日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
乳腺画像診断におけるReal-time Virtual Sonography(RVS)の有用性:現状と将来展望
中野 正吾藤井 公人吉田 美和高阪 絢子毛利 有佳子安藤 孝人手塚 理恵秋月 美和福富 隆志石口 恒男荒井 修三竹 毅
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2012 年 29 巻 4 号 p. 279-283

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抄録

Real-time Virtual Sonography(RVS)は磁気位置センサーユニットを用いて,超音波施行中に探触子走査面に一致したMRI/CT画像情報をリアルタイムに表示することができる画像診断装置である。我が国で開発された革新的画像融合技術であり,愛知医科大学では2005年よりRVSを導入し乳腺画像診断への応用開発を行っている。RVSの位置精度における検討では乳腺MRI造影病変検出における超音波画像とMulti-Planar-Reconstruction(MPR)画像との位置ずれは,3次元方向においてそれぞれ7.7,6.9,2.8mmであり,3次元誤差は12.0mmであった。Second-look USにおけるMRI-detected lesionの検出率は超音波単独では30%であったが,RVS併用により90%まで改善した(p<0.001)。RVSを用いることで術者の技量にかかわりなく再現性をもってMRI造影病変近傍に超音波探触子を誘導することが可能であった。3D-CT lymphography,SPECT,PET-CTとの組み合わせや時相の異なる超音波画像情報の比較などへも応用可能な新技術であり,乳腺画像診断の新たなモダリティとなることが期待される。

はじめに

Real-time Virtual Sonography(RVS)は磁気位置センサーユニットを用いて,超音波施行中に探触子走査面に一致したMRI/CT画像情報をリアルタイムに表示することができる画像診断装置である。MRI/CT画像情報をベットサイドで利用することを可能にした新たな画像診断システムである。我が国で開発された革新的画像融合技術であり,肝臓,乳腺,前立腺画像診断へ臨床応用が進んでいる。当科では2005年よりRVSを導入し応用開発を行っている[-]。本稿ではRVSの原理・構成を紹介するとともに,乳腺画像診断におけるRVSの位置精度,second-look USへの臨床応用の実際,将来展望について概説する。

1.Real-time Virtual Sonography(RVS)の原理・構成

RVSは超音波診断装置,磁気センサー,磁気発生装置,磁気検出ユニットおよびワークステーションにより構成される(図1)[]。事前に撮像されたMRI/CTボリュームデータをあらかじめワークスステーションに取り込んでおく。磁気発生装置から生じるパルス磁場上の空間座標を基準として,超音波探触子に取りつけられた磁気センサーが探触子の位置と角度を検出する。獲得された位置情報をもとに超音波走査面に対応したMRI/CTのMulti-Planar-Reconstruction(MPR)が作成され,ワークステーションのモニター上に超音波画像とともに表示される(図2)。異なるモダリティ間の空間座標軸を一致させるために3次元的な基準点が必要となる。われわれはいずれのモダリティでも検出が容易な患側乳頭を画像同期の基準点とし,位置合わせを行っている。大がかりな装置は必要なく,外来検査室での使用が可能である。またRVS施行中は放射線被曝,高磁場の曝露もない。

図 1 .

RVS(プロトタイプ)の構成(A),操作法の実際(B)

1.ワークステーション,2.モニター,3.超音波診断装置,4.磁気検出ユニット, 5.磁気発生装置,6.超音波探触子,7.磁気センサー(文献3より一部改変)

図 2 .

RVS(プロトタイプ)のモニター画面

左上:超音波画像,右上:造影前MRI-MPR,左下:造影早期相MRI-MPR,右下:造影晩期相MRI-MPR(文献2より)。

2.RVSの適応,禁忌

1)適応

超音波単独ではMRI/CTで検出された病変の描出が困難もしくは確証が得られず,正確な照合が必要な場合にRVSの適応となる。超音波と同じ仰臥位で撮像された画像情報を同期させると位置ずれが少ない。

2)禁忌

磁気発生装置より磁束密度3ガウス程度の磁場が発生するため,心臓ペースメーカー装着者は禁忌となる。

3.RVSの位置精度

2008年12月~2009年5月に当科で仰臥位MRIを施行した乳腺疾患51名63病変を対象とし,RVSの位置精度管理目的に同一モニター上で超音波画像とMRI-MPR画像の3次元的位置ずれの距離および腫瘍径を計測した(図3)。位置ずれはtransverse方向,sagittal方向,皮膚からの深部方向でそれぞれ7.7,6.9,2.8mmであり,3次元誤差は12.0mmであった[]。位置ずれ補正後の腫瘍径の平均値は超音波像12.3mm,MRI-MPR像14.1mmで強い相関がみられた(r=0.848,p<0.001)。

図 3 .

超音波画像とMRI-MPR画像の最大腫瘍径の比較,3次元的位置ずれの計測(A;schema,B;RVS,点線矢印:腫瘍径,矢印:位置ずれ)(文献3より)。

4.乳腺画像診断へのRVSの臨床応用

1)MRI-detected lesionの検出における問題点

乳腺画像診断においてMRIはMMGやUSでは不確定な病変の拡がり診断,対側乳癌の検出,潜在性乳癌の検出,術前化学療法の効果判定などに用いられている。MRIは高い感度を示す一方,特異度は相対的に低いことが知られている。Houssamiら[]は乳癌術前MRI検査の役割を検証したメタアナリシスにおいて,全体の16%の患側乳房内にMRIでしか検出できないMRI-detected lesionを認め,陽性的中率が66%であったと報告している。このため,MRI-detected lesionを認めた場合,病変の検出ならびに組織学的良悪性の評価が必要となる。欧米では,MRI-detected lesionの検出においてMRI-guided biopsyが実地臨床に導入されている。成功率96~100%と有用な検査法であるが,コストや検査時間などの問題点も指摘されている。

近年,MRI-detected lesionの検出においてsecond-look USの有用性が多く報告されるようになった(表1)[-13]。標的病変が超音波で同定できればUS-guided biopsyを行うことが可能となる。一般に超音波は仰臥位,MRIは腹臥位で行われる。腹臥位では乳腺および乳腺後隙の脂肪織は過伸展される。さらに病変のローテーションも加わるため,超音波,MRI間での位置情報にずれが生じ,病変の正確な対比が困難なことも少なくない。このためsecond-look USにおいては超音波,MRIいずれにおいても同定可能な線維腺腫や囊胞などをlandmarkとして標的病変にアプローチするが,常にlandmarkが標的病変の近傍に存在するとは限らない。またそれぞれのモダリティでの位置対応を超音波術者が頭に浮かべながら検査を行う必要があるため,術者の技量に大きく依存し,再現性も問題となる。さらにsecond-look US非検出病変においても悪性病変が存在し,生検が不要であるとはいえないとも報告されている[]。

表1.

Second-look USによるMRI-detected lesionの検出率

2)RVSを併用したsecond-look USによるMRI-detected lesionの検出

2006年6月~2007年4月に当科で仰臥位MRIを施行した原発性乳癌65名のうちMRI-detected lesionが同定された17名,23病変を対象とし,second-look USにおけるRVSの有用性について検証した。超音波単独とRVS併用でのsecond-look USでの病変の検出率を比較したところ,超音波単独では30%であったが,RVSを併用することで83%まで病変の検出率を改善することが可能であった(p=0.001)[]。特に①等~低エコーレベルの腫瘤が乳腺実質の辺縁から脂肪織にかけて存在する場合(図4),②背景に低エコー域が散在する乳腺内に病変が存在する場合にRVSは有用であった。

図 4 .

RVSによるMRI-detected lesionの検出(A-D)

マンモグラフィ異常にてMRIを施行したところ,MRI-detected lesion を認めた(矢頭)。RVSを用いることで超音波下に標的病変の同定,生検が可能であった。MRI-detected lesionは脂肪織との境界に存在し,乳腺症の診断であった(文献4より)。

症例数を追加しMRI-detected lesion 67病変で検討を行ったが,検出率は超音波単独では30%,RVS併用で90%(p<0.001)と初回検討と同様の結果であった[]。

3)RVSの問題点

① 仰臥位MRI

乳腺MRIは腹臥位撮像が推奨されている。位置ずれを小さくするため,われわれは仰臥位MRI画像情報を使用しRVSを行っている。仰臥位MRIは戸崎ら[14]により報告されたMRI撮像法であるが,乳房専用ではない体表コイルの使用や,呼吸性移動や心拍に伴う体動のため,解像度の低下をきたすことが知られている。片側撮像のため対側乳腺の造影情報が得られず,対側乳癌の発見には寄与しない。仰臥位MRIの短所を補うため,当科では2009年までCTを併用していた。2010年からはプロトコールを変更し,全例腹臥位MRIを行った後,second-look USが必要となった場合に仰臥位MRIを追加し,RVSを施行している。近年,仰臥位専用の乳房コイルの開発も進んでいる[15]。

② 超音波画像とMRI/CT-MPR画像との位置ずれの補正

乳腺は脂肪が豊富で変形しやすいため,超音波プローブ操作や呼吸性移動に伴い超音波画像とMRI/CT-MPR画像との間で位置ずれが生じる。このため,乳腺を圧迫しないようにプローブを繊細に走査することが位置のずれを小さくするコツである。なお同期点である乳頭から離れると位置のずれが大きくなりやすいが,この場合は内蔵の再同期機能を用いる。Landmarkとなる標的病変が表示できたところでいったんMPR像を一時停止し,超音波像のみ動かし同一の断面が描出できた位置で一時停止を解除すると再同期が可能となる。また逆に超音波像を一時停止し,MPR像を動かし再同期することもできる。

5.将来展望

RVSを用いることで,種々の画像モダリティと超音波画像を同期することが可能となる。3D CT-lymphographyと組み合わせることでセンチネルリンパ節を超音波下に検出することが可能となる[16]。時相の異なるMRI/CTを組み合わせることにより術前化学療法前の画像情報を術前化学療法後の乳房に正確に投射することができるようになる。またSPECT,PET-CTと組み合わせることによりRI検出病変を超音波下に検出することが可能となる。さらに事前に取得した超音波ボリュームデータと組み合わせることで,過去と現在の超音波画像の正確な比較が可能となり,良性病変の経過観察や化学療法の効果判定などにも応用可能である(図5)。

図 5 .

RVSによる時相の異なる超音波画像情報の比較(右:リアルタイム超音波像,左:再構築超音波像)

あらかじめ取得しておいた超音波ボリュームデータを用いることで,探触子走査面に一致した過去と現在の超音波画像情報を直接比較することが可能となる。

おわりに

RVSを用いて超音波とMRIの画像情報を相互補完することで,second-look USにおいてのMRI-detected lesionの検出率が向上した。近年磁気ナビゲーションによる画像融合技術は普及期に入り,各社の超音波診断装置に同様の機能が搭載されるようになってきたが[17, 18],今後この分野のさらなる進歩に期待したい。

謝 辞

本論文の主旨は第24回日本内分泌外科学会総会において発表した。また本研究を遂行するにあたって,「平成22年日本学術振興会科学研究費補助金(22591445),平成24年度日本学術振興会科学研究費補助金(24591922)」の研究経費の一部を使用した。

【文 献】
 

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