日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特別寄稿
バセドウ病治療法選択の国際比較とその変遷
赤水 尚史
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2013 年 30 巻 2 号 p. 137-141

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抄録

バセドウ病の治療に関する調査が,1980年代後半に欧日米の各甲状腺学会で実施された。その中に同一患者に対する治療法選択のアンケートがあり,国際的異同が論じられた。最近,同様な調査が欧日米で再び実施された。本稿ではこれらの調査を紹介し,バセドウ病治療の多様性やその要因に関して論じる。それによって,同治療の理解が深まり,選択の最適化につながれば幸いである。

はじめに

バセドウ病の治療は抗甲状腺薬による薬物治療,放射性ヨード(131I)によるアイソトープ治療,甲状腺亜全摘による外科療法の3つがあり,それぞれの治療法が長所と短所を有している。それ故,患者に応じて最適の治療法が選択されるが,同様の患者に対しても医師によってその選択が多少異なることは否めない。その差異は,バックグラウンドとなる専門(内科系,外科系,放射線)や修練した年代による場合があるが,国・地域による差異が非常に大きいことが知られている。1980年代後半に,欧日米の各甲状腺学会で同一の患者に対する治療法選択の調査が行われ,国際比較されたことは甲状腺専門家では周知のことである。最近,同様な調査が欧日米で再び実施されて報告された。本稿ではこれらの調査を紹介し,内容を解説するとともに他の報告を交えてバセドウ病治療の現状と多様性の要因に関して論じたい。

1.1980年代後半から1990年頃にかけて,欧日米の治療選択の比較

1986年にヨーロッパ甲状腺学会はバセドウ病治療に関する実態調査を実施した[]。その後,日本甲状腺学会,アメリカ甲状腺学会によって同様な調査が行われた[,]。その調査の中に,表1のようなバセドウ病患者に対してどのような治療を行うかという共通の設問があった。その各地域における治療選択の結果を図1に示す。日本では抗甲状腺薬による内科的治療が第一選択法として圧倒的に好まれており(88%),アイソトープ治療は11%のみである。これに対し,アメリカでは内科的治療は30%のみであり,アイソトープ治療が69%と多い。ヨーロッパは日本と似た傾向である。手術療法はどの地域も1~2%と少ない。このような地域による違いは,医療経済的コストや放射線や核に対する歴史的背景が影響していると考えられる[]。なお,日本以外の東アジアに関しての同様な報告が1997年にされているが,図2に示すように韓国や中国でも日本やヨーロッパに近い治療選択が行われている[]。

表1.

欧日米におけるバセドウ病治療調査で対象となった“指標患者(The Index Patient)”

図 1 .

1980年代後半における欧日米におけるバセドウ病治療選択の比較[]。表1の指標患者に対する治療法。a)ヨーロッパ(N=100),b)日本(N=138),c)アメリカ(N=197)

図 2 .

東アジアにおけるバセドウ病治療選択[]。a)韓国(N=60),b)中国(N=64)

どの治療法を選択するかは,年齢,甲状腺腫の大きさ,眼症状の有無,コスト,個人的な好みなどによっても影響される。例えば,若年者では手術が増え放射性ヨウ素治療が減り,高齢者では逆の傾向となる(図3)[]。また,大きな甲状腺腫では外科手術の頻度が急激に増加し,放射性ヨウ素治療も増加するが,甲状腺腫大が無い場合は,抗甲状腺薬治療が主体となる(図4)[]。これらの傾向は欧日米で共通である。

図 3 .

年齢が日本におけるバセドウ病治療選択に与える影響。表1の指標患者の年齢より若年(a)または高齢(b)になった場合のバセドウ病治療選択を示す[]。図1bと比較。

図 4 .

甲状腺腫の大きさが日本におけるバセドウ病治療選択に与える影響。表1の指標患者より大きな甲状腺腫(a)または甲状腺腫大なし(b)になった場合のバセドウ病治療選択を示す[]。図1bと比較。

使用される抗甲状腺薬であるが,1980年代後半には日本やヨーロッパではmethimazole(MMI)が頻用されるが,アメリカではpropylthiouracil(PTU)が多く用いられていた(図5)[]。

図 5 .

各地域における抗甲状腺薬の選択(1980年代後半)[]。MMI:methimazole,同用量のcarbimazoleを含む。PTU:propylthiouracil。a)ヨーロッパ(N=100),b)日本(N=138),c)アメリカ(N=197)

2.2011年における欧日米の治療選択の比較

1980年代後半に実施された調査が約20年後の2011年にヨーロッパ,アジアオセアニア,北米で実施された。表1の指標患者に対する治療法は,アジアオセアニアでは放射性ヨウ素治療が29%とやや増加し,抗甲状腺薬治療は逆に71%とやや減少している[](図6)。この傾向は日本でも放射性ヨウ素治療の外来実施が可能になったなどの理由で同様と考えられる。一方,ヨーロッパや北米では放射性ヨウ素治療がやや減少傾向である。その理由として第一に1990年代に放射性ヨウ素治療によるバセドウ病眼症の悪化が報告されたことが挙げられる[,]。すなわち,抗甲状腺薬治療に比して放射性ヨウ素治療によって2.1~5.5倍バセドウ病眼症の悪化が多かった。第二の理由として,バセドウ病放射性ヨウ素治療後の悪性腫瘍頻度増加の報告が2007年にあったことが考えられる[]。その報告によると胃,腎臓,乳腺の悪性腫瘍の発生頻度がそれぞれ1.75,2.32,1.53倍に増加する。実際,眼症が存在すると北米では放射性ヨウ素治療選択が19%に過ぎなくなり,抗甲状腺薬や外科的手術が増加する(図7a)[]。同様に,妊娠前でも放射性ヨウ素治療選択が減少し,抗甲状腺薬や外科的手術が増加する(図7b)[]。

図 6 .

2011年における欧日米でのバセドウ病治療選択の比較[]。表1の指標患者に対する治療法。図1と比較。a)ヨーロッパ(N=98),b)アジア・オセアニア(N=68),c)北米(N=444)

図 7 .

眼症の存在(a)や妊娠前(b)であることが北米におけるバセドウ病治療選択に与える影響。表1の指標患者にこれらの因子が加わった場合のバセドウ病治療選択を示す[]。図1bと比較。a)眼症(+),b)妊娠前。

抗甲状腺薬の選択はこの20年間で北米において画期的に変化した。すなわち,図8に示すようにPTUの使用頻度が73%から17%に減じた。その理由は,PTUによる重篤な肝障害の報告がなされたためと考えられる[1011]。

図 8 .

北米における抗甲状腺薬選択の変遷[,]。a)1989年(N=197),b)2011年(N=704)

おわりに

三大バセドウ病の治療選択は,それぞれの治療法の長所と短所を考慮して総合的に行われる。国際的見地から俯瞰すると,地域特有な理由と地域を超えた共通の理由があることが観察される。さらに,時間的要素も加わって多彩で変化に富んだ像を呈している。これらの治療法は半世紀以前に樹立されたものであり,新たなバセドウ病治療が待望されている。免疫関連薬などの新たな治療法が開発された際にはより一層多様な治療選択が展開されると予想されよう。これらのアプローチによって,バセドウ病治療の最適化と向上がもたらされることを期待する。

【文 献】
 

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