日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
異所性副甲状腺由来のHPTの部位診断と外科的アプローチ
宮 章博
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2012 年 29 巻 3 号 p. 193-197

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抄録

副甲状腺機能亢進症において原因となる副甲状腺が甲状腺近傍にみられず,異所性にみられることがある。発生学上,上副甲状腺は後縦隔に,下副甲状腺は前縦隔を中心に広範囲に位置異常を呈する可能性があり,食道・気管・咽頭の側面や後面,甲状腺内,胸腺内,頸動脈近傍,大動脈弓と肺動脈の間隙などにみられることがある。甲状腺内を除いては,異所性副甲状腺は超音波検査では診断が困難な場合が多いのでMIBIシンチグラフィと造影CTやMRIを組み合わせて局在診断を行う。MIBIシンチグラフィの際にSPECT/CTを用いると部位診断に非常に有用である。手術は,頸部にある場合は通常は頸部手術と同じアプローチで行う。腕頭静脈付近の胸腺内にある場合は,頸部操作で切除は可能であるが,それより尾側にある場合は,胸骨切開や胸腔鏡手術の適応になることがある。

はじめに

副甲状腺が異所性に存在することは以前から報告されている。副甲状腺機能亢進症の診断,治療に際しては,原因となる副甲状腺が甲状腺近傍にみられず,異所性にみられる可能性を認識する必要がある。副甲状腺の発生を理解すると異所性に存在する部位が分かってくる。副甲状腺機能亢進症の診断は,通常は先ず超音波検査を行い,次にtechnetium-99m methoxyisobutylisonitrile (99mTc-MIBI)を用いた副甲状腺シンチグラフィ(以下,MIBIシンチグラフィ)を行うが,これらの組み合わせにより部位診断の精度は高くなった。超音波検査で検出されない場合は,原因となる副甲状腺が小さいか,あるいは超音波では検出されない位置に存在する可能性が考えられ,造影CTやMRIを追加して診断する。これらの所見をもとに正確に局在診断し,手術を行うためには副甲状腺組織の特徴,解剖などを十分に理解することが必要である。そこで本稿では副甲状腺の発生,異所性副甲状腺の位置異常,部位診断,治療などについて概説する。

Ⅰ. 副甲状腺の発生

異所性副甲状腺を適確に診断・治療するためにはその発生について理解する必要がある。上副甲状腺は第4咽頭囊より発生し下降して,通常は甲状腺頭側1/3の後面に位置する。一方,下副甲状腺は第3咽頭囊より胸腺とともに発生し,甲状腺の側方を通り甲状腺下極へ下降する。原発性副甲状腺機能亢進症では約90%が1腺腫大の腺腫であるが,術中に同側の副甲状腺が正常かどうかの判断が必要になる場合がある。そのためには腫大腺が上下を診断する必要がある。甲状腺の上方あるいは下方にあるから,上腺あるいは下腺ではない。副甲状腺の発生時の移動経路を考えると分かるが,通常は上の副甲状腺は反回神経の後面にあり,下の副甲状腺は前面にある。個数は通常左右上下の計4個だが,剖検例や腎性副甲状腺の手術例の報告によると3腺の場合や5腺以上の過剰腺も比較的頻度が高い[,]。

Ⅱ. 位置異常

発生学上,上副甲状腺は甲状腺と共に食道に沿って下降するので,後縦隔に位置異常を呈することがある。また,下副甲状腺は胸腺と共に下降するので,前縦隔を中心に広範囲に位置異常を呈する。具体的には食道・気管・咽頭の側面や後面(図1),甲状腺内(図2),胸腺内(図3),頸動脈近傍(図4),大動脈弓と肺動脈の間隙(aortico-pulmonary window)などにみられる。原らの腫大副甲状腺の位置の詳細な報告によると,上副甲状腺は81%が甲状腺上部に存在したが,位置異常としては食道後方(13%),甲状腺と気管の間(2%),甲状腺内(3%),甲状腺軟骨後(1%)にみられた。下副甲状腺は55%が甲状腺下極近傍に存在したが,頸部胸腺内(27.5%),気管・食道傍(12.5%),縦隔胸腺内(5%)の位置異常があった[]。

図 1 .

食道後面の副甲状腺腫

a:MIBIシンチグラフィ planar像

b:MIBIシンチグラフィ SPECT/CT像

c:造影CT

図 2 .

甲状腺内に埋没した副甲状腺腫

a:MIBIシンチグラフィ planar像

b:MIBIシンチグラフィ SPECT/CT像

c:超音波検査

d:摘出標本割面

図 3 .

上縦隔胸腺内の副甲状腺腫

a:MIBIシンチグラフィ planar像

b:MIBIシンチグラフィ SPECT/CT像

c:胸部CT

図 4 .

内頸動脈前面の副甲状腺腫

a:MIBIシンチグラフィ planar像

b:MIBIシンチグラフィ SPECT/CT像

c:超音波検査

d:造影CT

Ⅲ. 部位診断

通常当院では先ず超音波検査を実施,次に99mTc-MIBIシンチグラフィをSPECT/CTで実施し,これらで部位が同定できれば手術を行う。異所性副甲状腺の場合は,甲状腺内にある場合を除いては超音波検査では診断が困難であるので,MIBIシンチグラフィ以外にCTあるいはMRIなどを組み合わせて位置の診断を行う。MIBIシンチグラフィの読影のポイントは,甲状腺周囲に異常集積を認めない場合は甲状腺に重なってみえないのか(図1),縦隔(図3)あるいは甲状腺よりも頭側(図4)に集積がないかなど十分に確認する。特にこれらの症例ではSPECT/CTが有用である。腫大副甲状腺が小さい場合や,大きくても内部が囊胞変成している場合は集積が弱くなる。このような症例ではPlanar像では集積が非常に淡くて不明瞭だがSPECT/CTで明確になることがある。

副甲状腺の手術に慣れていれば手術時に肉眼的に病的副甲状腺かどうかはほぼ判断できるが,慣れてない場合や,再手術などで検索が困難な場合は,99mTc-MIBIを用いたradioisotope navigation法が有用であるとの報告があり,携帯型ガンマプローブを用いて,高い放射性活性を示す部位を走査する。甲状腺内に結節の所見を認めるが,MIBIシンチグラフィは甲状腺周囲に異常集積を認めない場合は,甲状腺内の副甲状腺の可能性を考える。この場合は超音波ガイド下に穿刺して,穿刺物のPTHを測定し副甲状腺かどうか診断する[]。当院では21G針で穿刺して,穿刺物を1mlの生理食塩水を入れたチューブで洗浄しPTHを測定している。手術時に副甲状腺の被膜を損傷した場合は播種の危険性が知られているので,穿刺時には陰圧を掛けずに,毛細管現象で針に入るものだけを採取するように注意する。

Ⅳ. 手術術式

腫瘍の局在部位に応じて術式が異なる。食道背面などにあっても甲状腺のレベルであれば,甲状腺の手術を同じように襟状の皮膚切開を行い,前頸筋は正中で切開しアプローチする。場合によっては,中甲状腺静脈,下甲状腺動脈,上甲状腺動脈の一部を切離して甲状腺を脱転し視野を確保する。内外頸動脈分岐部付近など甲状腺よりも頭側のレベルにある時は,他の副甲状腺を確認する必要がなければ直上付近で切開し摘出する。縦隔にある場合は,その位置によってアプローチが異なる。腕頭静脈付近のレベルであれば,胸骨柄後面の胸腺内に含まれる場合や,食道近傍の後縦隔にある場合は通常は頸部から摘出できる。一方,それより尾側の場合は,前縦隔なら胸骨L字切開や正中切開が,中後縦隔なら後側方切開による開胸を要する場合がある。ただし,最近は胸腔鏡下手術が行われるようになってきた。

1.頸部創からの到達

腕頭静脈より頭側のレベルであれば,胸骨柄後面の胸腺内に含まれる場合や,頸部食道近傍の後縦隔にある場合は通常は頸部から摘出できる。通常の甲状腺の手術時と同じように襟状の皮膚切開を行い,前頸筋は正中で切開しアプローチする。

a.胸骨柄後面の胸腺内に含まれる場合

渡辺らは縦隔鏡下胸腺摘除術を報告しているが,それを参考に図3のような症例には経頸部胸腺切除を行っている[]。前頸筋は胸骨柄まで十分に正中切開しておく。胸骨舌骨筋は左右に牽引し,胸骨甲状腺筋を横切開し,その後面で胸腺上極をみつけ出す。胸腺上極を結紮し,上方に牽引しながら胸骨背面と左右側面を鈍的に周囲組織から剝離する(図5)。ブラインド操作になるので,胸腺の解剖を理解しておく。胸腺後面には腕頭静脈から分枝した胸腺静脈があるので,これを確実に結紮切離する。無理に牽引して血管が切れた場合や,電気メスで凝固するだけで止血が不十分な場合に縦隔内で出血を起こすと発見が遅れ止血も困難なため非常に危険であり,この手術の重要なポイントである。胸腺を十分引き出して副甲状腺の腫瘍を用手確認し,その尾側で胸腺を結紮切離し摘出する。

図 5 .

胸腺の剝離と摘出

胸腺の剝離手順(矢印)

腫瘍が大きい場合や胸腺をもう少し引き出す必要がある場合は,リュエル丸のみ鉗子で胸骨柄を2cmほど削るとさらに尾側まで手術が可能となる。手術侵襲や美容上も問題にならない。

b.頸部食道近傍の後縦隔にある場合

図1のような症例では,気管,食道,総頸動脈,反回神経などの位置に注意し腫瘍を確認し摘出する。頸部にはリンパ節も多数あるので誤認しないように肉眼的色調などにも注意する。

2.胸骨切開による到達

通常は胸骨を第2あるいは3肋間でL字(あるいは逆L字)切開を行うと大動脈弓付近までの摘出術が行えるが,場合によっては胸骨縦切開も行われていた。胸骨縦切開すると侵襲も大きくなるので,最近は胸腔鏡下手術の適応となっている[]。

3.開胸による到達

大動脈弓と肺動脈の間隙(aortico-pulmonary window)にある場合は左開胸の適応となる。後側方切開が一般的で,開胸する肋間は腫瘍の局在部位に合わせて決める。腫瘍近傍の壁側胸膜を切開し,血管,気管,食道などを指標に腫瘍の位置を確認する[]。

4.胸腔鏡下手術

肺の手術では胸腔鏡下手術が普及してきたので,縦隔の副甲状腺の手術においても行われるようになってきた。胸骨切開や開胸と比較すると侵襲は少なく,悪性の可能性はきわめて低いので良い適応である。目的とする腫瘍が小さい場合も多く,同定が困難なことが予想される場合は,radioisotope navigation法が有用であるとの報告がある[]。播種の原因となる被膜損傷を起こさないように剝離,摘出時には気を付ける。

おわりに

副甲状腺機能亢進症の頻度は一般の医療機関では比較的少なく,さらに異所性副甲状腺を診断,治療する機会はさらに少ないと思われる。そのため診断,治療に苦労する可能性が考えられるが,超音波検査,MIBIシンチグラフィ,CT,MRIなどの読影に際しては副甲状腺が存在する可能性がある部位を解剖学的に理解することが非常に重要である。異所性副甲状腺疾患を正確に診断,治療できることが内分泌・甲状腺外科専門医に期待されていると考える。

【文 献】
 

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