2012 年 29 巻 2 号 p. 148-151
【はじめに】腎癌に合併した副腎腫瘍の臨床的検討を行った。
【方法】対象は腎癌と副腎腫瘍を合併し,その両者の病理学的診断のついた12例で,副腎腫瘍の病理学的所見で良性群と悪性群に分類し,腫瘍の大きさ,内分泌活性の有無,原発巣の腎癌の病理学的所見を比較した。
【結果】良性6例のうち,内分泌活性を認めたものは褐色細胞腫1例のみで,残りは皮質腺腫4例,囊胞1例であった。悪性6例はすべて腎癌の転移であった。副腎腫瘍の平均腫瘍径は悪性群で大きかった(良性2.2±0.3cm,悪性4.8±1.1cm,p=0.049)。原発巣である腎癌の平均腫瘍径は悪性群で大きかった(良性3.4±0.5cm,悪性9.3±1.8cm,p=0.012)。原発巣である腎癌の細胞型や異形度,浸潤形式には有意差を認めなかった。
【考察】腎癌に合併した副腎腫瘍の良性悪性の鑑別は内分泌検査や画像診断の所見により高い診断精度で可能である。
画像診断の発達と検診の普及により偶然発見される腎細胞癌や副腎腫瘍が増加しており[1, 2],その両者を合併する症例も増加している可能性が示唆される。腎細胞癌に副腎腫瘍を合併している場合,良性悪性,特に副腎転移であるのかどうかの鑑別や内分泌活性の有無を精査し,その根治性や副腎皮質機能を温存すべきかどうかなども考慮に入れねばならず,治療方針の決定はやや複雑なものになると思われる。
今回われわれは腎細胞癌に副腎腫瘍を合併した症例の臨床的詳細を明らかにし,その治療方針についても考察を加えてみた。
1985年1月から2007年12月までに,福岡大学病院において手術または生検を施行した腎細胞癌症例のうち,同時性または異時性に副腎腫瘍を合併し,両者の病理組織学的確定診断がついた12例を対象とした。
診療録を用いて,年齢,性別,副腎腫瘍の患側・腫瘍径・内分泌活性の有無を調査し,また原発巣である腎細胞癌の腫瘍径・TNM分類・病理組織学的所見(細胞型,異形度,浸潤形式)などの詳細を腎癌取扱い規約第3版[3]に基づいて明らかにした。
内分泌検査は,原則として,血中ACTH,血中コルチゾール,血中アルドステロン,血漿レニン活性,血中カテコールアミン3分画,24時間尿中17-OHCS,24時間尿中17-KS,24時間尿中カテコールアミン3分画,24時間尿中ネタネフリン2分画を測定した。
副腎腫瘍を病理組織学的に良性群と悪性群に分類し,両群間で年齢や性別,副腎および原発の腎細胞癌の臨床的詳細を比較検討した。
統計学的解析はStatview for Windows version 5.0(SAS Institute Inc., USA)を使用して行った。必要に応じて平均値±標準誤差を算出し,対応のないt検定またはχ二乗検定で両群間を比較し,P<0.05を統計学的有意差ありと定義した。
腎細胞癌と副腎腫瘍を合併した12例の臨床的背景を表1に示す。副腎腫瘍の病理組織学的検査の結果が良性だったものは6例,悪性だったものは6例であった。良性群6例のうち,内分泌活性を認めたものは褐色細胞腫1例のみで,残りは4例が皮質腺腫,1例が囊胞であった。悪性群6例はすべて腎細胞癌の副腎転移であった。良性群の副腎腫瘍はすべて単発であったが,悪性群の1例は両側性であった。腎細胞癌と副腎腫瘍が同時に発見されたものは10例,腎細胞癌手術後の経過観察中に副腎腫瘍を発見されたものは2例(副腎転移1例,皮質腺腫1例)であった。

臨床的背景
良性群と悪性群の解析結果を表2に示す。副腎腫瘍の最大腫瘍径は,良性群に比べ,有意に悪性群で大きく(良性群 2.2±0.3 cm vs 悪性群 4.8±1.1 cm, p=0.049),原発巣である腎細胞癌の最大腫瘍径も有意に悪性群で大きかった(良性群 3.4±0.5 cm vs 悪性群 9.3±1.8 cm, p=0.012)。原発巣である腎細胞癌の病理組織学的細胞型,異形度,浸潤形式には両群間に有意差を認めなかった。また,良性群,悪性群ともにリンパ節転移を認めた症例はなかった。

悪性副腎腫瘍群と良性副腎腫瘍群の比較
腎細胞癌患者では非腎細胞癌患者に比べ副腎皮質腺腫の合併頻度が9.5-15%と高いとの報告[4]がある一方で,海老名らはCTスキャンでの検索による発生頻度は4.5%であり差はないとしている[5]。一方で,腎細胞癌の副腎への転移または直接浸潤は0.7-5%と報告されており[6〜8],2005年に報告したわれわれの施設での頻度も2.8%と同程度であった[9]。
腎細胞癌患者に副腎腫瘍を認めた場合,内分泌活性の有無,良性悪性の鑑別,副腎転移であるか副腎原発であるかの鑑別,副腎腫瘍の患側などを十分に考慮し,治療方針を決定する必要がある。内分泌活性を認めた場合は,腎細胞癌に対する治療のみではなく,副腎腫瘍に対する外科的治療も原則として積極的に行うべきと考えるが,経過観察も可能なプレクリニカルクッシング症候群の場合や腎細胞癌の予後なども十分に考慮し,腎細胞癌手術と一期的に行うべきか,あるいは二期的に別々に行うべきかなどを検討する必要がある。いずれにしても,周術期に致死的な循環動態の変化をきたす可能性のある褐色細胞腫や術後の副腎皮質ステロイド補充が必要となるクッシング症候群には十分注意しなければならない。
今回のわれわれの検討は後ろ向きの臨床研究であり,対象が病理組織学的診断が確定している症例のみであることから,症例抽出にバイアスが含まれている可能性があるが,副腎腫瘍が良性の場合は全例で副腎腫瘍が3cm以下かつ腎細胞癌がT1以下(T1a 4例,T1b 2例)であり,副腎腫瘍の腫瘍径が大きい症例やT1b以上の腎細胞癌症例において副腎転移の頻度が非常に高かった。特にT2以上の症例ではすべて副腎転移であり,CTなどの画像所見から鑑別は比較的容易と考えられ,腎細胞癌の根治性や副腎腫瘍の病態を考慮し,副腎摘除を行うかどうかを決定すれば良いであろう。逆の見方をすれば,原発の腎細胞癌がT1aで,副腎腫瘍の腫瘍径も3cm未満かつ画像上悪性を疑う所見がなければ,転移や悪性の可能性は少なく,内分泌非活性であれば,腎細胞癌に対する手術のみを行い,副腎腫瘍は定期的な画像診断で経過観察するのも一つの選択肢になると考えられる。また,内分泌非活性の囊胞性副腎腫瘍を認めた場合,囊胞内に充実性部分が認められれば,充実性腫瘍に準じて取り扱うべきであり,単純性囊胞であれば囊胞穿刺による内容液の精査[10]や経過観察も選択肢になるであろう。
両側性副腎腫瘍や腎細胞癌手術後の経過観察中に副腎腫瘍が発見された場合,その鑑別診断はさらに複雑になる。両側性の場合はAIMAH(ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成)や褐色細胞腫,転移を念頭におく必要があり,異時性の場合は腫瘍径が小さくとも転移かどうかの判断に難渋するものと思われる。いずれの場合においても,副腎腫瘍の内分泌活性の有無や根治性,術後の副腎皮質ホルモンの補充のリスクなどを考慮し,症例それぞれにおいて最善と思われる治療方針を決定すべきである。
治療方針を検討する際に最も重要なものの一つは画像診断の正確性であるが,今回のわれわれの検討においては,腹部CTの所見などを含む画像診断の詳細な分析が行えず,それが問題点の一つとなっている。最近の諸家らの報告では,CT装置の発達により,副腎への直接浸潤や転移は術前の画像所見,特に造影パターンや腫瘍径などでほぼ予測がつくものと考えられており[6,11〜15],Laneらは副腎転移のリスクを最も確実に予想できる因子は術前の画像診断による腎腫瘍径であると報告している[16]。われわれが行った病理組織学的分析の結果においても,副腎腫瘍の良性悪性の予想因子としては,原発巣である腎細胞癌の細胞型や異形度,浸潤形式には有意差を認めず,副腎腫瘍や原発である腎細胞癌の腫瘍径に有意差が認められ,これらの意見を支持するものと考えられた。
腎細胞癌に対する治療は根治性が最重要であり,外科的切除が最も有効な治療であることに異論はないが,副腎転移をきたしている症例は多臓器転移を伴う進行癌の可能性が高く,副腎摘除により根治性の向上が期待できる症例は限定的であると思われる。片側の副腎摘出や副腎転移の存在でさえも副腎皮質予備能を低下させる可能性があり[9,17,18],不必要な術後のステロイド補充や副腎機能低下症のリスクをできるだけ避けるために,可能な限り副腎皮質機能の温存を図る治療方針が検討されるべきである。