抄録
原発性副甲状腺機能亢進症のほとんどは単発性の腺腫で発症するが,わずかながら多腺病変も存在する。さらに術前画像診断による責任病巣の部位診断率も向上しているが,限界もある。これらを背景に手術成績をより確実にするものとして術中迅速PTH測定が導入され有効性も認められている。また,甲状腺全摘術後における低カルシウム血症の発症予測に周術期にPTH測定を用いることで入院期間の短縮が図られ患者のQOL向上にも貢献している。さらに永続的副甲状腺機能低下症の予防においても有用性が示唆されている。
術中迅速PTH測定は海外では盛んに議論されているが,日本では導入している施設が少なく,議論されることも少ない。その有用性,問題点を紹介し,当院での取り組みも紹介する。
はじめに
甲状腺や副甲状腺疾患における手術に際しては術中に副甲状腺の状態(機能)がリアルタイムに把握できることで手術の根治性,合併症の低減がはかれる。インタクトPTHは半減期が約4分で,その変化を捉えることにより副甲状腺の機能を迅速に判断することができる。PTHを短時間に測定できるキットが開発され,臨床に応用されるようになった。術中迅速PTH測定(以下IOPTH)は原発性副甲状腺機能亢進症手術や甲状腺全摘術後の副甲状腺機能の迅速な判定に応用されている。しかし,本法は保険上の制約や実際の運用上の問題もあり,施設によっては導入に躊躇してしまう面もあるが,得られることも多い。本稿ではサージカルデバイスとしてのIOPTHの有用性につき当院での取り組みを交えて報告したい。
原発性副甲状腺機能亢進症の手術におけるIOPTHについて
かつて原発性副甲状腺機能亢進症の手術方法については議論が多く,かつては両側頸部検索が主流であった。それは本症が必ずしも単発腺腫のみではなく多発腺腫や過形成が原因である可能性を考慮して,治癒切除率をできるだけ向上させるためであった。しかし,99mTc-sestamibi scan(MIBIシンチグラム)などの画像検査による術前の部位診断が向上したこと,また責任病変のほとんどは単腺病変であることから,腫大腺のみを切除するFocused parathyroidectomyが主流となった[1]。しかし,上述のように多腺病変や異所性病変の可能性,画像診断の限界などから,さらなる治癒率の向上をめざすには術中に異残病変の有無を確認する方法が必要である。そのためIOPTHが開発・紹介された。多くの施設からの使用経験が報告され信頼性の高い検査方法であることも確認された。それによりFocused parathyroidectomyの妥当性・信頼性も認められた。
Nussbaumらが1988年に,はじめてIOPTHの臨床応用について提唱・報告した[2]が,その後1991年にIrvinらが21例の原発性副甲状腺機能亢進症の手術例に対しIOPTHを応用したことを報告した[3]。彼らは術中のPTHモニタリングが術後のカルシウム値を推測できることを示した。その後,引き続きIrvinらのグループから多くの報告がなされてきた[4~6]が,他施設からの報告も多い[7~12]。代表的なプロトコールはIrvinらのグループからの報告であるが,他施設から独自の判定基準の報告があり,結果やコストにおいてはそれぞれ優劣を示す点が指摘されている[8,9,13~17]。
具体的な実施方法について概説する[18]。血液サンプルを採取するルートはなるべく太めのカテーテルで末梢静脈を確保しておく。生理食塩水でロックしておく。サンプルを採取する際には生理食塩水で希釈されないように10cc位を破棄する必要がある。麻酔導入薬のプロポフォールがPTHの値に影響を与えるが,PTHの変化・変動に有意な影響は及ぼさないと報告されている。サンプル採取のタイミングは,皮膚切開前,責任病変の流入血管結紮時(0分),切除5分後,切除10分後(時に20分後)の4から5点である。Irvinらが採用している基準(Miami Criterion)では“皮膚切開前”ないしは“責任病変の流入血管結紮時”のどちらか高い方の値に対して“10分値”が50%以上の低下がみられれば,術後カルシウムないしはPTHは97から98%の症例で正常化すると報告されている。5分値でも十分低下していることも多く,10分値の結果を待たずに手術を終了してもよい(5分値を測定することは必ずしも必要とは思えず,コストの点からも省略してもよいと筆者らは考える)。一方で,10分値が50%を超える低下がみられなかった場合の対処方法は,まったく低下がみられなかった場合に20分値を待たずに責任病巣の再検索を行うべきである。しかし,10分値が40%前後での低下であった場合には20分値の結果をみて再検索を行う方がよいとしている。他のプロトコールでは50%を超えるPTH低下という基準より,さらに厳格に定めているものの成功率はほぼ同様であり,偽陰性例が増加し追加検索の率が増加してしまう点も指摘されている。Rissら[13]の検討ではMiami Criterionと異なり,基準値を麻酔導入直後に設定し,やはり10分値が50%を超える低下を手術終了の基準としている。彼らの基準では多腺病変症例においても21例中19例(91%)で正しく診断できたのに対しMiami Criterionでは12例(57%)と劣っていたと報告している。いくつかの施設からMiami Criterionを改良した運用基準が提言されている[13~17]が,基礎値の設定を変えることで成功率が変化するとしている。これらは,いかに多腺病変症例か否かを判断できるかに集約されるが,原発性副甲状腺機能亢進症のほとんどが単発性腺腫によることを考えると運用方法を変えてもあまり有効性の向上にはつながらないと思われるかもしれない。しかし,多腺病変が少ないからといっても手術の確実性をできるだけ向上させる努力が専門医には必要である。そのためには,より厳しい基準を採用することも必要かもしれない。その一方で偽陰性例が増え,無駄な頸部操作が加わる可能性を秘めている。いずれの基準を用いるにせよ摘出後10分値が50%以上の低下がみられなかった場合にはさらにPTH測定ポイントを追加し,偽陰性か否かを判断すべきである[19]。
当院での経験について示す。1987年1月より2010年12月までの間に原発性副甲状腺機能亢進症患者のうち甲状腺疾患を合併せず副甲状腺のみの手術を行った症例は567例であり,これらを対象として検討をした。当院では2004年よりIOPTHを導入し,同疾患の手術に際しルーチンに使用してきた[20]。手術方法は術前の部位診断で腫大している責任病巣および同側の副甲状腺を切除する片側検索(Unilateral exploration)を標準としてきたが,IOPTH導入後は責任病巣のみを切除するFocused parathyroidectomyを標準としている。例数は導入前が288例,導入後が279例であった。当院でのIOPTHにおける採血のタイミングは麻酔導入時(前値),責任病変切除後5分,10分,15分に行い,いずれかの値で前値の50%以下の低下を示した時点で責任病巣が切除されたと判断した。それぞれの群の患者背景は表1に示す。IOPTH導入群においては手術時間が延長していたが,これは切除がなされた後も採決結果を待っている時間が加わったためである。治療成績(図1)は導入前で275例,95.5%が治癒を得られた。13例は高カルシウム血症が持続し,11例に再手術し,治癒を得られた。2例は経過観察1例,経皮的エタノール注入療法1例であった。IOPTH導入後では10分値が基準を満たしたのが233例,83.5%であった。満たさなかった46例中21例は15分値で基準値を満たした。残りの25例においてはそのまま再検索し治癒を得られたのが19例,6例は再検索するも病巣不明にて後日再手術し治癒を得られた。手術日当日のみで治癒が得られたのが273例,97.8%であった。導入当初には5分,10分値が摘出前の値よりも上昇してしまう症例を数例経験した。病巣を用手的に刺激してしまい,高値になってしまったものと考えた。いずれの症例も翌日には正常PTHを示していた。IOPTH導入前後では数値上,2%強の成功率の改善がみられた。わずかの症例ではあるが,同日のうちに治癒手術が完了できたことは大きな改善であると筆者らは考える。しかし,保険上の問題,検査室などの運用面の問題があり,導入に際しては各施設で十分な検討が必要である。
甲状腺全摘術後の副甲状腺機能の評価におけるIOPTHについて
副甲状腺機能低下症は甲状腺全摘術の代表的な術後合併症の一つである。それを防ぐには副甲状腺の血行をつけてin situに残すか,摘出された副甲状腺を細切し,筋肉内に自家移植することが推奨される。我が国と異なり入院期間や治療コストを重視する欧米では,一過性の低カルシウム血症の発生は重要な問題ととらえている。術後カルシウム補充を要する,ないしはテタニーなど有症状の低カルシウム血症が発生するか否かを早期に判断することで患者のQOLの向上や入院期間の短縮に役立つ。甲状腺全摘術後の低カルシウム血症の安全な管理方法には3つの方法がある。継続的な血中カルシウム値のモニタリング[21],一律なカルシウム剤の投与[22,23],周術期PTH値測定を用いた管理である。術後カルシウム値の継続的な測定は広く行われているが,入院期間の延長が認められるため海外では問題視される。一律的なカルシウム剤などの投与は低カルシウム血症の症状発現を抑制し入院期間の延長を防ぐには有効とされているが,過剰ないしは過小な処方量でカルシウム値異常による再入院なども懸念されている。Loら[24]は甲状腺全摘術においてIOPTHを用いて術後低カルシウム血症の予測について検討した。IOPTHは麻酔導入直後,甲状腺摘出直後,その後10分後の3点において血液を採取した。10分後の値が75%以上低下していなかった症例では術後24時間の血中カルシウム値は低下していなかった。彼らはIOPTHによる術後低カルシウム血症の発生を選別でき,入院期間の短縮につなげうると結論している。その後,この報告を受けて多くの報告が相次いだ[25~29]。LoらはPTHの低下率に着目したが,その他多くの報告ではPTHの絶対値をもって判定している。多くは10pg/mlを閾値として採用しているが,血液サンプルの採取のタイミングや判定基準の違いにより成績の相違が示唆されている[30]。
一方,これらは一過性の副甲状腺機能低下症(低カルシウム血症)についての検討であるが,永続的な副甲状腺機能低下症の発生予防も考慮しなければならない。先に述べたように甲状腺全摘術における副甲状腺の取り扱いは血行をつけてin situに温存するか,自家移植するかである。しかし,術中にin situに残した副甲状腺ははたして十分に機能してくれるのかどうかの判断は容易ではない。機能しない副甲状腺は温存せずに自家移植することで永続的副甲状腺機能低下症の発生を防ぐことができるが,せっかくin situに残せた副甲状腺を自家移植するには躊躇する。当院での取り組みについて述べる。当院では術翌日にPTHを測定しているが,術翌日のPTH値,自家移植副甲状腺数と術後副甲状腺機能正常化率との関係を調べた。対象は2009年1年間に当院で甲状腺全摘術を行った426例である。術翌日のインタクトPTHの値により4群(A:5未満,B:5から10未満,C:10から15未満,D:15以上)に分けた。それぞれの群で移植自家移植副甲状腺数による副甲状腺機能正常化率を比較した(表2)。その結果,副甲状腺機能正常化例は副甲状腺自家移植数2腺以上か,術翌日のインタクトPTHが10pg/ml以上であれば永続性副甲状腺機能低下症の発生がほぼ防げることが示された。これらを踏まえると,DiFabioら[29]が示唆したように術中のPTHの値(低下の程度)によりin situに残した副甲状腺をそのまま残すか,自家移植するべきかを判断できる基準を現在,鋭意検討中である。
おわりに
甲状腺・副甲状腺手術における術中迅速PTH測定の有用性について概説した。この測定法を導入することでより安全・確実に手術が遂行される。しかし,保険制度の相違による部分も多々あり,海外と日本では本手法についての議論は温度差がある。コストや運用の点で導入を躊躇している施設もあると思うが,導入により得られることも多いと著者らは考える。
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