭清は,腫瘍径が3cmを超える症例やEx2の症例といった予後不良とされる症例には施行することが望ましい。あらゆる乳頭癌に対して画一的な手術を行うのではなく,個々の症例の予後をきちんと見極めた上で術式を決定することが大切である。

1.はじめに

甲状腺乳頭癌は比較的予後良好な疾患であるが,中には悪性度が高く,ハイリスクとされる症例が存在する。また,腺内多発およびリンパ節転移が多く,その反面遠隔転移が少ないという特徴がある。乳頭癌の手術は甲状腺切除とリンパ節郭清からなる。前者について欧米では,個々の症例の臨床病理学的所見にかかわらず甲状腺全摘が行われている。その一方でリンパ節郭清についてはあまり熱心には行われず,術前の画像検査で転移が明らかではない症例では外側区域はもちろん,甲状腺切除と同じ創から施行できる中央区域の郭清さえ行わない傾向にある。日本では逆に,全摘は必ずしもルーチンには行われず,予防的な中央区域および外側区域の郭清については非常に積極的に行われてきたという経緯がある。ただ,欧米にせよ日本にせよ,グレードの高いエビデンスがあるというわけではなく,伝統的にそうしてきたというのが現実である。今回は甲状腺切除とリンパ節郭清にスポットを当て,どういう症例にどういう手術をすればよいのかを当院のデータを元に述べる。

2.どういう症例に全摘を推奨するか?

2010年に日本内分泌外科学会および甲状腺外科学会から「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」が出版され,そこに全摘の適応についての記述がある[]。それを表1にまとめた。実はこの適応を決定するにおいてガイドライン作成委員から様々な意見が出され,その結果,かなりグレーゾーンの症例が多いという結果になっている。当院の過去の検討で55歳以上(Age),男性,3 cm以上のリンパ節転移(N3),4 cmを超える腫瘍径(T4),UICC TNM分類のT4(当院の場合はほとんどすべてT4aである)に相当する被膜外進展(Ex),および隣接臓器の合併切除(部分切除も含む)を要する転移リンパ節節外進展(LN-Ex)が乳頭癌の予後因子として挙げられている。表2-4はこれらが遠隔再発因子および生命予後因子として,どの程度強く働くかを単変量および多変量解析を行った結果である。多変量解析ではEx, N3.T4およびLN-Exが遠隔再発あるいは生命予後を規定する因子として挙げられる。従って,こういった臨床病理学的因子をもつ症例は,全摘を行っておくべきである。また,当院のデータで臨床的なリンパ節転移が明らかな症例(N1)も,再発を起こしやすく,かつ生命予後不良であるというデータが過去にある[]ので,リンパ節のサイズにかかわらず臨床的に転移があると診断された症例は,全摘を行うのが望ましい。結論としては,ガイドラインが全摘を強く推奨,あるいはグレーゾーンとしながらも全摘が望ましいとする症例に対しては,全摘を施行するべきであるということになる。

表1.

ガイドラインにおける全摘の適応

表2.

乳頭癌5,768症例における肺への再発因子

表3.

乳頭癌5,768症例における骨への再発因子

表4.

乳頭癌5,768症例における生命予後因子

3. どういう症例に予防的な外側区域郭清を行うのがよいか?

海外ではリンパ節郭清はさほど重視されていないが,日本では元々予防的な郭清はさかんに行われてきた。これは,アイソトープを使ったablationがなかなかできないこと,そして乳頭癌がもっとも再発しやすいのは頸部リンパ節であることの二つの理由が挙げられる。中央区域のリンパ節は,「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」に記載されている通り[],術前にそこに転移がなくとも郭清すべきである。中央区域の郭清は創の延長も必要なく,さほど時間がかからないことが多い。予防的な中央区域の郭清が予後を改善するというデータはないが,術後のその部位に再発した場合,それに対する再手術は反回神経の損傷や永続性の副甲状腺機能低下症などの合併症を生じる危険性が高い。反面,外側区域の郭清のためには創をかなり外側まで延長する必要があり,剝離面も多く,かなり時間がかかる。また,乳糜漏,内頸静脈や迷走神経の損傷,副神経麻痺,Horner症候群といった合併症が起こりうるし,そういったものがなくとも術後の痛みや不快感といった患者の愁訴は多くなる。従って予防的な外側区域郭清は,症例を選んで行うのがよい。

リンパ節転移の術前評価はもっぱら超音波検査で行うが,表5に示すようにたとえ術前に転移が明らかではなくても,実際に郭清してみればかなりの頻度でそこに転移が存在する。1センチ以下の微小癌でさえ40%に転移が存在するが,転移率は腫瘍径が増えるとともにさらに増加し,4センチを超える症例では実に90%近い症例で転移が見られる[]。予防的外側区域郭清を行った症例においてカットオフを3センチとし,それを超える症例とそれ未満の症例で術後10年のリンパ節再発率を比較すると,前者は13%,後者は2%と前者の方が有意に高かった(p< 0.0001)。同じくEx2の症例とEx0あるいはEx1の症例で比較検討すると前者の10年リンパ節再発率は14%,後者のそれは5%であり,やはり前者の再発率が有意に高かった(p <0.0001)。もしこういった症例に予防的外側区域郭清を省略すれば,再発率はもっと高くなる可能性がある。それゆえ,腫瘍径が3cmを超える症例や明らかにEx2とされる症例には,たとえ画像的に転移が明らかでなくても,予防的な外側区域郭清を行った方がよいと考えられる。

表5.

外側区域の予防的郭清を行った乳頭癌1,231症例における腫瘍径とリンパ節転移の関係

我々の結論は以上であるが,これについてはいろいろな考え方があろう。リンパ節再発はただちに命を脅かすものではない。中央区域の再手術は技術的にも困難で合併症を起こしやすいが,外側区域に再発した症例の再手術は,一度も剝離していないところを手術するため,大抵の場合,剝離にそう難渋することはない。従って,海外でよく言われる“wait and see”という姿勢は間違いであるとまでは言えない。また,リンパ節再発は乳頭癌の場合,常にリスクとして存在するものであり,どんな症例でもその可能性をゼロにすることはできない。すなわち乳頭癌を治療する場合,リンパ節再発はある程度想定しておかなくてはならないものである。そしてその再発率をどのくらいまで容認するかは,個々の医師や患者によって異なってくる。我々は10年で10%を超えるリンパ節再発率は,やはり高いと考えている。比較検討した研究はないが,そういう症例で外側区域郭清を省略すればさらに再発率があがる可能性があり,これは我々としては容認しがたいと考える。しかしもっと高い再発率,たとえば10年で20%,あるいはそれ以上でも容認するという立場であれば,予防的郭清の適応も変わってくることになる。これは各々の考え方によるが,上に述べたようなデータが存在するということを留意して治療に当たっていただきたい。

4. 終わりに

甲状腺乳頭癌は基本的に予後良好な疾患とされる。しかしその中に,そう頻度は多くはないが,局所再発を繰り返したり,遠隔再発を起こしたりすることによって命を脅かす症例が存在する。どんな症例に対しても画一的な手術を行うのではなく,個々の症例の予後をしっかり理解した上で,切除範囲を決めることが大切である。

【文 献】
 

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