日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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原著
甲状腺結節に対する穿刺吸引細胞診において液状処理細胞診(Liquid-based cytology;LBC)を施行した症例の検討
坂東 伸幸後藤 孝赤羽 俊章大貫 なつみ山口 朋美佐和 弘基西原 広史田中 伸哉
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2013 年 30 巻 2 号 p. 142-147

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抄録

穿刺吸引細胞診は甲状腺結節の質的診断のために最も有用な検査である。当院ではこれまでプレパラートに穿刺吸引細胞を吹き付ける従来法で細胞診を行ってきたが,診断率は高くなかった。そこで液状処理細胞診(Liquid-based cytology;LBC)を採用した。2007年4月から2011年5月までに従来法で穿刺吸引細胞診を施行し,パパニコロウのクラス分類で判定した426病変(従来法群)と2011年6月から2012年8月までにLBCを施行し,当院で甲状腺癌取り扱い規約第6版に準じて判定した297病変(LBC群)との比較を試みた。検体不適正についてLBC群では27病変(9.1%)であり,従来法の68病変(16%)と差を認め,同規約の付帯事項である10%以下を達成した。手術施行し,病理組織と対比できた従来法群125例においてclass Ⅲを除くと感度69.6%,特異度95.2%,正診率80.5%であったが,LBC群53例では鑑別困難例を除くと感度,特異度,正診率とも100%を示した。穿刺吸引細胞におけるLBCは従来法と遜色ないと考えられる。

はじめに

穿刺吸引細胞診(Fine needle aspiration cytology;FNAC)は甲状腺結節の質的診断のために最も有用な検査である。当院では2011年までプレパラートに穿刺吸引細胞を吹き付ける従来法で細胞診を行ってきた。しかし,赤血球混入,乾燥,変性,上皮細胞不十分などの理由により偽陰性や検体不適正とされた病変が多くみられ,診断率が高くなかった。そこで穿刺吸引された細胞を液状処理する液状処理細胞診(Liquid based cytology;LBC)を採用した。LBCは米国で開発され,本邦では子宮頸部擦過細胞診など婦人科領域において,すでに多く利用されている[]。甲状腺結節に対し,穿刺吸引したLBCの報告は2001年のNasutiら[]によるものが最初であり,本邦では報告が少なく[],その評価は定まっていない。今回われわれは甲状腺結節に対するLBCの診断的有用性を検討したので報告する。

対 象

2007年4月から2011年5月までに穿刺吸引細胞をプレパラートに吹き付けて細胞診を施行した426病変を従来法群とした。性別は女性287例,男性68例,年齢は25歳から91歳,年齢の中央値は63歳であった。この中には左右の結節を穿刺した症例も含まれている。その中で手術を施行し,病理組織と対比できた症例は125例であった。2011年6月から2012年8月までに液状処理細胞診を施行した297病変をLBC群とした。性別は女性203例,男性45例,年齢は27歳から89歳,年齢の中央値は64歳であった。その中で手術を施行し,病理組織と対比できた症例は53例であった。

方 法

全ての患者に対して十分に説明し,同意を得た上でエコーガイド下にFNACを行った。超音波装置は東芝社製aplioXGまたはaloka社製prosoundα10,探触子は7.5~12MHzのリニア型を使用した。仰臥位,頸部伸展位で22G針をつけた20mlのディスポーザブル注射器を千葉大第一外科式の吸引ピストルに装着し,結節から細胞を穿刺吸引した。必要に応じて同一の結節から穿刺を繰り返した。2名の医師が全症例を穿刺吸引した。

従来法群では検体をプレパラートに吹き付け,アルコール固定した。院外の検査専門施設でパパニコロウ染色が行われ,パパニコロウのクラス分類で判定された。LBC群では注射針で採取した細胞を即座に専用の細胞固定液が入ったバイアル(LBC PREP™:武藤化学社製)に洗い出した。当院臨床検査室において,細胞をバイアル内で30分以上固定したのちに,遠心器(KUBOTA 5200)5分間600Gで遠心し,収集した。上清を廃棄したのちに,精製水を5ml加え,蓋に専用のプレパラートをセットし,倒置し,5分間で細胞を接着させた。その後,パパニコロウ染色を行った。判定は甲状腺癌取り扱い規約第6版(以下規約)[]を用いて当院で細胞検査士および細胞診専門医により行われた。規約では,細胞診の精度に対し,付帯事項として触れているため,「検体不適正」や「鑑別困難」の割合や病理組織との対比なども検討に加えた。手術検体の病理診断は細胞診専門医と異なる病理診断医によって行われた。

結 果

従来法群では426病変中,検体が不適正であったものが68病変(16%)に認められた(図1)。その内訳は上皮細胞不十分が36病変(53%),赤血球の混入が主であったものが21病変(31%),乾燥,変性8病変(11%),不明3病変(4.4%)であった。従来法群で外科手術が施行された125例の病理診断は,腺腫様甲状腺腫33例(26.4%),濾胞腺腫12例(9.6%),良性のその他2例(1.6%),乳頭癌74例(59.2%),濾胞癌4例(3.2%)であった(表1)。外科手術が施行された125例中,class Ⅴまたはclass Ⅳと診断され,悪性であったものが32例,class Ⅰまたはclass Ⅱと診断され,悪性であった症例が14例であり,感度は69.6%(32/46)であった。class Ⅰまたはclass Ⅱと診断され良性であった症例が20例,class Ⅴと診断され,良性であった症例が1例であり,特異度は95.2%(20/21)であった。class Ⅲを除いた正診率は80.5%(62/77)であった。

図 1 .

従来法において穿刺吸引細胞診を行った病変の内訳(パパニコロウのクラス分類)

表1.

外科手術施行例における穿刺吸引細胞診(従来法)と病理診断との関連

LBC群では297病変中「検体不適正」が27病変(9.1%)に認められ,全て上皮細胞不十分であった(図2)。「正常あるいは良性」は150病変(50.5%),「鑑別困難」68病変(22.9%),「悪性疑い」20病変(6.7%),「悪性」32病変(10.8%)であった。鑑別困難68病変中濾胞性腫瘍で腺腫と癌と鑑別困難な病変が54病変(79.4%)を占めた。LBC群で外科手術が施行された病理診断の内訳は,腺腫様甲状腺腫9例(17%),乳頭癌43例(81.1%),その他1例(1.9%)であった(表2)。外科手術が施行された53例中,「悪性」または「悪性疑い」と診断され,悪性であったものが42例,「正常あるいは良性」と診断され,良性であったものが3例であった。感度,特異度,正診率は「鑑別困難」を除いてともに100%であった。

図 2 .

LBCで診断を行った病変の内訳(甲状腺癌取り扱い規約第6版)

表2.

外科手術施行例における液状処理細胞診(LBC)と病理診断との関連

LBCによる免疫細胞染色を施行し,細胞診が有用と考えられた1症例を提示する。77歳男性,2週間前から上頸部腫瘤が急に腫大したため当科を初診した。左上頸部に6cmの硬く,可動性不良の腫瘤を触知した。当初,咽頭癌頸部リンパ節転移を考え,咽頭生検や扁桃摘出術などを考慮したが,まずリンパ節から穿刺吸引し,LBCを施行した。その結果,悪性かつ乳頭癌が示唆されるとの診断であり,さらに免疫細胞染色を追加し,TTF-1陽性,AE1/AE3陽性,CD45陰性で甲状腺乳頭癌頸部リンパ節転移と診断した(図3)。その後の精査により甲状腺左葉内に1cmの原発巣が発見された。

図 3 .

転移性頸部リンパ節から穿刺吸引し,LBCを施行した症例の細胞所見(×400)

(a)パパニコロウ染色において核形不整,核内細胞質封入体,クロマチン増量を認め,乳頭癌が示唆される。

(b)Thyroid Tanscription Factor(TTF)-1染色で陽性像を呈する。

(c)AE1/AE3染色で陽性であり,上皮性悪性腫瘍(癌)が示唆される。

(d)CD45染色でリンパ球は陽性像を示すが腫瘍細胞は陰性である。

考 察

甲状腺結節に対するLBCにおいて最も有用な点は不適材料の減少とされている[,]。Cavaliereら[]は3,875例において同一の結節からの穿刺吸引を行い,LBCは従来法と比較し,有意に不適検体を減少させたと報告した。前田ら[]は検体不適正率が従来法単独では634例中79例(12.5%)であったのに対し,LBC単独では94例中5例(5.3%)であり,検体不適正の減少を認めたと報告した。検体不適正の減少の理由として,採取されたほとんどの細胞が穿刺針やシリンジに残らず,観察可能な細胞数が増加する[10],また採取された細胞が即座に洗い流され,固定されることにより乾燥,変性が予防できる[,],さらに固定液の中で赤血球の多くが溶血し,除去されるため,血流豊富な濾胞性腫瘍では鏡検の際に有利である[],などが指摘されている。本検討において,LBC群の検体不適正率は9.1%であり,規約[]の付帯事項である10%以下を達成した。検体不適正が減少した理由として,従来法群でみられた赤血球の混入と乾燥,変性検体がLBC群ではみられなかったことが挙げられる。しかしながら,その不適正率は低いとは言えない。当院では5mm程度の小結節であっても悪性を疑えば積極的にFNACを行っている。また,石灰化の強い結節に対しては穿刺針を刺入できないこともあり,上皮細胞不十分による検体不適正はある程度やむをえないと考えている。

甲状腺結節に対するパパニコロウのクラス分類による判定は細胞診判定基準が明確でないこと,組織型推定の概念が盛り込まれていないことなど問題点があるが,現在も広く普及している。同分類で判定された従来法群において,感度69.9%,正診率80.5%と高くはなかった。それは乾燥,変性などによってclass ⅣやⅤと診断されず,偽陰性が多いためであった。規約[]において全ての標本はまず「検体不適正」と「検体適正」の2つに区分し,「検体適正」はさらに「正常あるいは良性」,「鑑別困難」,「悪性の疑い」,「悪性」の4つに分類される。推定される組織型についても,できる限り記載することを推奨しており,規約の有用性が報告されている[1112]。FNACにおいて感度は65~98%,特異度は73~100%とさまざまな報告がある[13]。本検討においてLBC群では症例数が少ないものの感度,特異度,正診率とも100%であった。また「鑑別困難」が検体適正中25.1%であり,規約[]の付帯事項による20%以下をオーバーした。その理由は「鑑別困難」中の約80%を濾胞性腫瘍が占めており,全体の中で濾胞性腫瘍の比率が高かったためと考えられた。濾胞性腫瘍も細胞診で良・悪性の推定が可能であれば,他の判定区分に分類することは可能とされ,その点については今後の検討課題である。「悪性の疑い」のうち全例(100%)が術後の病理検査で悪性であり,規約[]の付帯事項の80%以上とする目標は達成された。本検討ではLBC群と従来法群において検討した時期,施設,判定法も異なり,厳密な比較にはなっていない。しかし,過去の検討[111314]も勘案し,LBCは従来法と比較し,その診断率において遜色ないと考えられた。

LBCの読影において,従来法と異なり,検体を液状処理するため粘液性,血性など背景の情報が乏しくなり,組織構造が反映されにくい。また細胞が小型化し,核のヘマトキシリンが濃染傾向となる,など所見がみられた。乳頭癌のLBCでは核縁の張りが弱くなり,核はやや小型化する傾向がみられ,核内封入体や核溝がやや目立たなくなることが指摘されている[]。よって甲状腺病変におけるLBCの読影ではそれらの点をふまえ,若干の学習と経験が必要であり,各種講習会などを通して診断技術の向上につとめることも肝要と考えられる。

液状処理をした細胞を用いて,免疫細胞染色を施行した1症例を提示したが,その細胞所見は十分診断に値すると考えられた。また免疫細胞染色や遺伝子解析を施行し,悪性の診断率を向上させるとする報告が散見される。Hashimotoら[15]は高容量サイトケラチン(34βE12)やcytokeratin 19,HBME-1などのマーカーを免疫細胞染色により解析し,乳頭癌の診断率が高まったと報告した。また液状処理した細胞からDNAを抽出し,BRAF遺伝子変異の解析から乳頭癌の診断を容易にしたとの報告もある[16]。さらに頸部リンパ節からの穿刺吸引細胞を用いて,甲状腺癌以外にも原発巣の鑑別に免疫細胞染色や遺伝子解析による診断法が開発される可能性がある。

LBCにおける診断以外の利点もいくつか指摘できる。LBCでは最終的に1枚のプレパラートの中央,円形の狭い範囲に細胞が集められる。従来法のプレパラートの広い範囲を鏡検することを考えると,検鏡時間の短縮が図れ,検者の負担も大幅に軽減される[]。また1回の穿刺でも細胞が十分量吸引できれば何枚ものプレパラートが作製可能である。従来法では免疫細胞染色を施行する場合,複数回の穿刺が必要であり,LBCでは患者の苦痛も軽減する。さらに余剰の細胞を長期間保存可能で,必要であれば再度プレパラートを作製し,再検査も可能である。LBCの欠点としては従来法とは異なり,細胞処理のためある程度,時間がかかるため穿刺直後の細胞採取の確認や迅速な診断は難しく,乾燥検体を利用するメイ・ギムザ染色も不可能である。また標本作製の際,固定液,特殊コーティングスライドなど300円程度の費用が発生することなどが挙げられる。これは上述した利点を考えると許容できると考えている。

LBCにはいくつかの方法が開発され,運用されている。Becton Dickinson社製のSurePath™法[]やCytoRich™ RED Preservative fluid を用いたThinlayer法[],Hologic社製のThinPrep®]が普及しているが,これらの使用には高価な標本作製機器や試薬が必要である。当院では2011年まで従来法でFNACを行ってきたが前述したごとく診断率が低く,方法を抜本的に変更しようと考え,多くの利点を持つLBCに着目した。しかし,細胞診の検体数が多くはなく,高価な機器の導入は困難であった。そこで完全用手法で操作も簡便であり,一般的な遠心機があれば高価な機器は不要である武藤化学社製のLBCPREP™を採用した。当初,従来法と併用し,良好な結果を得られたため2011年6月から全面的にLBCに移行した。LBCPREP™を用いた本検討の結果は,他の方法で行われたLBCの報告[,,]と比較し,遜色ないと考えられた。よってLBCPREP™は検体数が少ない施設でも容易に導入可能と思われた。

おわりに

LBCと甲状腺癌取り扱い規約第6版による判定法を用いて,甲状腺癌の診断率が改善し,過去の報告と遜色ない結果が得られた。FNACにおける穿刺手技や細胞を効率的にプレパラートに付着させる技術,診断技術の向上に加え,免疫学的また分子生物学的技術の進歩によって,今後,LBCは甲状腺腫瘍の診断において汎用される検査法になると思われる。

本論文の要旨は第45回日本甲状腺外科学会学術集会(2012年10月4日,横浜市)で口演した。

【文 献】
 

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