2013 年 30 巻 1 号 p. 2-6
目的:定年退職予定自衛官50歳日本男性自衛官の甲状腺疾患(甲状腺結節,甲状腺癌)の有病率について横断的検索をした。
対象,方法:1990年から2012年まで,自衛隊病院(中央病院,阪神病院,熊本病院)において,6,422人の自衛隊員(男性,女性含む)を対象とし,甲状腺検診(問診,触診,超音波検査)を施行した。甲状腺結節(囊胞は除く)と甲状腺癌の有病率について検索した。対象はすべて無症状であり,明らかに症状を有する者は除外した。6,422人のうち,6,182人は50歳男性,47人は50歳女性,149人は40歳男性,44人は40歳女性であった。甲状腺癌の家族歴,放射線の被曝歴のあるものはなかった。甲状腺結節の最大径を計測し,5mm以上の結節で悪性を疑う者は超音波ガイド下穿刺吸引細胞診検査を行った。
結果:50歳男性の甲状腺結節は924名(有病率は14.9%)であった。甲状腺癌は19名(有病率0.31%)であった。甲状腺癌の最大径の平均は12.5mm(1mm~30mm)であった。臨床的TNM分類ではStage Ⅰが8名,Stage Ⅱが4名,Stage Ⅲが6名であったのに対し,病理学的TNM分類では,Stage Ⅰが7名,Stage Ⅱが2名,Stage Ⅲが9名であった。40歳男性の甲状腺結節は12名(有病率8.1%),甲状腺癌は1名(有病率0.67%),50歳女性の甲状腺結節は5名(有病率10.6%),40歳女性甲状腺結節は5名(有病率11.3%)であった。甲状腺結節の有病率は,50歳男性が40歳男性より優位に多かった。50歳,40歳とも甲状腺結節の有病率に関し,男性女性間で有意差はなかった(p>0.05)。
結論:50歳以上の日本男性自衛官の甲状腺癌の有病率は0.3%で文献で報告されている率とほぼ同じであった。甲状腺結節の有病率は男性では年齢の高いほど高かったが,同年齢での性差はなかった。超音波検査を用いた日本人50歳男性に対する甲状腺スクリーニングは早期甲状腺癌を発見するうえで有用であると考える。
日本では乳がん検診の際甲状腺検診を行うことが多い。甲状腺検診の報告は,日本[1~7]のみならず,海外[8~25]でもある。甲状腺結節の頻度は,1.2%[2]から,35.3%[13],甲状腺癌の頻度は,0.08%[16]から,3.9%[22]と報告されている。多くは女性優位の報告である。それによると,甲状腺結節,甲状腺癌の頻度は男性よりも女性に多いという報告である[2,11,16,18]。定年退職予定の50歳の男性自衛官,また40歳の男性自衛官の報告はこれまでにない。今回われわれは,定年退職予定の50歳男性自衛官の甲状腺結節,甲状腺癌の頻度を調べ,同年齢の女性自衛官や文献的報告(触診,超音波検査,剖検例)と比べ,甲状腺疾患の頻度が女性優位であるかどうかを検討した。
1990年から2012年まで,自衛隊病院(中央病院,阪神病院,熊本病院)において,6,422人の自衛隊員(男性,女性含む)を対象とし,甲状腺検診(問診,触診,超音波検査)を施行した。甲状腺結節(囊胞は除く)と甲状腺癌の有病率について検索した。対象はすべて無症状であり,明らかに症状を有する者は除外した。6,422人のうち,6,182人は50歳男性,47人は50歳女性,149人は40歳男性,44人は40歳女性であった。甲状腺癌の家族歴,放射線の被曝歴のあるものはなかった。超音波検査で最大径3mm以上を甲状腺結節とし,5mm以上の結節で悪性を疑う者は超音波ガイド下穿刺吸引細胞診検査を行った。サンプル不十分,判定困難症例については2回まで穿刺吸引細胞診検査を繰り返した。使用した超音波検査機器は,2002年までTOSHIBA-SSA-250A;7.5 Mega Hertz。2004年から現在まではTOSHIBA-Aplio XG;8 Mega Hertzである。瀰漫性甲状腺疾患の診断は自衛隊熊本病院のみで行われた。評価は超音波検査で計測し判定についてはVector Core 社のThyroid Salivary Gland Atlas[26]を用いた。“甲状腺腫大”は,中心断面像で甲状腺実質の幅,厚さが20mm以上,“甲状腺萎縮”は甲状腺実質の幅,厚さが10mm以下とした。
2群間の統計学的有意差の検討は,χ二乗検定,Fisherʼs exact testで行った。2方向のp値が0.05以下であるとき統計学的有意差があると判定した。
(1)50歳男性(表1)
甲状腺結節は924名(有病率は14.9%)であった。甲状腺癌は19名(有病率0.31%)であった。50歳男性の約1%に甲状腺腫大を認めた。
(2)40歳男性(表1)
甲状腺結節は12名(有病率8.1%),甲状腺癌は1名(有病率0.67%)であった。
(3)50歳女性(表1)
甲状腺結節は5名(有病率10.6%)であった。
(4)40歳女性(表1)
甲状腺結節は5名(有病率11.3%)であった。

甲状腺検診1990~2012年(触診+頸部超音波検査)
19名の甲状腺癌のうち,63%は術前穿刺吸引細胞診検査で診断できた乳頭癌であった。26%は良性甲状腺結節で手術をし,術後の病理組織検査にて見つかった潜在癌であった。10%は濾胞性腫瘍で手術をし,術後の病理組織検査にて微小浸潤型濾胞癌と診断されたものであった。
甲状腺癌の最大径の平均は12.5mm(1mm~30mm)であった。臨床的TNM分類ではStage Ⅰが8名,Stage IIが4名,Stage Ⅲが6名であったのに対し,病理学的TNM分類では,Stage Ⅰが7名,Stage Ⅱが2名,Stage Ⅲが9名であった。術前細胞診検査で乳頭癌の診断であった1名は,手術を拒否した。

甲状腺癌19症例の内訳(50歳男性)

甲状腺癌19症例

甲状腺結節の有病率は,50歳男性が40歳男性より優位に多かった(p=0.019)。50歳,40歳とも甲状腺結節の有病率に関し,男性女性間で有意差はなかった(p>0.05)。

性別比較(50歳)

性別比較(40歳)

年齢比較(40歳 vs 50歳男性)
今回われわれの検討では,50歳男性の甲状腺結節の有病率は14.9%,甲状腺癌(病理組織検査で確定診断)の有病率は0.3%であった(表1)。甲状腺結節有病率の年齢別,性別比較検討では,甲状腺結節の有病率は,50歳男性が40歳男性より優位に多かったが,50歳,40歳とも甲状腺結節の有病率に関し,男性女性間で有意差はなかった。また男性甲状腺癌の有病率は50歳,40歳で有意差はなかった。このことは微小癌が必ずしも臨床癌になるとは限らないことを示唆している。表4に甲状腺結節,癌有病率の文献報告を示した。50歳男性の甲状腺癌有病率0.3%という値は,文献報告とほぼ同じか[4,5,12,16],低かった[14,22]。われわれの報告より高い値を報告していたChungら[14]の報告は,乳癌検診と同時に甲状腺検診を行っていたこと,またLinら[22]は,甲状腺結節患者から甲状腺癌をスクリーニングしていたというバイアスがあったものと考えられる。

甲状腺結節・癌有病率(文献報告)

これまで,女性あるいは女性主体の甲状腺検診の報告はあっても,定年退職予定の50歳の男性自衛官,また40歳の男性自衛官の報告はわれわれの知る限りではこれまでにない。第1の理由は,甲状腺疾患が女性優位の疾患であると考えられていることである。甲状腺検診の報告は,日本[1~7]および,海外[8~25]であり,これらの報告の多くは,甲状腺結節,甲状腺癌の頻度は男性よりも女性に多いという報告である。
そして報告の多くは,甲状腺癌の発見率は,男性よりも女性に多く[24],特に30歳から40歳にかけてその差が著明である[1~5,8,10,12,15,17,19,20]。
Dal Masio ら[24]は,甲状腺乳頭癌の頻度がピークを迎えるのは女性では45歳から49歳,男性では65歳から69歳であったと報告している。性別の比較検討では,Kugimoto と Maruchi[1,2]は,1965年から1967年にかけて,30,359名を対象(日本長野県ある地域の住民の86.4%),とし,甲状腺癌の発見率を男性0.08%,女性0.18%と報告している。Ishidaら[4]は,152,651名の女性をスクリーニングし0.14%の甲状腺癌を発見した。Omataら[5]は,4mmの甲状腺腫瘍も検索できる超音波検査機器を使って,19,821名を対象とし,甲状腺癌発見率を,男性0.29%,女性0.59%,全体で0.38%と報告している。これに対してHsiaoらは,甲状腺癌の発見率を男性0.6%と女性0.1%比し多いというこれまでと反対の結果を報告している[11]。Linらの報告も,甲状腺癌の発見率男性5.7%,女性3.6%と男性が多いという報告をしている[22]。さらに,剖検例の報告になると甲状腺癌の有病率は一段と高くなる[18,23]。Sampsonらによる157剖検例の報告では,甲状腺癌の有病率は男性7.1%,女性3.5%と男性が多かった[18]。Harachらは,フィンランドにおける101剖検例を検索し,甲状腺癌有病率は35.6%で,内訳は男性43.3%,女性27.1%と同様に男性に多いと報告している[23]。
50歳男性の甲状腺癌19名(全体の0.31%)のうち,63%は術前穿刺吸引細胞診検査で診断できた乳頭癌であった。26%は良性甲状腺結節で手術し術後の病理組織検査にて見つかった潜在癌であった。10%は濾胞性腫瘍で手術し術後の病理組織検査にて微小浸潤型濾胞癌と診断されたものであった。
穿刺吸引細胞診の対象を5mm以上の甲状腺結節としたこと,良性甲状腺結節の患者のほとんどが手術を受けないことなどを考えると,甲状腺癌の有病率は0.3%よりもっと多いものと考えられる。もう1つ興味深いこととして,今回発見された19名の50歳男性甲状腺癌で,病理学的TNM分類では,Stage Ⅰが7名,Stage Ⅱが2名,Stage Ⅲが9名であったこと,すなわち,無症状で発見された甲状腺癌のうち50%はすでにリンパ節転移を伴っていたことである。日本人高齢男性の甲状腺癌の予後が悪いことを考えると,超音波検査を用いた50歳男性の甲状腺検診は,甲状腺癌を早期に発見するうえで有用であると考えられる。
これに対し,米国では一般的に甲状腺検診は行われていない。第1の理由は,ほとんどの甲状腺癌は臨床的に致命的になるものが少ないことである。第2の理由は,検診で見つかった多くの甲状腺癌が患者の予後の規定因子とはならないことである。剖検例の甲状腺癌(微小癌)の有病率は2%から35.6%[17,18,23]と報告されているのに対し,年度別臨床癌の発見頻度はわずか4/100,000[3,19]である。微小甲状腺癌は剖検例や病理医が他の疾患でたまたま甲状腺を検索したときにしばしば発見されるが,臨床的に問題となる甲状腺癌は100例の超音波で発見された甲状腺結節のうちの1例の割合である。しかしながら,マススクリーニングでのコホート研究では,検診で発見された甲状腺癌の7年累積生存率(98%)が,症状を有した甲状腺癌のそれと(90%)比較し高いという報告もある[20]。この報告は,甲状腺検診で発見された甲状腺癌は予後が良いということを示している。
しかし多くの専門家らは,検診で発見された甲状腺癌が,大きい癌あるいは臨床癌に比べ予後が良いとは考えていない。American Cancer Society は甲状腺癌のスクリーニングとして,21~40歳を対象とした3年ごとの触診,40歳以上は毎年の触診検査を薦めている[21]。
超音波検査を用いた50歳日本人男性の甲状腺検診は,甲状腺癌を早期に発見するうえで有用であると考えられる。
この研究の限界は,後ろ向き研究であること,対象とした50歳女性,40歳男性,女性の数が少ないことである。
50歳以上の日本男性自衛官の甲状腺癌の有病率は0.3%で文献で報告されている率とほぼ同じであった。超音波検査を用いた日本男性に対する甲状腺スクリーニングは有用であると考える。
稿を終えるにあたり,データ収集に尽力された,自衛隊熊本病院検査課末永透君に深謝します。