日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
神経内分泌腫瘍(NET)のWHO分類(2010)と病理診断
長村 義之
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2012 年 29 巻 3 号 p. 210-214

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抄録

現在の神経内分泌腫瘍(NET)の病理組織学的分類と,その問題点につき概説する。

歴史的背景

内分泌腫瘍は,当初臓器別に呼称されていたが,消化管に発生する腫瘍には,1907年にOberndorferが “カルチノイド”(Carcinoid)と命名して以来,独自のニュアンスを持って100年間その “ゆるぎない” 地位を確立して来た。しかし,Oberndorferにより,カルチノイドは “転移をしない” “indolent tumor(良性腫瘍)” と定義され,その後臨床的な事実に鑑みて,カルチノイドは “misnomer” (誤った名称)であると言われ続けてきたが,臨床でも病理でも余りに定着していたために,なかなか変更することが出来なかった。Oberndorferが命名して100年近く経ってやっとENET,WHOなどが主体となって変更する動きが具体化した。Oberndorferの先見の明など大いにcreditを与えなくてはいけない。

カルチノイドは,消化管・肺など広い範囲に発生するところから,dispersed endocrine cells(広範囲に分布する内分泌細胞)由来の腫瘍との考えが導入された。この考え方により,カルチノイドが他の内分泌腫瘍と共通の認識が生まれてきたものと考えられる。

病理学的には,“カルチノイド” は,病理医が “瞬時に診断可能な” 特徴ある組織所見を呈する内分泌腫瘍,転移をする可能性がある,部位によっても予後が異なる(たとえば回腸カルチノイドは高頻度に転移)などが特徴とされてきているが,本腫瘍群を “内分泌腫瘍” とみなしてきた場合,カルチノイドという曖昧な呼称よりは内分泌腫瘍という特徴のある呼び名にすべく考えられてきた。

2000年,2004年にはWHOで膵内分泌腫瘍を以下のように呼称することが提案され大きなステップとなった。

高分化型内分泌腫瘍 Well differentiated endocrine tumor(WDET)

高分化型内分泌癌 Well differentiated endocrine carcinoma(WDEC)

低分化型内分泌癌 Poorly differentiated endocrine carcinoma(PDEC)

と大別された。この際に,これらペプチドホルモンを産生する内分泌腫瘍では,分泌顆粒という一部の神経終末 “シナプス” との共通構造から “神経内分泌腫瘍” と呼ばれるようになり一般化してきている。現在では高分化型神経内分泌腫瘍WDNETと呼ばれることが多く,他の群もWDNEC,PDNECなどと呼ばれている。

一方肺ではカルチノイドという用語が引きつづき用いられており定型的と非定形的に分け使用されているが,悪性腫瘍は,大細胞型神経内分泌癌Large cell neuroendocrine carcinoma(LCNEC)の名称が定着しており,この呼称が他の腫瘍にも応用されてきている,例:子宮頸部LCNECなど。

カルチノイドに端を発した議論は,膵臓と消化器の神経内分泌腫瘍に形態学的および生物学的な特徴を共有するところから,膵・消化管神経内分泌腫瘍Gastro-entero-pancreatic neuroendocrine tumor(GEPNET)と呼ばれて解析が大いに進んできた。これにはヨーロッパ神経内分泌腫瘍学会ENETSでの議論が先導することとなった。

先ずNETSのGradingとして提唱されたのが

表2

 

このGradingは腫瘍の予後と明らかな相関を示した。そこでNET,NECの分類はこのGradingが基盤となった。一方米国では,核分裂像のカウントが診断病理では定着しており,両者を併せる形で,WHO2010が公表され現在に至っている。

WHO 2010について[

WHO Classification of the tumors of the Digestive Tractでは,腫瘍群を神経内分泌新生物Neuroendocrine Neoplasm(MEN)として総称し,以下の表のような分類となっている。基本は,以下のごとくとされている。

図1

 

WHO 2010の基本は以下のごとくであり,最も汎用される略語は,NET G1,NETG2,NECである。

図2

 

NET G1,NETG2 NECは以下の増殖能の判定を基盤にしている。

図3

 

また,膵・消化管に発生する神経内分泌腫瘍では,これを主体に以下のように更に特徴を表す用語を追加することが可能である。

膵腫瘍では,以下のごとくであるが,産生するホルモンは予後とも関係するところから付記出来るようになっており(Gastrinoma,Glucagonomaなど),Carcinoidも用語(特にCarcinoid症候群を呈する場合)として残存している。

図4

 

消化管でも,同様であり,その特徴ある腫瘍の用語は存続している。

図5

 

以下の虫垂での分類には,Goblet cell carcinoid,Tubular carcinoidがむしろ特殊型として含まれている。

図6

 

利点と課題

基盤をNET G1,NETG2,NECとすることによって,膵・消化管での神経内分泌腫瘍は予後も視野に入れてかなり整理されることになった。課題としては,他の臓器,特に肺においても神経内分泌腫瘍の考え方が適用されてゆくか? WHO2010で存続したCarcinoidの名称の意義,使い方,などが残されている。

今回のWHO 分類では,増殖能を非常に重視している。組織像が典型的な高分化型神経内分泌腫瘍を示し,Ki-67 指数が20%を超える場合,NET “G3” とういう表現が適切だと考えられるが,今後広くコンセンサスを得て行く必要があろう。こういったケースの場合,増殖能が高く臨床的にも非常に予後不良と考えられる。Small cell NEC,Large cell NECとの整合性はないが,NECに準じると考えた治療方の可能性を含めて検討することが重要と考えられている。

取り扱い規約とWHO2010

癌取扱い規約上では “内分泌腫瘍(膵)” “カルチノイド腫瘍(胃や大腸)” として記載されている。

本邦の膵癌取扱い規約では,NET は内分泌腫瘍に相当し,膵・消化管ホルモン産生腫瘍と定義されている(表1)。

取り扱い規約では膵内分泌腫瘍は,2000 年の旧WHO分類に従い,高分化内分泌腫瘍(well-differentiated endocrine tumor:WDET),高分化内分泌癌(well-differentiated endocrine carcinoma:WDEC),低分化内分泌癌(poorlydifferentiated endocrine carcinoma:PDEC)に分類されている。胃では,WHO分類のWDETとWDECがカルチノイド腫瘍とされ,PDECが内分泌細胞癌とされている。また,大腸では,WHO分類との対応に関する記載はなく,カルチノイドは「消化管線管内の増殖帯にある未熟内分泌系細胞を母細胞として発生する腫瘍で,悪性度の低い腫瘍である。」と定義され,一方,内分泌細胞癌は悪性上皮性腫瘍に分類されている。当面は,癌取扱い規約における分類名とWHO2010 における分類名を併記することが望ましいと考えられる。

TMN分類

腫瘍の形態学的診断と併せて,病変の進み具合を明確にするために,TMN分類を記載することが望ましい。現在TMN分類には,ENETsとAJCCのと種類あり,どちらのTMNかを明記する必要がある。

表1

腫瘍のサイズによるT分類

神経内分泌腫瘍(NET,NEC)の治療

原発腫瘍は外科的摘出が第一であるが,しばしばNET・NECは早期より肝臓,リンパ節に転移することが知られている。また,従来より化学療法が施行されてきているが,近年分子標的治療の一環として,ソマトスタチンアナローグ(SA),mTOR 阻害剤,チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)などが使用されてきている。中でも,SAに対しては,腫瘍細胞の細胞膜上のソマトスタチン受容体SSTR2aの発現のある腫瘍細胞に対してその薬剤効果が期待できると言われている。

ソマトスタチンレセプターSSTR

SSTRには,5種類のアイソフォームが存在し,現在使用されているSAであるオクトレオチドはSSTR2aと親和性が強い。SSTRは下図[シェーマと下垂体腺腫での細胞膜染色像]のように細胞膜を7回貫通する蛋白で細胞外ドメインにSAの結合部位があり,細胞内ドメインはホルモン分泌および増殖を抑制するシグナルに連携する仕組みになっている。

表3

 

SSTR2aは,免疫組織化学的に検出が可能であり,細胞膜に染色される場合に陽性と判定する。Volanteの基準により細胞膜に染色されるスコア2(細胞膜の一部),スコア3[細胞膜全周性]が陽性と判定されている。

表4

 

これまでの,我々の経験ではNET/NEC全般の約60%がSSTR2a スコア2,3の陽性であり,25例のSSTR2a陽性の膵・消化管神経内分泌腫瘍GEPNETの肝転移腫瘍では,約70%にSDも含めてSAの薬効が確認された[]。

図8

 

膵神経内分泌腫瘍の肝転移(A)腫瘍細胞の細胞膜にSSTRaが強く染色されている。[

mTOR阻害剤

mammalian target of rapamysin(mTOR)はリン酸化され活性化されると他のシグナルを賦活化し,細胞増殖など腫瘍細胞の増殖を促すことが知られている。このmTORを阻害するEvelorimusが今年より膵神経内分泌腫瘍に認可になり保険収載されている。特に転移性PNETなどでの薬効が期待されている。[

表5

 

まとめ 神経内分泌腫瘍の病理診断 必要事項

上に述べてきたように,本腫瘍群として診断名はOderdorferにクレジットを与えつつも,整理に約100年かかったことになる。このWHO2010を基本にしつつ病理診断には以下の諸点に留意して記載することが望ましい。

図7

 

Acknowledgment :

使用した表の一部は,“長村義之 監修 神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)2010年WHO分類による病理組織学的分類・病理診断” より転用した。

【文 献】
 
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